第5話:『無限ループの赤信号』とエンジンブレーキ
ご覧いただきありがとうございます!
前回の「真夜中のプール」編もお付き合いいただきありがとうございました。シオンたちの物理で殴るスタイルがだんだん板についてまいりましたが、今回はついに車を使った公道バトルです。
さて、第5話のターゲットは深夜のバイパスに現れる「無限ループの赤信号」。
止まったら寿命が吸い取られる理不尽な交通ルールに、シオンたちがアクセルとエンジンブレーキで挑みます。
果たしてどうやって突破するのか? それでは第5話、どうぞ!
「……おい、シオン。次の依頼、いよいよ車が必要って本当か?」
ギルドの薄暗いカウンターの端で、レイが信じられないといった顔で羊皮紙の依頼書を突き出してきた。
そこに書かれていた文字に、俺――シオンも思わず頭を抱えたくなる。
【クエスト概要】
対象:都市伝説級怪異『無限ループの赤信号』
依頼内容:深夜の国道バイパスに出現する交差点にて、永遠に赤から変わらない信号を突破し、内部の「中枢コア」を回収せよ。
難易度:B-ランク
備考:赤信号で停止し続けた場合、ドライバーの寿命がエンジンオイルのように枯渇します。
「赤信号で止まり続けたら寿命が吸い取られるって、どういう悪趣味だよ!」
「文字通り『立ち止まったら死ぬ』ってやつだな。かといって、信号無視して突っ切ろうものなら、交差点の空間ごと異次元に押し潰されるらしい」
ルールを無視しても死に、従い続けても寿命がすり減る。まさに交通インフラを歪めた最悪の怪異だ。
俺たちはため息をつきながらも、ギルドの地下駐車場で調達した「頑丈な改造セダン」に乗り込み、深夜のバイパスへと向かった。
深夜三時。
街灯の光がまばらな、見通しの良い片側二車線の国道バイパス。
その先にある交差点の信号機だけが、周囲の風景を無視して、不気味なほど鮮やかな「赤」の光を放っていた。
……ジリジリ、と空気焼けるような音がする。
「シオン、見えてきたぞ……あれか、あの赤信号」
助手席のレイが、ハンドルを握る俺の横で生唾を飲み込む。
交差点の手前で、俺たちはアクセルを緩め、車を停止線の手前にピタリと停めた。
途端に、車のエンジンの回転数が落ち、ダッシュボードのメーターがガクガクと不規則に揺れ始める。
――プシュー……ン……。
「なっ、なんだこれ……! 体がやけに重いぞ……!」
レイが自分の腕を見下ろして青ざめる。肌のツヤがみるみる失われ、まるで何十年も老け込んだような倦怠感が車内を包み込んだ。
これが、怪異の放つ「寿命の枯渇」だ。赤信号という停止の命令に従うことで、人間としてのエネルギーが強制的に徴収されている。
「悠長に待ってたら、青に変わる前に骨と皮だけになるぞ」
俺はシフトレバーをローギアに入れ、アクセルをグッと踏み込んだ。
「ルール通りに待つから吸われるんだ。なら、『車軸とエンジンの仕組み』をハックする」
「は……? どうする気だ!?」
俺は交差点の停止線ギリギリの位置で、アクセルを思い切り踏み込みつつ、同時に「サイドブレーキを限界まで引き、さらに特殊な牽引ワイヤーを路面のガードレールに引っ掛けた」。
ゴゴゴゴゴゴッ――!!
エンジンの回転数が限界を超え、タイヤがアスファルトを激しく削り、白煙を上げて空転する。
車の車体は全力で「前進」しようとしているが、ワイヤーとサイドブレーキによってその移動は完全に封じられている。
「おい、車が壊れるぞ! 動いてないじゃないか!」
「動いてないように見えて、エンジンの中では毎分何千回転もの『圧倒的なエネルギー』が消費されてるんだ!」
俺たちの目的は「空間的な移動」ではない。
この交差点の信号機は、人間が「止まって、青を待っている(従属している)」状態のエネルギーを糧にしている。
しかし、車体がこれほどの爆発的な出力を生み出しながらも「同じ場所で踏ん張り続けている」という矛盾した状態――つまり、物理的な前進エネルギーと静止の矛盾を目の前に突きつけられた時、怪異の判定システムがバグを起こす。
――ピピピ……エラー……ショウコウ……シグナル……フショク……!
信号機の赤色が、パニックを起こしたように激しく明滅し始めた。
交差点の空間がぐにゃりと歪み、赤信号の奥から、ドス黒い不気味な「中枢コア(赤く光る電球の化け物のようなもの)」が顔を出す。
「今だ、レイ! ワイヤーを外して突っ込め!」
「オラァァァッ!!」
レイが助手席からレバーを引いてワイヤーを解放した瞬間、改造セダンはロケットのように弾き出され、赤信号の光の壁を正面から突き破った。
ガシャアアアアンッ!!
車体が交差点の中央を疾走し、俺たちは助手席の窓から手を伸ばして、剥き出しになった怪異の中枢コアを力ずくで引っこ抜いた。
『ギエエエエエエッ――!! コウツウ……ルールヲ……ムシスルナァァァッ!!』
中枢コアを奪われた赤信号は、まるで電源を落とされたかのようにパチリと消え失せ、バイパスの交差点には、ただの「消灯した普通の信号機」だけが残された。
エンジンを鎮め、俺たちは車の中でぐったりと息をついた。
肌の重さも、先ほどの老け込みも嘘のように消えていた。
翌朝、ギルドのカウンター。
俺たちはすっかり煤けた顔で、受付の男の前に立っていた。
「お見事。赤信号を逆手に取ってエンジンでごり押しするなんて、交通法規もへったくれもあったもんじゃないね」
受付の男が、呆れたような、しかし少し面白そうな笑みを浮かべながらハンコを押す。
「もう二度と車で怪異の相手はしたくないぜ……」
レイがげっそりしながらイスにもたれかかる。
男は羊皮紙の束をペラリとめくり、不敵に微笑んだ。
「さて、次の依頼だが……。次は少し毛色が変わって、『深夜のコンビニに無限に続く、開かない自動ドア』の攻略だ。準備はいいかい?」
第5話、最後までお読みいただきありがとうございました!
寿命が吸い取られる赤信号を、車の圧倒的なエンジンの出力と矛盾でバグらせて攻略する回となりましたがいかがでしたでしょうか。交通ルールって大事ですね(?)!
次回は第6話、「深夜のコンビニに無限に続く、開かない自動ドア」のお話です。今度は身近すぎるコンビニの自動ドアにどう立ち向かうのか……?
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次回もお楽しみに!




