八年後 17 高田馬場駅にて
高田馬場駅に着き、ラインで事前に決めておいた場所に行くと、果たして高山隼人がそこにいた。もちろん、見てすぐにそれが高山隼人であると分かったのは飲み会で会った経験を持つ鶴川だけであった。
「あっ、いたいた。あれが高山君だよ」
鶴川がそう言うと、阿川と双葉はそれぞれ、
「高山君…あのショッキングピンクのシャツはちょっと…どうかと思うなぁ」
「想像していたよりも可愛らしい方ですわね。白い毛がホヨホヨと生えていて、素敵ですわ」
と感想を述べた。鶴川が『何を言ってるんだ?こいつらは』と思って本物の高山がいる方に視線を向けると、高山の右三メートルほどの場所に、ショッキングピンクのシャツを来た、とても太った中年女性が不機嫌そうな顔で立っていた。その女性の足元では、チワワが『キャン!キャン!』と、けたたましく吠えていた。そして両者はリードで結ばれていた。
「お前ら…二人とも、どういう間違え方してるんだよ…。高山君がショッキングピンクオバチャンなわけないし、ましてチワワであるはずが無いでしょ!あの女性の横にいる、白いシャツを着ている男性が高山君だよ!」
鶴川の言葉を聞いた二人は白いシャツの男性に視線を移した。身長百八十センチはありそうなスラリとした長身の美男子がそこに立っていた。
「えっ!あれが高山君!?なんか、思っていたのと違う!」阿川が驚いた顔で言った。
「ほ…本当ですわ…!全く…イメージと違います…もっとこう…地下の牢獄に二百年くらい閉じ込められていた感じの憔悴感と言いますか…引き千切られた泥だらけの囚人服を着ていて、二百年お風呂に入っていないようなズタボロ感のあるお方だと想像しておりました、わたくし…」
「ボクは古代ローマの剣闘士、スパルタクスを想像していたよ。第三次奴隷戦争のリーダーで、めちゃくちゃ強かったんだよ。スパルタクスがタイムスリップして現代の大学生となって現れて『我々は戦う!友達を作るために!』とか叫びながら、上半身裸で剣を片手に、十万の仲間を率いて泥まみれで駅前に立っているのかと思ってた」
「普通に銃刀法違反で逮捕されるだろ、それ。お前ら二人とも、いい加減にしろよ!いくらボケ担当だからって、勘違いにも程があるッ!古代ローマの奴隷反乱のリーダーがJRの駅前に立ってるわけないだろ!」
鶴川が口を尖らせてそう言うと、双葉が目を丸くした。
「わたくしはてっきり、部長が先日の飲み会でスパルタクスやチワワと談笑して仲良くなったのかと思っておりましたわ!」
「そんなわけないだろッ!双葉、お前ってやつはボケ担当として相変わらずキレッキレだな…。さすが、俺が書いている小説でも二話目で早くもボケをかましているだけのことはある」
「あらいやだ。それってどんなボケかしら?」
「初めて部室に来た工藤さんに、いきなりアツアツのたこ焼きを勧めるんだよ!」
「オーッホッホッホッ!そんなこともありましたわね。しかしわたくしは半分くらいは自覚を持ってボケておりますのよ。完全に素でボケているスネ夫さんとは違いますわッ!」
「ちょっと…小山さんまでボクのことスネ夫とか呼び始めてるし。やめてよね!」
阿川は抗議したが、双葉は「オーッホッホッ!冗談ですわよ!」と笑っていた。鶴川は高山隼人に向かって「高山くーん!」と声をかけた。高山はそれまで違う方向を見ていたが、弾かれたように鶴川の方を向いて、とても優しそうな笑顔を三人に見せた。夕方ではあったが空はまだ明るく、穏やかな空気と心地良いそよ風が、皆をやわらかく包んでいた。




