第7話:『深夜の山奥のトンネル』と血塗られた公衆電話
ご覧いただきありがとうございます!
前回の「深夜のコンビニ」編もお付き合いいただきありがとうございました。溶けた客たちのシリアスさにヒヤヒヤしていただいたかと思いますが、今回はさらに恐怖度が増した「旧・黒神トンネル」が舞台です。
そして第7話からは、ギルドの呪術専門家「御厨セツナ」が新たに仲間に加わります!
理論派でビビリなセツナが、シオンたちの「物理と科学で怪異をぶっ飛ばすスタイル」に巻き込まれて絶叫する姿にもぜひご注目ください。
脳を破滅させる殺人音声に、低音スピーカーでどう立ち向かうのか……!?
それでは第7話、どうぞ!
「――断る! 絶対に断るぞ、シオン! なんで俺が、よりによってあの『黒神トンネル』に行かなきゃいけないんだ!」
ギルドの地下資料室。ランプの薄暗い光の下で、新しく加わった呪術専門家の御厨セツナが、青ざめた顔で頭を抱えて叫んでいた。
目の前にあるのは、過去に失踪した捜索隊14名の惨劇を記した警察の捜査資料だ。
【クエスト概要】
対象:都市伝説級怪異『深夜の山奥のトンネルに現れる、終わらない公衆電話』
依頼内容:県境の旧・黒神トンネル内に放置された古びた公衆電話。その受話器を取り、無限に続く呪詛の録音を停止させ、内部から犠牲者の遺品を回収せよ。
難易度:A-ランク
備考:過去にこのトンネルへ踏み込んだ14名全員が「耳から血を流し、全身の骨が不自然にねじ曲がった状態」で発見されています。受話器からの声を聞いた者は、脳の血管が破裂して即死します。
「おいおいセツナ、お前『専門家』としてギルドから派遣されてきたんだろ? 現場の調査はプロの仕事だぜ」
レイがニヤニヤしながらセツナの肩を叩く。
「専門家だからこそ言ってるんだよ! あそこの呪詛はただの霊障じゃない。人間の脳髄をダイレクトに溶かす『指向性殺人電波』の魔力版だ! 私の結界術だって、まともに直撃したら一瞬で脳みそが沸騰するわ!」
「だから、お前の結界で最初の『即死波』を0.5秒だけいなしてくれ。その間に俺たちが物理で公衆電話を粉砕するから」
「正気かお前ら……!? 物理で電話ボックスが壊せるか!」
セツナは半泣きになりながらも、シオンの強引さに押し切られる形で、深夜の山奥へと連れ出されることになった。
午前二時。
街灯一つない深い山中、ひんやりとした湿気を帯びた旧・黒神トンネルの入り口。
コンクリートの壁面は黒ずみ、染み込んだ水滴がポタッ、ポタッ、と静寂の中に冷たく響いていた。
「……っ、空気が重い。入る前から頭の芯がキリキリ痛むぞ……」
セツナは震える手で呪符を何枚も自分の額や胸に貼り付け、ガタガタと歯を鳴らしている。
トンネルの中央付近。そのぽつんと取り残されたように、錆びついた緑色のボックス――「公衆電話」が不気味な薄明かりを放って佇んでいた。
そして、その足元には。
「あっ……嘘だろ……」
セツナの持つランタンの光が、コンクリートの床に転がるいくつもの「影」を照らし出した。
それは、かつてこの場所で消えた犠牲者たちのものだ。無残にひしゃげたヘルメット、泥まみれの捜索用ロープ、そして、黒く変色した血痕が幾重にも塗り重ねられている。犠牲者たちは、恐怖に怯えながらその場で絶命したのだろう。
ジリリリリ……ン……。
突如、誰もいないはずの公衆電話が、けたたましく鳴り響いた。
その音はただのベルではない。聞いた者の鼓膜を直接ひっかくような、金属を軋ませるような異様な響きを伴っている。
――ガチャッ。
誰も受話器を取っていないのに、勝手に回線が繋がった。
そして、受話器のスピーカーから、ざらついたノイズ混じりの「無数の少女の声」が漏れ出してきた。
『……助けて……どうして助けてくれなかったの……痛いよ、苦しいよ、耳から、脳から、ぐちゃぐちゃに……お前も、こっちへ来て……一緒に……!』
「ひっ……! き、来たぁぁっ!!」
すさまじい殺意を伴った呪詛の音声が、トンネルの反響音と重なって脳内に直接流れ込んでくる。セツナは耳を抑えてその場に崩れ落ちた。防護の呪符がバリバリと音を立てて黒く焦げ、鼻から生温い血がツーッと伝う。
「セツナ、今だ! 結界を展開しろ!」
「む、無理だ! 脳が焼ける! 死ぬ! 死んでしまうっ――!」
「死なねぇよ、俺たちが後ろにいる!」
レイがセツナの背中に強引に手を当てて魔力を無理やり注入し、シオンはリュックからあらかじめ仕込んでおいた「超低周波・逆位相発生スピーカー」を取り出した。
「セツナの精神結界で音の直撃を防ぎつつ、この低音で波長を相殺する……!」
スイッチを入れた瞬間、ズウン、と内臓を揺らすような重低音がトンネル内に響き渡り、公衆電話から発せられていた殺人音声の波長と真っ向から激突した。
キィィィィ――……ガガガガッ……!!
空気の壁が激しく震え、耳を劈くような金属音がトンネルを揺らす。
呪いの音声の威力が相殺され、受話器の向こうから聞こえていた怨念の声が「ギャッ」という苦悶の金切り声へと変わった。
「今だ、レイ! 電話ボックスの本体を粉砕しろ!」
「オラァァァッ!!」
レイは犠牲者たちの残した悲惨な死体から目を背け、怒りと恐怖を振り払うように、巨大なハンマーで錆びついた公衆電話の根元を全力で叩き砕いた。
メキメキメキッ――!!
コンクリートの土台ごと電話ボックスがひしゃげ、内部でドス黒い脈を打っていた「呪いの電話回線そのもののコア」がむき出しになる。
俺たちは迷わず、用意していた特殊な封印用魔導ケーブルをそのコアに叩き込み、一気にショートさせた。
『ウオォォォ……ワレラノ……コエガ……キコエナイ……ッ!?』
断末魔の叫びとともに、公衆電話の灯りがパッと消え失せ、トンネル内を覆っていた異様な重圧と冷気が嘘のように霧散していった。
翌朝、夜が明けたばかりのギルドのカウンター。
セツナは魂が抜けたような顔で椅子に座り込み、自分の震える手を見つめていた。
「……もう……二度とあんなところに行くか……。あいつら、頭おかしいよ……呪いと真っ向から低音スピーカーで殴り合う奴があるか……」
レイは自分の服についた煤を払いながら、からからと笑う。
「おいおいセツナ、お陰で助かったろ? 仲間がいるって心強いだろ?」
受付の男は、いつもの不敵な笑みを浮かべつつ、静かに二人に一礼した。
「ご苦労だった。犠牲者たちの魂も、ようやくあのトンネルから解放されただろう」
男は次の古い羊皮紙をめくり、不敵に目を光らせた。
「さて、次の依頼だ。……『深夜の病院の地下霊安室に現れる、終わらない手術』の件だ。専門家のセツナ君、今度も君の頭脳が必要になりそうだが……準備はいいかね?」
「聞いてない聞いてない聞いてない――っ!!」
セツナの絶叫が、ギルドの朝のロビーに虚しく響き渡った。
第7話、最後までお読みいただきありがとうございました!
新キャラクターのセツナ、いかがでしたでしょうか? 精神防護のプロでありながら、一番悲鳴を上げてくれる素晴らしいツッコミ役(?)が加入してくれました。
呪いの音声に対して「低音スピーカーで波長を相殺して物理破砕する」という、相変わらず無茶苦茶な攻略法でしたが、犠牲者たちの無念も少しは報われた……のかもしれません。
次回は第8話、「深夜の病院の地下霊安室に現れる、終わらない手術」のお話です。セツナの命運やいかに!?
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次回もお楽しみに!




