第4話:『真夜中のプール』とゴムボートの航海
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第4話のターゲットは「真夜中のプールに現れる首なしの人魚」。
「絶対に後ろを振り返ってはいけない」というお馴染みの死のルールに、シオンたちが今度はボートとモーターで挑みます。
果たして背後からの誘惑にどう立ち向かうのか? それでは第4話、どうぞ!
「次の依頼はこれだ。……おい、シオン、また一段と頭が痛くなりそうな内容だな」
ギルドのカウンターで、レイが頭を抱えながら羊皮紙の依頼書を俺に突き出した。
そこには、赤字で不気味な注意事項が書かれていた。
【クエスト概要】
対象:都市伝説級怪異『真夜中のプールに現れる首なしの人魚』
依頼内容:夜間の学校プールにて対象を誘い出し、特定のアイテムを奪還せよ。
難易度:C+ランク
備考:プールサイドを歩く際、絶対に後ろを振り返ってはなりません。振り返った瞬間、首から上が綺麗に消え去ります。
「首なしの人魚か……。水面を優雅に泳ぎながら、背後から声をかけてくるタイプの厄介なやつだな」
俺は腕を組みながら、依頼書の詳細に目を通す。
この怪異の最大にして最悪のギミックは「振り返ってはいけない」という絶対のルールだ。背後から「ねえ、私のきれいな髪、見て……?」と甘い声で話しかけられ、気になって振り返ってしまったが最後、首から上が忽然と消え失せるという恐ろしい結末が待っている。
「振り返ったら即死って、どうやって戦うんだよ! 後ろが見えないなら、背中合わせで戦うか?」
「いや、水上を相手にするなら、そもそもプールサイドに立っちゃいけない」
俺はニヤリと笑い、今回用意してきた「とっておきの機材」をレイに見せた。
深夜二時。
月明かりが不気味に照らし出す、静まり返った中学校の屋外プール。
水面は鏡のようにピタリと静止しており、波一つ立っていない。
「ひっ……寒っ……。なんかもう、この雰囲気がすでに無理なんですけど……」
レイは震えながら、用意された「黒い耳栓」をきっちりと耳に装着し、さらに視界を完全に前方に固定するための「特製の視界制限ゴーグル」を装着していた。
もちろん、俺も同じ装備をしている。
ガタ、と水面が揺れた。
……チャプン。
水底から、ずっしりと重い何かが這い上がるような水音が響く。
そして、プールのタイルの上を、濡れたヒレが這うような奇妙な音が近づいてきた。
……ねえ……。
背筋が凍るような、透き通るけれど底冷えする少女の声が、耳栓を少しすり抜けて脳内に直接響いてくる。
……ねえ、私の髪……見てよ……。とても……綺麗でしょう……?
「……っ!」
レイがビクッと体を震わせ、反射的に振り返ろうとするのを、俺がすかさず手でガッチリと制止する。
声の主は間違いなく、俺たちの背後――プールサイドの縁に立っている。ここで振り返れば一巻の終わりだ。
「よし、レイ。プラン通りに行くぞ」
俺たちは後ろを向いたまま、プールサイドの縁に設置しておいた「巨大なゴムボート」へと乗り込んだ。
「ボートって、おい、プールの中に飛び込むのか!?」
「ああ。あいつのルールは『プールサイドを歩く者、振り返る者』を対象にしている。なら、最初から『水に浮かんだボートの上』にいれば、足場は水面、しかも視線は常に前(進行方向)を向かっていられる」
俺たちは後ろを向いたまま、オールではなく「強力なモーター付きの小型スクリュー」のスイッチを入れた。
ギュイイイイッ――!!
「わあああああっ!!」
モーター音が静寂の夜空に響き渡り、ゴムボートは猛烈な勢いでプールの水面へとダイブした。
キャッ……!? なに、これ……!?
背後から、首なしの人魚の驚愕したような水飛沫と悲鳴が上がる。
彼女にとって、人間は常にプールサイドの「陸地」から恐怖の的として見下ろすものだったはずだ。しかし、ターゲットであるはずの人間が、最初から水上に浮かび、しかも一切振り返らずに爆走しているという予想外の事態に、怪異のペースが完全に乱れた。
「今だ! 後ろを向くな、そのまま網を投げろ!」
俺は後ろを向かないまま、背後に向けて「怪異捕獲用の特殊魔力ネット」を思い切り投げ放った。
ガバッ、と水面で音がし、バタバタと暴れる手応えが伝わってくる。
「かかったぞ!」
「よっしゃあ! そのまま引きずり回せ――!」
俺たちがモーターの出力を上げると、ゴムボートは首なしの人魚をネットごと引きずりながらプールの中央を疾走した。
振り返らない人間たちの理不尽な物量戦と物理の暴威の前に、首なしの人魚は呪いのルールを維持できなくなり、
「シタ……カッテナ……コッチヲ、ミナサイよぉぉぉ――ッ!!」
という悔しげな絶叫を残しながら、水面に溶けるように泡となって消えていった。
翌朝、ギルドのカウンター。
俺たちはぐったりと疲労の色を浮かべながらも、無事にクエスト完了のスタンプをもらっていた。
「お見事。首なしの人魚をボートで引きずり回す冒険者なんて、君たちが初めてだよ」
受付の男が、相変わらずのクールな笑みを浮かべながら、次の依頼書をスライドさせる。
「次はなんだ……? もう水上戦はやめてくれよ……」
レイがげっそりしながら呟くと、男は不敵に目を細めた。
「次は……『深夜の国道に現れる、無限ループする赤信号』の交通整理だ。車のアクセルとブレーキの準備をしておいてくれたまえ」
第4話、最後までお読みいただきありがとうございました!
振り返ったら即死という絶体絶命の状況を、まさかのゴムボートとモーターで力技(?)で突破する回となりましたがいかがでしたでしょうか。
次回は第5話、「深夜の国道に現れる、無限ループする赤信号」のお話です。今度は車を走らせて、交通ルール(?)で怪異をハックします!
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次回もお楽しみに!




