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地球はダンジョンの第100階層だった ~流れ着いた魔女と聖女と姫を養うため、貧乏符術師は除霊会社を始めます~  作者: 星灯ゆらり


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第10話 魔法少女のキャラ弁と中等部の来訪者

「「むう」」


 何故か俺の隣になった百夜(ももよ)と一緒に数学の授業を受ける。

 俺は特待生だが直接商売に関係しない科目は不得意だし、百夜は非常に頭は良いがこの国の文字にはまだ不慣れだ。

 結果、授業から脱落寸前のふたりになってしまっていた。


『一般科の鈴木くん。学年主任がお呼びです。至急、第4生徒指導室へ向かってください』

「社長。何かしたのか?」

「俺は模範的生徒のつもりですよ。先生、呼び出されたので退出していいでしょうか?」


 百夜に応えてから教壇の教師に許可を求めると「お前なにかやらかしたのか」という顔をされてしまった。

 失礼な。

 拝み屋としても高校生としても、俺くらいに善良な人間は少ないと思うぞ。



  ☆



「来たか」


 第4生徒指導室には、学年主任だけでなく、昨日俺と騒動に巻き込まれた教師もいた。

 昨日はジャージ姿だったが、今日の教師はスーツにダンジョン科を示す記章がとりつけられている。


「一般科の鈴木です。放送で呼び出されたので参りました」


 席はあいているが座らない。

 傍若無人にふるまっていいのは、敵に対してだけだ。


「鈴木くん。昨日のことだが」

「お待ちください。理事長直々に箝口令が出ているはずです。それに、生徒である鈴木に質問をしても、専門家としての回答はしてくれないでしょう」


 昨日の荒っぽい口調とは打って変わって、社会人らしい態度をとっている。


「一般科の生徒に被害が出ているのに、かね? 君はダンジョン科の教師だから関係ないと?」

「そんなことは言っていません」


 俺は小芝居を見せられているのだろうか。

 曖昧な表情を浮かべて、理解していないふりをする。


「鈴木くん」

「はい。何の御用でしょうか学年主任」


 俺は表面的には礼儀正しく、利益がないなら何も言わないと態度で表明する。

 実際、昨日のことは生徒としては何も言えないし、拝み屋としては理事長と紳士協定という名の実質不戦条約を結んだので言うことができない。


「っ……」

「学年主任、ここは私が。聞いた内容は共有しますので」


 教師は丁寧な言葉と態度で、しかし有無を言わせず学年主任を部屋の外へ連れ出す。

 そして、学年主任が去ったのを目で確認すると、第4生徒指導室に戻って鍵をかけた。


「助け船を出してくれてもいいだろう」

「生徒としては何も言えませんよ。俺に詳しく説明させたいなら理事長から許可をとってください。……どうぞ」

『小僧。連絡先は教えたが気楽に呼び出すでないわ』


 スマホで理事長を呼び出してから教師に渡す。

 教師は90度の角度で何度も頭を下げながら、驚くべき手際の良さで必要なことを聞き、全力で感謝を述べつつ通話を終えた。


「俺を虐めないでくれ」

「虐められているのは俺だと思いますよ。俺は妙な噂が立つだけで特待生の立場を取り上げられかねない弱い立場なんです」

「ギルド長を直接呼び出せるのによく言う」

「理事長ではなくギルド長ですか。先生は冒険者出身ですか?」

「ギルドからの出向だ。向こうのダチには元拝み屋もいる。鈴木のことを聞いたらダチから心配されたぞ。よく殺されなかったな、とな」

「名誉毀損ですよそれは」


 俺は冗談を飛ばしてから肩をすくめた。

 拝み屋組合の火消し(トラブルシューター)ではあるが殺し屋ではない。

 冒険者に転職した拝み屋と組合は喧嘩別れはしていないので、遺恨はないはずだ。

 俺を巻き込んだ冗談、だよな?


「なあ。どうにかする方法はないか? ダンジョン科と一般科の雰囲気が最悪なんだ」

「それは仕方ないでしょう。被害がかすり傷でも暴行は暴行です。事情があったとはいえ事実は消せません。それに、あの程度で自制心を失う程度の奴に、レベルアップはしてもらいたくないですよ」

「それは強者の視点だ」

「大部分の人間にとって冒険者は強者です」


 クソみたいな話だ。

 冒険者業界にも国の支配が行き届いているなら法にもとづいて処分すればいいだけなのに、したことを考えると軽い罰しか受けていないダンジョン科生徒が、そのまま学校に残っている。

 もちろん理事長が手を回して二度とあんなことが起きないよう徹底的に管理されているが、実際に被害を受けた一般科生徒にとってはたまったものじゃないだろう。

 今日、百夜が歓迎されたのも、一般科に編入されたからだ。

 ダンジョン科の生徒が襲ってきても百夜がいれば撃退してくれるという、ひどく原始的で、切実な価値観からの好意だ。


「だがこのままではろくなことにならん」

「物理的に接触しないようにするくらいしか、現実的な手段はないと思いますよ」

「……そうか」


 教師は肩を落とす。

 俺は退出の許可をとって教室へ向かうが、途中で、ダンジョン科の生徒からの視線を浴びる。

 昨日暴れたダンジョン科生徒ではなかったので、少し気になった。



  ☆



「社長! 一緒に食べるぞ!」

「ねえ百夜さん、鈴木くんのことは名前で呼ばないの?」

「うむ……。社長が許してくれないのだ」

「名前が好きじゃないんですよ。なかなか進みませんが改名手続きもしていますし」


 普段はひとり静かに昼食を食べているのに、今日は百夜を含む大勢の女子生徒と一緒に食べることになってしまった。


「意外。百夜さんってキャラ弁なんだ」

「社長が作ってくれたぞ!」

「「「えっ」」」


 異常なものを見る目を向けないで欲しい。


「弁当作りに性別は関係ないでしょう」

「え、でも」

「これはちょっと凝りすぎじゃないかな」


 現在放送されている魔法少女アニメのキャラ弁当だ。

 なお、姫さんにはヒーロー特撮もののキャラ弁。

 聖女さんと俺の弁当は、残りの材料とおかずを使った弁当だ。


「ねえ百夜さん、進路どうするの?」

「やっぱり冒険者? ダンジョン科には行かないの?」

「あんなに強いのだからダンジョン科は必要ないでしょ!」


 ダンジョン科という言葉に嫌悪がこもっている。

 遺恨は長く残りそうだ。


「個人的にはダンジョンに興味はないが、必要なら潜って稼ぐつもりだ。夫を支えるのが妻の役割だからな」

「鈴木くん……」

「企業経営うまくいってないの?」


 得意げな百夜と、少し冷たい目で見る女子生徒の温度差が激しく、精神的に風邪を引きそうだった。



  ☆



 本日最後の授業が終わり、ホームルームが始まる。

 帰宅経路が妙に具体的に指定された。

 おそらく、ダンジョン科の生徒との接触を可能な限り減らすためだ。


「社長の部活に一度顔を出したかったのだが」


 百夜の周囲には、女子生徒だけでなく男子生徒も集まっている。

 圧倒的に強く、それでいて無関係の人間には決して手を出さないという安心感があるのだろう。

 百夜が信頼されているのは、俺もとても嬉しい。


「百夜はみなさんを送ってあげてください。最近物騒ですしね」

「社長も油断しないようにな」

「はい」


 別れを告げて部室へ向かう。

 少し前に感じた視線と気配を、また感じた。


「何か御用でしょうか」


 生徒会長に似た顔立ちの少女たちが、肉食獣に追い詰められた小動物のような態度で、俺を見上げていた。



  ☆



「どうなっているんです」

『ふむ。小僧に初手全力土下座とは見込みがあるのう』


 スマホから聞こえる怪異の声が愉快そうだ。


「俺を舐めているなら札のひとつもプレゼントしますよ」

『怖いのう。いやマジで怖いからやめてくれんかの!?』


 俺が本気で苛立っていることに気付いた怪異が慌て出す。

 俺に挨拶に来た少女たち……怪異の血は引いているが明らかに『薄い』彼女たちに、書道部の部室の席に座るよう促す。


「おや? 鈴木くんが女子生徒づれとは珍しい。中等部の子たちだね」

「部長。お騒がせして申し訳ありません」

「いいよいいよ。ただし静かにね。そこの子たちも、鈴木くんは、ちょっと怖いけど紳士だから、怖がらないであげてね」


 俺の事情を察しているのに聞いてこないでくれる部長が、少女たちに優しく微笑んでから「お茶をとってくるよ。5分くらいかかるかな」と言い残して部室から給湯室へ向かった。

 これまでも俺の平和な高校生活に協力してくれたが、これでますます借りが大きくなった。

 借りを返す機会があればいいという思いと、拝み屋が借りを返す機会なんてない方がいいという思いの、両方が頭に浮かんだ。


「……座ってください。俺についてどんな話を聞いたのかは知りませんが、学校での俺は普通の高校生ですよ」

「「「は、はいっ」」」


 しっかりしつけられた子たちだろうに、動きが非常にぎこちない。

 彼女たちが最低限おちつくまで、3分くらい必要だった。


「それで、俺に何か用かな? 生徒会長と似たような用ならお帰り願いたいけど」


 あのクソ、露骨に俺を籠絡しようとしてやがるからな。

 百夜がやって来てからは姿を消したが、万一聖女さんや百夜に勘違いされたらどうしてやろうか。


「あのそのっ。姫ちゃんとダンジョンに潜る約束してるんですけど、姫ちゃんとこれからも友達づきあいを許して頂けるか、伺いたくて」


 代表して発言した子が、緊張でつっかえつっかえ言って、途中で泣きそうになったが最後まで言い切った。


「ひぃっ」

「失礼。殺気が漏れました」


 俺は少女たちに対する警戒心を数段階引き上げた。

 姫さんは、俺と百夜と聖女さんの被保護者だ。

 極めて高い戦闘力は持っていても子供でしかなく、姫さんが籠絡されたら俺たちにはどうにもならなくなる恐れまである。

 俺は、怪異相手の通話を即座に切断して姫さんに発信した。


『おにいちゃん? 今いいところなんだけど』

『『『うおおっ! シルバーゴーレムを逃がすなぁ』』』


 姫さんは、野良パーティに参加して、元気にダンジョン攻略中らしい。


「姫さん。この子たちに見覚えありますか?」

『あ、みんなげんきー? 次のどようび、やくそくだからね!』


 少女たちにカメラを向けると、姫さんが元気に声をかける。

 多少引きつってはいるが、俺に向ける表情とは違って安堵の表情を浮かべた少女たちを確認して、俺は少しだけ警戒心を緩めた。


「どうやら、本当に姫さんの友人のようですね。事情を詳しくお伺いしてもいいでしょうか」


 俺は『怪異の関係者』ではなく『姫さんの友人』に対する態度に切り替える。


「「「ありがとうございますっ!」」」

「……鈴木くん。年下を虐めては駄目だよ?」


 お盆で人数分のお茶を運んで来た部長に、俺は深く頭を下げるのだった。


お読みいただきありがとうございます!

次回(第11話)は、明日11月8日(日)19:10に更新予定です。


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