飛鳥大王即位
西暦六二八年。三十年以上にわたり国を温かく見守り続けた推古天皇が、穏やかにその生涯を閉じた。
先帝の崩御を受け、朝廷の臣下、物部・蘇我の両氏をはじめとする全土の豪族、そして飛鳥京に集う民衆から、熱烈な推挙の声が湧き起こる。
「厩戸皇子をおいて、この国を率いるお方はおられぬ!」
御年五十四歳。長年摂政として国を導いてきた厩戸皇子が、満を持して即位の礼に臨むこととなった。
新しく造営された『小墾田宮』の広場。絢爛豪華な紫の衣を纏った厩戸が玉座へと登ると、数万の参列者が一斉に平伏した。
大王となった厩戸は、朗々とした声を響かせ、全土に向けて新たなる宣言を発する。
「本日より、我が国の名を『日本』と改める。我らは東の海に昇る日のごとき、自立と平和を尊ぶ国なり。我こそは、その平和を守る『飛鳥大王』である!」
「日本」――史実よりも数十年の早く、この国の正式な国号が誕生した瞬間であった。
豪族たちの私兵は完全に廃止され、大王のもとに集約された正規軍と中央官庁が整然と機能し始める。血筋ではなく才能によって登用された若き官吏たちが都を駆け巡り、律令国家としての完成度は極限に達しようとしていた。
しかし、その頃――西の大陸では隋が滅亡。
さらに苛烈で強大な軍事力を誇る超大国『唐』が勃興し、東アジア全域へその支配の影を落とし始めていたのだった。




