第2話:『喋る自動販売機』と銀のペンチ
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今回は第2話「喋る自動販売機」のお話。
小銭の代わりに歯を要求してくる悪質な自販機を相手に、シオンたちが今回も謎のライフハックで挑みます。
果たしてどんな反撃に出るのか? それでは第2話、どうぞ!
「おいシオン、次の依頼ってこれ本当か……?」
ギルドの薄暗い休憩スペースで、相棒のレイが渡された一枚の依頼書を二度見していた。
そこに書かれていた文字に、俺――シオンも思わず眉をひそめる。
【クエスト概要】
対象:都市伝説級怪異『喉カラカラの自販機』
依頼内容:対象から特定のドリンクを購入し、その内部に隠された「鍵」を回収せよ。
難易度:Cランク
備考:購入の際、「通常の貨幣」は一切受け付けません。
「コインが使えない自販機ってことは、物々交換か?」
「いや、そこがこの怪異の厄介なところだ。噂によれば、あいつは代金として『自分の歯』を要求してくる」
「は……?」
レイが思わず自分の口元に手をやり、顔を青ざめさせた。
『喉カラカラの自販機』。夜遅く、住宅街の行き止まりに突如として現れる漆黒の自動販売機。そこで喉を潤そうとボタンを押すと、どこからともなく不気味な合成音声が響き、小銭の代わりに自分の歯をペンチなどで抜いて投入口に入れるよう迫ってくるという、最悪の都市伝説だ。
「力づくでこじ開けたらどうなる?」
「中身のドリンクと一緒に、お前の脳ミソまでジュースに絞り出されるらしい。まともな勝負をしたら確実に歯が何本か足りなくなるな」
俺たちは苦笑しながらも、依頼達成のために必要な「ある道具」を鞄に詰め込み、夜の街へと繰り出した。
深夜二時。
街灯の光が届かない、閑静な住宅街のどん詰まり。
そこには、昼間には絶対になかったはずの、異様に新しい漆黒の自動販売機がポツンと佇んでいた。
「……うわ、不気味だな。あんなの絶対に通学路に置いちゃいけないやつだろ」
レイが腰の短剣に手をかけながら、一歩後ろに下がる。
自販機のガラス面には、見慣れない赤い文字でこう書かれている。
『すべてのお飲み物、ただいま大変お求めやすくなっております。どうぞ、お口のなかのものをお入れください』
キン、と不気味な冷却音が響く。
近づくだけで、背筋が凍るような冷気が漂ってきた。
「シオン、どうする? 本当に歯を抜くのか……って、冗談だよな?」
「馬鹿言うな。俺たちの歯は俺たちのものだ。ルールをハックする」
俺は鞄から、ピカピカに磨かれた「大きな銀のペンチ」と、あるものを取り出した。
ガコン、と自販機の取り出し口から音がして、中から冷えた缶コーヒーが転がり出てくる――わけがない。
俺が近づくと、自販機のスピーカーから、ぞっとするほど機械的で、しかしどこか生々しい声が響いた。
『――カネヲ、イレテクダサイ。マタハ、アナタノ、イチバンダイジナ「ハ」ヲ、コノコイントレイニ……』
ジリジリと、取り出し口のトレイがスライドし、血生臭い金属製のペンチがせり出してきた。
あからさまな脅しだ。これにビビッて自分の歯を抜こうものなら、怪異の術中にハマって永遠にその場から動けなくなる。
「よし、レイ。準備はいいか?」
「お、おう……何をやる気だ?」
「あいつのシステムを逆手に取る。この自販機、コインの硬度と重さを感知して認証してるはずだ」
俺はあらかじめ用意しておいた、ピカピカの銀色の物体――「キシリトールガムの銀紙(綺麗に丸めてコインサイズにしたもの)」と、「市販の硬い板ガム」を取り出した。
「は……? ガム?」
「いいから見てろ」
俺はまず、自販機のコイン投入口に、銀紙を綺麗にコーティングした「偽のコイン」を放り込んだ。
機械がそれを読み取る。
『……チュウモンヲ、ドウゾ』
怪異の音声が少し戸惑ったように変わる。
「よし、認識したな。じゃあ注文だ。『一番冷たくて、甘い炭酸』を頼む」
ボタンを強く押すと、自販機が不気味に唸り声を上げた。
『オキャク様……ソレハ、ダイキンガ、タリマセン……! アナタノ、シロクテキレイナ「ハ」を、サセ……!』
「足りないなら、これで払う」
俺はすかさず、投入口の代わりに「板ガム」をそのままガチャンと無理やり押し込み、さらに用意していた「強力な瞬間接着剤」を投入口の隙間に流し込んだ。
『ガッ……!? ギッ……!?』
自販機の内部から、歯車が噛み合わなくなるような異音が響く。
怪異にとっての「対価」はあくまで人間の歯、あるいは硬いもの。しかし、そこに入ったのは粘り気と甘味、そして瞬時に固まる接着剤の塊だ。
「甘いものを欲しがってたからな! 虫歯になって溶きちぎれ、この悪徳自販機!」
『ギエエエエッ――!! カタイ! アマイ! トケナイ――ッ!!』
自販機のディスプレイに「ERROR」の赤文字が点滅し、本体が激しく痙攣するように震え始めた。
内部のシステムがパニックを起こした瞬間、ガチャリと鈍い音がして、足元の取り出し口から、目的の「鍵」が転がり出た。
「レイ、今だ! 鍵を回収して離れるぞ!」
「お、おうっ!」
レイが素早く鍵を拾い上げ、俺たちは全速力でその場から駆け出した。
背後で、自動販売機が「甘すぎる……歯が溶けるぅ……」という情けない悲鳴を上げながら、音を立ててペチャンコに潰れて消えていくのが聞こえた。
翌朝、無事にギルドでクエスト達成のハンコをもらった俺たちは、昨日の戦闘の疲れを癒やしながらカウンターに腰掛けていた。
「いやぁ、まさか自販機にガムと接着剤を食わせるとは思わなかったぜ……」
レイが冷や汗を拭いながら苦笑する。
受付の男は、相変わらずのアンニュイな顔で紅茶をすすりながら、次の羊皮紙を一枚めくった。
「お見事。では、第3話の依頼だ。次は……『深夜の学校のテケテケ』と、ガチンコのスピード勝負らしいぞ」
第2話、最後までお読みいただきありがとうございました!
自販機相手にガムと接着剤という、歯医者さんも真っ青な荒技をお届けしましたが、いかがでしたでしょうか。
次回は第3話「深夜の学校のテケテケ」と、まさかのスピード勝負回です。足がない怪異にどう立ち向かうのか、次回もお楽しみに!
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