極悪書記官の完璧な包囲網。法と証拠による容赦なき
極悪書記官の完璧な包囲網。法と証拠による容赦なき『合法的ざまぁ』の開廷
「ゴルド商会幹部、ザックス。そしてポポロ村地方騎士団長。……あなたたちが過去五年間に行ってきた、大規模な脱税と横領、そして裏金の癒着。その全ての証拠が揃いました」
監査局の最も広い部屋に、アルトさんの底冷えするような声が響き渡った。
彼がデスクに放り投げた黒い革張りの手帳――ゴルド商会の『裏帳簿』を見た瞬間、ザックスの顔から全ての血の気が引いた。
「な、なんだそれは……! 俺は知らん、そんな手帳など見たこともないッ!」
ザックスが慌てて手を伸ばし、裏帳簿を奪い取ろうとする。
しかし、アルトさんはその手をペチッと手帳の角で叩き落とし、優雅な動作で裏帳簿を取り戻した。
「おや、証拠隠滅ですか? ルナミス帝国法典において、監査中の証拠隠滅行為はそれだけで懲役三年が加算されますよ。……もっとも、あなた方の罪状の前では、三年増えたところで誤差みたいなものですが」
「き、貴様ぁっ! でっち上げだ! そんなもの、どこかの三流詐欺師が書いた偽物に決まっている!」
顔を真っ赤にして喚き散らすザックス。
しかし、アルトさんは丸眼鏡をクイッと押し上げ、薄く、極悪な笑みを浮かべた。
「偽物? ああ、あなたがそう言い逃れすることは予測済みです。ですから今朝一番に、この手帳の紙質とインク、そして表紙に施された『ゴルド商会特有の魔導印』を、商業ギルドの鑑定士に完全証明してもらいました」
アルトさんはスーツの懐から、商業ギルドの正式な『本物であるという証明書』を取り出し、パサリとデスクに置いた。
「……ッ!?」
「さぁ、監査長殿。中身の確認を」
アルトさんに促され、監査長が震える手で裏帳簿を開く。
数ページめくっただけで、監査長の顔色が驚愕に染まった。
「こ、これは……三年前の『星の月』。地方騎士団への贈賄、金貨五百枚。名目は……ポポロ村における違法関所の見逃し料……!?」
「ええ。さらにその次のページ。二年前には、ポポロ村の農地の権利書を偽造し、力弱き農民から土地を不当に奪い取っています。そして極めつけは最新のページ……『ミオ薬局の店主を違法薬物の罪ででっち上げ、疑似月光薬の利権を独占する計画』に投じた工作資金の記録です」
アルトさんが淡々と、けれど一切の逃げ道を塞ぐように罪状を読み上げていく。
それは、ザックスたちがポポロ村で甘い汁を吸い続けてきた、腐敗の歴史そのものだった。
「バ、バカな……なぜその手帳が、お前のような下っ端役人の手にある……ッ!」
「あなたがミオさんを脅しに来た日、僕を殴って突き飛ばしましたよね。あの時、あなたの懐が不用心に開いていたので、ほんの少しだけ『お借り』したんですよ」
「なっ……お前、あの状況で、わざと殴られながらスったというのか!?」
ザックスが信じられないものを見る目でアルトさんを指差す。
アルトさんは「痛いのは嫌いなんですが、ミオさんを守るための必要経費でしたから」と、私の方を見て甘く微笑んだ。
こんな緊迫した状況なのに、彼からの強烈な『溺愛と執着』を感じて、私の心臓がドキンと跳ねる。
「……騎士団長。これは事実か」
監査長の低く怒りを孕んだ声に、横に立っていた騎士団長がビクッと肩を震わせた。
彼は滝のような冷や汗を流し、突如としてザックスから距離を取った。
「わ、私は騙されていたのだ! このザックスという男が、全て勝手にやったことだ! おい、直ちにこの悪徳商人を捕縛しろッ!」
騎士団長が部屋の外に控えている部下たちに向けて叫ぶ。
トカゲの尻尾切り。自分だけは助かろうという見え透いた保身だ。
しかし、部屋の外からは何の応答もない。
シーンと静まり返った廊下に、騎士団長が焦りの声を上げる。
「ど、どうした! お前たち、聞こえないのか!」
「無駄ですよ、騎士団長」
アルトさんが、哀れな虫けらを見るような冷酷な瞳で告げた。
「あなたの部下なら、今頃、全員武装を解除されて正座させられているはずです。……窓の外を見てごらんなさい」
アルトさんの言葉に、ザックスと騎士団長が弾かれたように窓へ駆け寄る。
そこにあった光景に、二人は絶望の声を漏らした。
監査局の建物の周囲を隙間なく包囲していたのは、地方の騎士団などではない。
白銀の鎧に身を包み、強力な魔導ライフルを構えた精鋭部隊――ルナミス帝国本国から派遣された『皇帝直属・内務査察部隊』だった。
「ほ、本国の査察部隊だと……!? なぜこんな辺境に!」
「僕が三日前に、内務官オルウェル卿に匿名で『全ての証拠の写し』を送っておいたからです。ルナミス帝国は、佐藤太郎初代皇帝の時代から『汚職と脱税』にはめっぽう厳しい国ですからね。……到着まで見事に時間を稼いでくれたザックス殿には、感謝しかありませんよ」
アルトさんがふふっと笑う。
彼が昨日、私に「偽装麻薬」を作らせた本当の理由。
それはザックスを罠にハメて大恥をかかせることだけが目的ではなく、本国の査察部隊が到着するまでの『時間稼ぎ』であり、彼らを一箇所(監査局)に釘付けにするための完璧な誘導だったのだ。
証拠。法律。そして圧倒的な権力による包囲網。
アルト・クレイマンという男の知略によって、悪党たちの逃げ道は、文字通り『ゼロ』になった。
「あ、あぁ……俺の地位が……金が……築き上げてきた全てが……ッ!!」
ザックスがその場に崩れ落ち、頭を抱えて発狂したように叫ぶ。
全財産没収の上、マグローザ漁船(蟹工船)での強制労働は免れないだろう。完全なる『社会抹殺』の完了だ。
――だが、追い詰められたネズミは、時に狂気の牙を剥く。
「……こうなったら、道連れだ」
ブツブツとうわ言をこぼしていたザックスが、突如、血走った目で私を睨みつけた。
「お前らが俺の人生を壊したんだ! なら、せめてテメェらだけでも殺してやるゥゥッ!!」
ザックスは狂ったような咆哮を上げ、懐から隠し持っていた『猛毒塗りの短剣』を引き抜き、私に向かって一直線に飛びかかってきた。
距離が近すぎる。外にいる査察部隊は間に合わない。
「ミオさんッ!!」
誰よりも早く動いたのは、アルトさんだった。
彼は腕力がないくせに、またしても我が身を盾にするように私の前に飛び出し、ザックスの凶刃を受け止めようと両腕を広げた。
(またアルトさんに怪我をさせるわけにはいかないっ!)
守られるだけのヒロインでいるつもりはない。
私はアルトさんの背中をドンッと押し除けると同時に、エプロンのポケットから『ある物』を取り出し、ザックスの顔面に向けて全力で投げつけた。
「【人参マンドラ抽出・超麻痺パウダー】!!」
バサァッ!!
オレンジ色の粉末が、ザックスの顔面にモロに直撃する。
「ぐぎゃあぁぁぁッ!?」
粉末を吸い込んだザックスは、悲鳴を上げてその場にバタンと倒れ込んだ。
人参マンドラの根から抽出した麻痺成分。吸い込めば最後、三日は指一本動かせなくなるチート級の護身薬だ。
「ミオさん! 無事ですか!?」
「ええ。アルトさんも、飛び出してきちゃ駄目じゃない。私が守るって言ったでしょ?」
私が得意げにウインクすると、アルトさんは目を丸くした後、「……敵いませんね、僕の共犯者には」と、心底愛おしそうに破顔した。
痙攣して動けないザックスが、それでも殺意に満ちた目で私たちを睨みつけ、這いずりながら短剣に手を伸ばそうとする。
まだ諦めていない。この男の狂気は、社会的に抹殺された程度では止まらないのだ。
だが、私たちには『最後の切り札』がある。
――バリィィィィッ!!!
突如、監査長室の空間が、ガラスが割れるような凄まじい音を立てて裂けた。
紫銀色の雷光がスパークし、次元の隙間から、聞き慣れた『便所サンダル』の足音が響く。
「……おい。誰の許可得て、俺のマブダチに刃物向けてんだ、あァ?」
圧倒的な神気と、チリチリと空気を焦がす黄金のポマードの匂い。
激怒によって全身から聖なる雷を立ち昇らせる、第6の聖獣・麒麟――リキ兄貴が、ついに次元を超えて見参した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第7話、ついに極悪策士アルトによる【完璧な社会抹殺】が完了しました!
全てはアルトの手のひらの上! 本国から内務査察部隊まで呼んでいる用意周到っぷり。ザックスたち悪徳商会と腐敗騎士団は、逃げ道ゼロのどん底に叩き落とされました。
そして! 狂乱したザックスの刃からアルトを守るため、ミオもただ守られるだけでなく、自作のチートアイテムで応戦しました!
「私が守るって言ったでしょ?」と笑うミオと、それに惚れ直すアルト。最高のバディです!
ですが、悪党の足掻きはまだ終わらない……と思いきや、
次元の隙間から、ついに【あの男(聖獣)】がブチギレ状態で現れました!!
次回、ヤンキー聖獣リキ兄貴の『聖雷・鉄拳制裁』が炸裂します!
物理的にも悪党が消し炭(文字通り)になる、圧倒的カタルシスの瞬間をお見逃しなく!
【読者の皆様へ、作者から全力のお願いです!】
「アルトの包囲網えげつない最高!」「ミオちゃんカッコいい!」「リキ兄貴キターーー!!」
と、少しでもテンションが上がっていただけましたら……
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