1話目 最初で最後の新ルート
「んじゃ、あたしが死なせてあげる」
「うん。お願いするよ」
マンション型ダンジョンの101号室。
出だしで特大のガバをかました僕は、左手だけ白骨化した少女精霊と優しく握手した。
「僕が自決用の薬を飲んだら、ひと思いに頼むね」
「オッケー。――あっ」
骨の指を向けてくる少女。
「ねえ、せっかくだからポン吉のお話しして」
「いいよ。じゃ、軽くつまみながらで」
僕はカロリーメイトを箱ごと渡すと、ここに来るまでの顛末を語り始めた。
◆
昨日、世界に無数のマンションが出現した。
『見たか、ポン吉!? 正月からおめでたいな! 俺らラッキーズが行くしかねえぜ!』
「うん、規制が掛かる前にね」
翌朝、代々木公園に出た2階建てマンションの前に、僕とLは登山装備で立っていた。
「うっし! 俺の調査では、異世界エレベーターで“101の精霊部屋”に行けるらしいな」
Lが、天パをかきつつスマホを操作した。
「中で死んでも、すべてのマンションに2度と入れなくなるだけだってよ」
「そりゃ良かった。死ぬのはヤダからね」
すでに何人かが挑戦しては、中央の扉から「死んだー!」「熊つえーよ!」と出てきていた。野次馬の拍手がシュールである。
「よし、次は僕らだ」
「ほい来た」
僕はスマホで配信を開始した。エレベーターの扉は朱塗りで、△を押すと扉が開く。中は銀色だ。
「うはっ! マジで『異世界』ボタンがあるぞ」
「オモチャっぽい……」
パネルには「9」から「0」まで並び、その下に赤いソレがあった。
Lが押した瞬間、軽い浮揚感。すぐに重力を感じ、チーンと開くや。
「――うおおおおー! 精霊がいっぱいだー!」
広い草原に、色とりどりのミニ精霊が飛び交っていた。
エレベーター脇には看板もある。
――――――――――――――――――――
101 精霊との出会い
・精霊を使役すること
――――――――――――――――――――
「ほっほお! 要は仲間をゲットだな、PKモンみたいに!」
「L~? 僕も外に出たいんだけど」
「お、悪い悪い」
立ち位置を替わったLは、リュックを床に置いて漁り始めた。
「つーかこれ、つっぱり棒でドア押さえられるよな? 10フィート棒の代わりに持ってきてたんだぜ~……と」
Lがドヤ顔で出した直後、そのウザさを隠すかのごとく、扉が閉まった。
ブゥ……ン。
エレベーターが呆気なく消える。
「――あれ? 僕、取り残された?」
なーんてね……。よくある異世界への往来でしょ? すぐ戻ってくるよ。
少しして、配信にコメントがあった。
L:やべえ、ポン吉! 合流できねえ!
「え? どのエレベーターでも来られるよね?」
L:お前のいない101にワープしたんだ!
L:そういや、他のパーティーと鉢合わせた報告とかもゼロだったな!
世界各地から、観光名所なみに転移してくるのなら、本来は人でごった返してるハズだ。
「ってことは……、僕の冒険はここで終わってしまった?」
L:Exactly(そのとおりでございます)
「うるさいよ」
やれやれ、特大のネタが入ったってのに、早くも終了か。全然活かせないのが底辺配信者の悲哀だよ、は~あ。
「アハハ~ッ! ドンマイ、お兄さん!」
出し抜けに少女の声。
キョロキョロするが、誰もいない。
「あぁ、ごめん。《透明》になってたわね」
眼前の空気が揺らぐと、白いレインコートを着た10才ほどの女の子が現れた。
「残念賞で、あたしが姿を見せてあげる。嬉しいでしょ」
「君は……?」
「あたしは、ここのボス! 多分!」
えっへんと腰に手を当てる少女。その仕草で、左手の肘から先が白骨化しているのが目に入る。指先の動きは滑らかだ。
「は~い、握手」
スッと左手を差し出されたので、なるべくソフトに握り返す。――うわっ、やっぱヒンヤリしてる。
パァァアア……。
「なっ!」
空から光が降り注いできた。慌てて見上げると、“次の部屋は133”の文字が大写しになっている。
「これ、は……!」
「アハッ、すっご~い! やっぱあたしって特殊だったのね~!」
少女は小躍りした。
看板にも目をやると、文字が追加されている。
――――――――――――――――――――
101 精霊との出会い
・精霊を使役すること
・上級精霊を使役すること
――――――――――――――――――――
「キャ~! あたし上級だって~!」
「――君はどうやら、普通と違うみたいだね」
「えっへっへー」
フードの中で頭をかく少女。
「でも、あたしね? ずっと使役されるってのもイヤだったのよ」
「――なるほど。それで僕の前に現れたのか」
「そっ! あなたってば、エレベーターで移動できないでしょ? すぐにリタイアだもんね~」
コメント通知がぽこぽこと止まらない。Lだろう。
L:スマホを止めるな! 回せ回せ!!
L:ぶん回すなアホ!
L:画面酔うだろオロロロロ
「やかましい。一人しか見てないから配慮しないぞ」
L:じゃあ、骸骨少女(仮)に質問攻めだ!
「それはそうだね」
しかし少女は、「スゥ」という自分の名前しか覚えていなかった。いつからいるのか、他の部屋はどうなってるのかなど、全て不明。
「かくして僕は、質問ネタも底を尽き、自決薬を取り出すに至ったというわけさ」
「ふ~ん」
気付けばスゥは、カロリーメイトをすっかり平らげていた。
「超おいしかった。もうないの、ポン吉?」
「うん」
「じゃあ、さよなら~」
「現金な精霊だなあ」
僕はスマホを見た。
「L、他に何か聞きたいことある? そろそろ帰るけど」
L:うーむ、さすがに全てを知らぬ存ぜぬではなあ……
L:アレ?
L:お前、透明になってきてね?
「え」
手を翳しても、スマホが透けて見える。
「これ、スゥの能力?」
「んーん、あたしポン吉に使ってないわよ」
L:おいおい! ならワープだぜ!
L:待てば海路の日和ありだオラァ!
「それじゃあ……、133に!?」
L:いけいけ、GOGO!
直後、体が溶けたような感覚に襲われたのち、周りの景色がガラリと変化した。
――――――――――――――――――――
133 耳
――――――――――――――――――――
「おぉーっ、本当に133に来てる……って、アレ?」
見ると、スゥが近くでぷるぷる震えていた。
「なんであたしも来てるのー!?」
「そりゃ、仲間だからね」
「のんびりしたかったのにー! ねえ、戻ろうポン吉!」
「エレベーターないってば」
「あうぅ……ちくせう」
感情豊かな精霊だなあ。
――人類最初の新ルート。
のちにそれは、“最後の攻略ルート”と呼ばれることとなる。
このときの僕は、まだ知らなかった。
未来の人類が、僕を待ってることを。
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