第6話:『深夜のコンビニ』と床に溶けた客たち
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前回までのコミカルな雰囲気から一転し、第6話からは「以前から犠牲者が出ている、よりシリアスで不気味なホラー」へとシフトしてお届けいたします。
身近すぎる「コンビニの自動ドア」の裏に隠された、あまりにも残酷な真実。シオンたちは無事に犠牲者を救い出すことができるのか……?
それでは、少し冷たい第6話、どうぞ。
「……なあ、シオン。ここ、本当にさっきまで俺たちがよく使ってた、普通のコンビニかよ」
ギルドから回された夜間のパトロール中、レイのひきつった声が深夜の住宅街に響いた。
目の前にあるのは、看板の蛍光灯がジリジリと奇妙なノイズを立てて明滅するローカルなコンビニエンスストアだ。だが、そのガラス張りの自動ドアの向こう側は、かつての明るい店舗の面影すらなかった。
【クエスト概要】
対象:都市伝説級怪異『深夜のコンビニに無限に続く、開かない自動ドア』
依頼内容:午前零時を過ぎた深夜、完全に閉ざされたコンビニエンスストアの内部へ突入し、閉じ込められた行方不明者たちの肉体を回収せよ。
難易度:B+ランク
備考:自動ドアの前で入店を試みた者は、一歩も中へ入れぬまま床のタイルと「一体化」します。現在、店内の床や壁には、かつての客たちの顔や手足が浮き出た状態で固定されています。
「……間違いない。あれが、失踪者たちの成れの果てだ」
俺は懐中電灯の光を強め、ガラスの向こう側を凝視した。
店内の白い床タイル。その一面に、おびただしい数の「人間の顔や腕」がめり込んでいた。
ある者は助けを求めるように手を伸ばしたまま固まり、ある者は恐怖に目を見開いたまま顔の半分が床のセメントに埋もれている。彼らはまだ死んでいない。微かにまばたきをし、口をパクパクと動かして、無音の悲鳴を上げ続けていた。
カラン、コロン、と、店内の天井から響くはずのない聞き慣れた入店音が、不気味に響く。
――いらっしゃいませ……。
床に溶けた無数の人間たちの口が、一斉にぐんにゃりと歪み、重なり合ったドス黒い声となって脳内に直接這い入ってきた。
「お腹が空いたの……」「助けて、ここから出して……」「早くレジを通しに来てよ……」
「うっ……頭が割れそうだ……! 見るな、あいつらを見たら、俺たちもあの床に引きずり込まれるぞ!」
レイが両手で頭を抱え、恐怖のあまり膝をつきかける。
「気を引き締めろ、レイ! あの自動ドアのセンサーは、人間が『中に入ろうとする生体反応』を感知して、足元のタイルを柔らかい沼に変える。つまり……」
俺たちは足元を固めるため、持ってきた「工業用の重厚な鉄板」を地面に敷き詰め、その上に乗った。
「生身の人間として近づくんじゃない。――この『無機物の塊』を叩き込んで、センサーの認識を誤認させる!」
俺たちは背負っていたタンクから、極太の高圧ホースを自動ドアの隙間へと無理やりねじ込んだ。
中では、床に溶かされた人間たちが「開けて、開けて」とガラスを爪で引っ掻き、血の涙を流しながらこちらを見つめている。その背筋が凍るような光景を視界の端で無視し、俺たちは一斉にコックをひねった。
ズボボボボボボッ――!!
高圧洗浄機から放たれた凄まじい水圧と、化学反応を起こした腐食性の発泡剤が、店内の床と自動ドアのセンサーを限界まで殴りつける。
『ギャアアアアッ――!? なんだ、この冷たい水は……ッ! 人間じゃない、化け物め……!!』
床に溶け込んでいた無数の顔が一斉に絶叫し、店内の空気が沸騰したように歪んだ。
物理的な過負荷とエラーに耐えきれず、絶対に戻らないはずの自動ドアが、嫌な金属音を立てながら無理やりこじ開けられる。
ガシャアアアアンッ!!
ガラスの割れる音とともに、床に固まっていた犠牲者たちの呪縛が一時的に緩んだ。
「今だ、レイ! 床から剥ぎ取れるだけの遺品と、中央のコアを回収しろ!」
「う、うおおおおっ……!!」
レイは恐怖で震える手を必死に抑え込み、床に埋もれていた犠牲者たちの身分証や私物を素手で引き剥がしていく。
俺たちは剥き出しになった怪異の中枢コアめがけて封印用の魔導スパイクを叩き込み、一気に電流を流し込んだ。
『ウオォォォ……ワレラノ……ショッピングハ……オワラナイ……ッ!』
断末魔の金切り声とともに、コンビニの店内の灯りがプツリと消え、床に溶けていた人々は、まるで最初からそこにはいなかったかのように、さらさらとした砂となって消えていった。
翌朝、静まり返ったギルドのカウンター。
俺たちは泥と冷や汗にまみれ、引き剥がした犠牲者たちの私物を無言でカウンターに置いた。
受付の男は、いつも称えるような不敵な笑みを浮かべることなく、ただ静かに一礼した。
「……ご苦労だった。彼らの魂も、ようやくあの床から解放されただろう」
レイは自分の靴底についた黒い汚れを見つめたまま、青ざめた顔で小さく息を吐き捨てた。
「……二度と、あんなコンビニで買い物なんてできるかよ」
男は次の古い羊皮紙に目を落とし、静かに告げた。
「ああ。だが、街の闇はまだ終わらない。......次の依頼だ。次は少し電波の届かない場所だ。『深夜の山奥のトンネルに現れる、永遠に終わらない電話ボックス』の攻略だ。準備はいいかい?」
第6話、最後までお読みいただきありがとうございました!
床に溶け込んだ人々や、容赦のない怪異の恐怖が少しでも伝われば幸いです。力技で突破しつつも、どこか後味の残るシリアスな戦いとなりました。
次回は第7話、「深夜の山奥のトンネルに現れる、終わらない公衆電話」のお話です。さらなる犠牲者と、耳から脳を破壊する呪いの音声に、シオンたちが防音ギアで挑みます。
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次回もお楽しみに。




