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『新宿、新宿です』
どうやら、電車が駅に到着したようだ。僕はスマホを見ながら、ちらっと見える前の人に
続く。
既に僕が入るころには電車の中は人がいっぱいだった。
これ以上はもう入りそうもないのだが、一人の女性が身体を押し込んで無理やり入ってき
た。それにもう一人、もう一人と続く。流石にもう無理だ、勘弁してくれと思っていると、
遠くから駅員がやってきて、僕たちを押し込む。そうして満員ギチギチになった電車が、
僕たちを乗せて出発する。
こうなったら、僕はもう身動き一つ取れない。片足も浮いていてまともに立つことすら出
来ない。
何だこれ… 今僕どういう体制だ… ?
そう思う暇も既になくなっていた。
こんな体制なのに、僕はなんとか右手を動かし、スマホを取り出して、それを顔の前に持
ってきて、画面を見つめた。
そうしていくうちに、いつしかこの混雑も忘れてしまっていた。
これが僕の日常だ。
『世界で最も安全な国』
日本。
ご飯も美味しく、お店でカバンを置いてトイレに行っても盗まれることのない、安全神話
があるこの国。
毎日電車で会社に通っていると、それをよく実感する。椅子に座り気持ちよく寝ているサ
ラリーマン。いつ財布を盗まれてもおかしく無い状況の満員電車で、殆どの人がスマホに
夢中になって注意力散漫だ。
みんな何のために生きてるんだ。
たまに僕は、自分自身がわからなくなる。自問自答しているうちに、それすらもどうでも
よくなって、スマホの中の情報に夢中になる。
僕も同じだ。この人たちと何も変わらない。ただの一人の人間。
こんなことを考えながら、会社帰りにくたびれたスーツを身に纏い、黒の四角い手さげ鞄
を胸と腕の隙間に挟み、スマホでどうでも良い明日には忘れる程度のニュースを見漁って
いる。ポケットに入っている財布は、今コッソリ盗まれても気が付かないだろう。
『芸能人の〇〇が不倫関係を暴露… 』
『少年の凶悪犯罪を無くすには… 』
『若者失踪率が三年連続上昇… 』
興味ある記事をタップする。
『… 近年、若者の失踪率が増加し、全国で三〇代以下の若者が年間何万人も理由なく失踪
しているという事態が発生しており… 』
ここまで見て、記事を閉じる。
興味ない。
しょうもない。
日本の未来は明るいだって?
明るいのはスマホの画面だけだよ… 。




