↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日出づる処の覇王 〜聖徳太子が歴史を変えたなら〜』  作者: 明太パスタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/10

和すれど同ぜず

丁未の年(西暦587年)。飛鳥の風は血と鉄の匂いに満ちていた。


「皇子、お退きくだされ! これは国の神を祀る我が物部と、異国の仏を崇める蘇我の決着にございます!」


弓をしならせ、殺気を漲らせる物部守屋。その背後には数千の物部軍が陣を敷き、対する蘇我馬子の軍勢もまた、刃を抜いて今にも飛びかからんとしていた。


その血煙あがる戦場の中央に、わずか十四歳の少年――厩戸皇子が足を踏み入れる。

甲冑すら着けず、ただ一枚の絹布を手に、死線へ躍り出たのだ。


「守屋殿、物部が誇るは武と製鉄の技術。馬子殿、蘇我の強みは渡来人の知恵と財。何ゆえその二つを打ち壊し、国の礎を自ら削ごうとするのですか?」


「戯言を! 神と仏は相容れぬ! 混ざり合わぬものはいずれかが滅びるしかないのだ!」


守屋の叫びに、厩戸は静かに首を振った。


「『和すれど同ぜず』――天下の理とは、互いに同じ色に染まることにあらず。異なる者が異なる姿のまま、共に高め合うことこそが真の『和』にございます」


厩戸が掲げた絹布には、両者の技術が融合した未来の飛鳥――巨大な製鉄炉と国際港、そして巨船が描かれていた。


「馬子殿、物部を滅ぼせば、蘇我の権勢は歯止めを失う。そしてあなたの孫の代で、蘇我は滅門の憂き目に遭うでしょう。……それでも戦いますか?」


厩戸の瞳が放つ静謐な「天眼」の光に、馬子は息をのんだ。

ただの童の夢物語ではない。己の血族の辿る惨憺たる未来が、太子の言葉の裏に透けて見えたのだ。


「……刀を引け」


馬子の低い声が響いた。


「馬子殿!?」

「守屋殿……皇子の言う通りだ。我らは同じ色になる必要はない。だが、この国を潰さぬために手を組むことはできるはずだ」


物部守屋は引き絞った弓を、ゆっくりと下ろした。

互いに妥協せず、しかし互いを滅ぼさず。歴史を揺るがす「和」の精神が、飛鳥の地に刻まれた瞬間であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。