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16. 変わって、変えて心機一転!

お久しぶりです。多忙が落ち着いたと思ったら、体調不良でダウン……ようやく、復活できました。

 10年。口にすれば一言だけど、その月日は決して短いものじゃない。



 10年前、兄は1人で家を出て行った。



 10年後、兄はいくつもの博士号を取得して、商売をしていて、グロリアという綺麗な婚約者がいて、上級精霊とも契約をしていて、ダンジェ伯爵の位を継いでいる。まるで、マンガかラノベの主人公みたいだ。顔は、主人公というよりは参謀ポジションっぽいのに……。

 主人公顔なのは、ライオット様の方よね。幼い頃、ライオット様のことを絵本の王子様のようだと思った記憶があるけれど……今の彼はワイルド系の騎士様。彼が素敵なのは、今も同じよッ!



 コホン。──で、わたしはというと、この10年、特に代わり映えはしていない。特に前世を思い出すまでのわたしは。空気を入れる先から空気が抜けていくポンコツも同然だったと思うの。

 でも! 思い出してからは違うわ! まず、空気が抜けていく穴を発見して、塞いだの。次に、今の環境では、ブスブスと穴を開けられる一方だから、兄シルベスターの所へ避難することを決意したのよ。




 旅先であっても、ずっとわたしを気にかけて下さっていたから、訪ねて来た妹を追い出したりはしないだろうっていう、希望に縋ってのことだったけど……まさか、兄の養女になるなんて………!

 世の中、何が起きるか分からないものねえ。

 でも、わたしは1人じゃないんだって、ちゃんと困った時には助けてくれる家族がいるんだって分かって幸せよ。

 ──1人で我慢していたことがバレバレだったのは……恥ずかしくて穴に埋まりたい案件だけれども。



 それはともかく、今日は平日。本当ならセールヴィへ行かなくてはいけないのだけど、

「色々、面倒で気鬱だろう? 行かなくていい」

 と朝食の席で兄が一言。兄だけでなく、グロリアとライオット様、ディセルたちまでもが、行かなくていいとおっしゃる。セールヴィへ行かない代わりに、

「イツィンゲール女学院の見学に行きましょう」

 そういうことになった。



 卒業生でもある義姉から聞いた話によると、女学院は見学自由らしい。

 だからと言って、突然訪ねていくのは不作法ですから、きちんと連絡するように、との言いつけも。それはごもっともなので、「では、先方に連絡を入れなくてはいけませんね」

「大丈夫ですよ、ステラ。リーブス男爵夫妻がお帰りになられた後に、連絡を入れていますから」

 にっこり、笑うグロリア。兄とライオット様は、さすがだと手を叩いている。何て、手回しのいい……。



 先方から「午後でしたらご案内できます」という返事が届いたのは、10時ごろだった。



「どれをお召しになられますか!? お嬢様っ! これだけあれば、選び放題ですよ!」

 ふんすふんすと鼻息荒く、ディセルが次々と服をクローゼットから出してくれる。

 学校見学なのだから、派手なのはナシ。でも、地味過ぎるのもちょっと……ということで、ギャザー付きのブラウスとアップルグリーンのスカート、ボレロを選んだ。

 スカートは、ギンガムチェックなので、大人しすぎるということもない。ボレロの袖やスカートの裾からは、短めのレースも見えていて、女の子らしさをさり気なく主張。

 ボレロには、小ぶりのマーガレットのコサージュも付けて、帽子を被り、準備完了。



 女学院の見学は、わたしだけではなく、グロリアも一緒に行くことになっている。玄関前で待っていてくれていた彼女は、今日も麗しゅうございました。ペパーミントのジャケットは、チャイナ服っぽいデザイン。マーメイドラインのロングスカートには、白い花の刺繍。これって、リンクコーデよね!? 仲良しアピール、嬉しい~。



 女学院へは、馬車で向かう。距離の問題もあるけど、普通の貴族は、あまり徒歩で出歩かない。午後ともなれば、必ず馬車を使う。つまり、先日のわたしの行動は非常識ということになるのだけど……逆に言えば、そうせざるを得ない状況にあったという、ことでもある。



 馬車に乗り込み、屋敷から2ブロックほど離れた頃、

「ねえ、グロリア。シール兄様とはどんな風に知り合ったのか、教えて下さる?」

 兄の前ではちょっと聞きづらかったことを聞いてみた。

「それは構いませんが……ステラ、その言葉遣いは──?」

 言われると思ったわ。あなたの義理の妹(予定)は、今更ながらに気付いたのよ。

「だって、グロリアはもうすぐシール兄様と結婚するのでしょう? だったら、わたしのお義姉様になるのですもの。昨日までのような話し方では失礼だと思い至りまして──」

 義理の姉になったから、はい今から言葉遣いを改めましょう、なんて器用な真似はできないと思うのよね。だったら、今の内から慣れておくべきだと考えたわけ。ただ、リア義姉様とか、グロリア義姉様とはまだ呼べそうにない。



「……そういうことでしたら、やめて下さいとも言いづらいですね。先日も申しましたが、私は身分がとても低いものですから──」

 グロリアは、出身地であるシュアイアの町で、踊り子をしていたらしい。踊りを披露するのは、立派な劇場などではなく、いわゆる見世物小屋。いくつもある出し物の1つとして、踊っていたそうだ。

「旦那様との出会いは、最悪でした。旦那様を慕う気持ちはありますけれど、あの時のことを思い出すと今でもこう……にっちもさっちもいかない、ぶつけどころに困るモノが……」

 グロリアの両手が、わきわきと動いている。なるほど。一昨日、様々な赤がマーブル状に混ざり合って、バーニングしていたのはちょっとの怒りと恋心の仕業でしたか。



「何があったのか、聞いても良いのでしょうか?」

「話せば長くなりますので、初めと最後だけ。あの人、町の路地裏に私を引っ張りこんで、あろうことか、人身売買に関わっているだろうと、私に難癖をつけて来たんです」

「え!?」

「そうなんですか!?」

 わたし以上にビックリしていたのが、ディセルだった。──何があっても良いように、一緒に来てくれているのよ。彼女は「失礼しました」と頭を下げるも、

「私たちが雇われた時には、もうグロリアさんと一緒にいて、今みたいな感じだったんですよ? さぞかしドラマチックな……出会いには違いないですね……」

 グロリアは「ドラマチックでも、ロマンチックとは、無縁でしたよ」とため息をつく。



「私がいた見世物小屋の経営陣たちに人身売買に関わっている容疑がかかっていて──それに私も加担しているのではないかと。もちろん、言いがかりです。そもそも、人身売買に関わっているかもという話自体、私にとっては寝耳に水でしたから」

 あの小屋にいるというだけで犯罪者扱いなんて冗談じゃない! とグロリアは怒り心頭。自分の身の潔白は自分で晴らすと意気込み、スパイとして兄の指示に従い、働くことにしたのだそうだ。



「あの時は、旦那様をやり込めてやることしか考えていませんでしたね……」

 黒い。黒いわ、グロリア。目が据わって……。今でも根に持っているのね。

「旦那様ってば、詐欺師呼ばわりされるような人ですからねー。一筋縄ではいかないと言うか、一癖も二癖もあると言うか……」

 うん、わたしもその意見に賛成。



「経緯は省くことにして、最終的に小屋主の悪事の証拠を掴んで、逮捕となり、私の身の潔白は証明されたわけです。さあ、どうだ! 言いがかりをつけたことを謝れと詰め寄ったら、あの人、何て答えたと思います?」

 何かしら? たぶん、気に障るようなことを言ったんだとは思うけど……。

「あの人、あっさり謝ったと思ったら、しれ~っとした顔で『君が無関係なのは、初めから知っていたし』なんて、おぬかしあそばしやがりまして……!」

 おぬかし……顔の骨格が変わるかと思いましたって……相当ショックだったのね。



 何でも犯罪捜査において、精霊の証言や彼らが持つ証拠というのは、役に立たないそうなのだ。ヘルメスのような上級精霊ならともかく、普通の精霊は人の目には見えないものね。

 そこで、使える証言、証拠を提示できる人間の協力が必要だったらしく、

「グロリアに白羽の矢を立てたわけね」

「ええ。事件解決後も少し揉めましたが、最終的に、私があの人のところに押しかけたんです。あの人、私に挨拶もなしに町から出て行こうとなさりやがりまして──!」

 終わり良くても、その間にあったことを完全になかったことにはできなかった、というわけね。兄は、何で初めから全部打ち明けて、素直に協力を求めなかったのかしら? 謎だわ。



「──と、言うことは、押しかけ女房だったんですね、グロリア様! 意外です!」

「えっ?! あ、あぁ……まぁ、そう……なります……か、ね?」

 正気に戻ったので急に恥ずかしくなってきた、というところかしら。グロリアの目が泳いでいるし、頬がちょっぴり赤くなっているわ。カーワーイーイー。

 その後も旅の話を中心に色んな話を聞かせてもらった。兄のことを変わり者でお金持ちの学者だと思っていたら、貴族だと教えられて、詐欺だと思ったとか……。兄ぃ…………。



 女子トークで盛り上がっていたら、あっという間に馬車は女学院に到着。馬車を下りると、

「お待ちしておりました、レディー」

 30代前半くらいの女性が、わたしたちを出迎えてくれた。

「貴方がミス・キャリーですか?」

「はい。そちらは、ダンジェ伯爵婦人とダンジェ伯爵令嬢でお間違いございませんか?」

「どちらも、いずれはそうなる予定ですが、今はまだ……」

 グロリアが恐縮して答えると、ミス・キャリーは「いずれでしたら、よろしいのでは?」とコロコロお笑いになった。厳しそうな方に見えるけど、実はそうでもないのかも知れない。



 この方、イツィンゲール女学院で、数学と簿記を担当されている、先生なのだとか。今は授業がないので、わたしたちの案内を頼まれたのだそうだ。

 女学院はただ今、授業中。なので、校内は静かなもの──と思いきや、ドカン! という爆発音が。少ししてから、煙が上がっているのが見えた。…………何ごと?!



「攻撃法術の演習をしているクラスですね。安全面には、全く問題ありませんわ」

「そ、そうですか。……あの、女性であっても、攻撃法術を学べるのですか?」

「もちろんですとも。例えそれが、護身術レベルにとどまらない、剣術や体術であっても。中には、魔獣や旅についての勉強を希望する生徒もおりますわ。意欲のある生徒の支援は積極的に。それが、この女学院の教育モットーですから、我々もやりがいがございます」

 答えるミス・キャリーは、とても誇らしげに笑っていらした。

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