52話 梟の破壊者
自由部族連合で最も格式高い高級レストランのひとつ『黄金龍の丸焼き亭』は、異様な緊張感に包まれていた。
店は完全に貸し切られ、入り口の外には重武装したゴロツキたちが壁のように立ち並んでいる。
フロアの中央、長いダイニングテーブルの奥の席に、レノは一人で座っていた。背後には不満そうな顔をしたゾラが立ち、隣には分厚いファイルを持ったミラが控えている。
対面に座るのは、街の裏社会を牛耳る三大ギャングのボスたちだ。
「……で? 流れ者の傭兵風情が、俺たち三人を呼び出して何の用だ?
面白い噂を聞いたから来てみれば、こいつらも一緒とはな。」
麻薬利権を握るガリアノファミリーのボス、隻眼の狼獣人が葉巻の煙を吐き出しながら威圧する。
「みかじめ料の交渉なら他を当たれ。ここはお前らのような小悪党が座っていいテーブルじゃねぇんだよ」
ボスたちが下品に笑う中、レノはステーキを優雅に切り分け、口に運んだ。
「……肉が冷める。座って食べたらどうだ? 今夜は我々の奢りだ」
「ナメてんのか、ガキがッ!」
歓楽街を仕切るマッシ一家の豚獣人がテーブルを叩く。「今すぐテメェの頭を吹き飛ばして――」
「ミラ」
レノがナイフを置くと同時、ミラが三つの薄い封筒をテーブルに滑らせた。
「……なんだこりゃ?」
「開けてくれ。『贈り物』だ」
いぶかしげに封筒を開けたマッシー家のボスの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「なっ……! なぜテメェが、このリストを……!」
「あれ、協定違反の麻薬の売買リストを拾ったからガリアノファミリーに渡そうと思っていたのだけど。うちの副官が渡し間違えたのかな」
狼獣人が立ち上がろうとするが、レノは視線だけでそれを制した。
「あんたに渡した封筒も見てみろ。……お前が長年、隣のシマからピンハネしていた証拠の裏帳簿だ。エルフ族の貴族と裏取引していたリストもある。エルフの監査官に渡ったら、さぞ貴族からは恨まれるだろうな。」
「テ、テメェら……! こりゃ宣戦布告ってことだな、ただで済むと思ってんのか!」
最も血の気が多い流通系のボス、巨大な熊の獣人が激昂し、懐から魔銃を抜いてレノの眉間に突きつけた。
「金や帳簿がなんだ! ここでテメェの頭を吹き飛ばせば終わり――」
その瞬間。
ーーードンッ、と。
レストランのテーブルの中央に、血まみれの麻袋が投げ落とされた。




