54話 梟の隠れん坊
レノが三大ファミリーを支配下に置き、血の五箇条によって街の秩序が安定し、『梟』の実質的な支配体制が確立しつつあった頃。
ミラの情報網が奇妙な噂を拾った。
『旧太陽王国方面から、凄腕の魔法使いと奇妙な魔導師の二人組が流れてきた』
執務室で報告を受けたレノは、眉をひそめた。
「……第一のレンジとレイカだよな。王国⋯を支配した森羅シルフヴェール帝国からの追手か?
あるいはエルフ族の支配下に入るのに何か支障があって、俺たちと同じ境遇か。」
「可能性は五分ですかね。
二人だけで我々を制圧できるほどの実力がありますが、だからこそ亡命者など小賢しい芝居を打つ必要が分かりません。人柄的にも、一計を用いるタイプではないと思いますが・・・
接触しますか?」
ミラの問いに、レノは慎重に首を振った。
「いや、泳がせよう。もし旧王国の残党か帝国の密偵なら、何か動きを見せるはずだ。
絶対に接触を避けるよう、全員に徹底させよう。特にゾラはね。」
翌日の午後、中央広場の雑踏にて。
レノはフードを目深にかぶり、顔をターバンで隠したゾラの巨体を盾にするようにして歩いていた。
そのわずか数メートル横、露店の陰で、ゴーレムの手入れ用オイルを吟味している青年がいた。レンジだ。
「チッ、どう考えてもあの軍師だと思うが、どいつもこいつも『梟』の話はしてくれない。」
レンジがぼやきながら顔を上げた瞬間、レノはちょうど角を曲がるところだった。互いの視線は、ほんの一瞬、交錯すらせずにすれ違う。
レノは背後の気配に気づくこともなく、雑踏へと消えていった。
「……お腹すいた」
背後から無機質な声がした。小柄な少女――レイカが立っている。
「ああ、悪い。今戻る」
二人が逗留している安宿の一室。
レンジが窓を開けると、一羽の小さな鳥が舞い込んできた。それは窓枠に止まると、まるで熱された蝋のように輪郭を崩し、ドロドロとした銀色の液体へと変化した。
液体は床を這い、椅子に座るレイカの足元へと吸い込まれていく。彼女のメイド服の一部が波打ち、瞬時に同化した。
「あの可愛いネコさん、この街にいるみたい。ここはカーペットないし、耳もらえるかな」
彼女は錬金術によって生成された、全身が流体金属で構成された人工生命体であった。彼女の体の一部を切り離して形成した鳥を斥候として放っていた。
「だから耳を切り取ったらダメだって。
しかし、軍師殿は俺がヤマトからの刺客として送り込まれたと思って警戒してやがるな。相変わらず疑り深いようで。
まぁ、こっちからノコノコ出向いても、罠に掛けられるのがオチだ。……なら、向こうが俺たちを頼りたくなるような、デカい『貸し』を作ってやるしかねぇな」
旧知の仲だからこその、ヒリつくような探り合い。二組は同じ街にいながら、静かに好機を待っていた。




