60話 梟の昼食
重苦しい「何か」の重圧を引きずったまま、一行は街へと帰還していた。
自由部族連合の『梟』のアジト。広々とした食堂の円卓には、豪快に焼かれた肉の塊と、樽いっぱいのエールが並べられていた。
「食べよう。腹が減っていては、何の算段も立てらない」
レノはナイフで肉を切り分けながら、淡々と言い放つ。
ゾラやバムが遠慮なく肉に食らいつく中、ミラは腕を組んだまま、テーブルの上の地図を険しい目で見つめていた。
「いずれにせよ問題は空に浮かぶ難攻不落の要塞に戻ること、ですね。」
レノは口元をナプキンで拭う。
「まともに攻めれば、間違いなく辿り着く前に全滅する。
あの城には、昨日俺たちがミンチにした天使型ゴーレムを無限に生み出す工場があるはずだ。おまけに、アークの話じゃ防衛用の結界と魔力砲台の嵐。空を飛べる有翼族にしか到達できない、完全な絶対防衛圏だ」
絶望的な戦力差。だが、レノの瞳から光は消えない。
「そうなると戦略はほぼ一つに絞られるな。……問題は、どうやって空を飛ぶか、だ」
飛竜では火力が足りない。魔法で浮遊させるには限界がある。
沈黙が落ちた円卓で、アークが静かに口を開いた。
「……船があるぞ」
「船、だと? 空を飛ぶ船なんておとぎ話――」
レンジが鼻で笑いかけた言葉を、アークの真剣な眼差しが遮った。
「轟鉄公国。
ドワーフ族の工房都市の地下深くに、やつらが極秘裏に建造していた未完成のバケモノがある。魔力炉心で駆動する、空飛ぶ鉄の塊……浮遊戦艦『暁』だ」
「ほう……?」
レノの目が、鷹のように鋭くなる。
「私がグリムバールというドワーフと交わした盟約がある。
あいつなら、必ず船を完成させているはずだ。あれを使えば、防衛網ごと空の城壁をぶち抜ける可能性もゼロじゃない。」
「……最高だ」
レノはテーブルに身を乗り出し、神妙な笑みを浮かべた。
「圧倒的な質量と火力を持つ『盾』。それにレイカがいればーーー盤面をひっくり返せる」
名指しされたレイカは、無表情のまま自分を指さして頭を傾げた。
レノはすぐさま羊皮紙を引き寄せ、羽ペンを走らせる。
「戦艦で城の正面から派手な陽動を仕掛け。上陸後は3部隊に分かれてダメージを最小化しながら敵の戦力を分散させる。
敵の防衛システムの密度が下がっている隙に、少数の潜入部隊が鳥に変身したレイカとともに死角から中枢へ突入し、天翼族のトップを直接叩く。」
それは、一歩間違えれば陽動部隊が全滅する囮作戦でもある。
「気づいたら魔王様とか昔話に巻き込まれてるけど、まぁ自分がおとぎ話に出るのは悪くないな」
レンジが笑う。ゾラも、バムも、笑みを浮かべて頷いた。
「良いだろう、私が玉座を手にした先の世界で、褒賞を与える。」
アークの深紅の瞳に、再び王としての闘志が燃え上がった。
なんて事はない昼飯の席で、歴史を動かす作戦が可決されたのであった。




