過保護な法務官の甘い差し入れと、共犯者の契約
過保護な法務官の甘い差し入れと、共犯者の契約
深夜のファミレス『ルナキン』での極悪な作戦会議を終えた後。
お腹を満たしたリキ兄貴は、「じゃあな。俺ァ、スーパー銭湯でサウナキメてから寝るわ」と便所サンダルを鳴らして闇に消えていった。有事の際は、エンジェルすまーとふぉん(神様用スマホ)のメッセージアプリでスタンプを一個送れば、一秒で駆けつけてくれるらしい。心強すぎる。
そして私は今、アルトさんに送られながら、月明かりに照らされたポポロ村の夜道を歩いていた。
「……ミオさん」
薬局の入り口が見えてきたところで、不意にアルトさんが足を止めた。
振り返ると、月光を反射する丸眼鏡の奥で、彼の瞳が真剣な光を帯びて私を見つめていた。
「今日の昼間は……僕が弱いばかりに、怖い思いをさせて本当にすみませんでした」
「ううん、アルトさんが盾になってくれたおかげよ。本当にありがとう」
「だからこそ、です」
アルトさんは一歩だけ私に近づき、いつもより少し低い声で告げた。
「これからの計画、ミオさんは僕の指示通りに『偽装麻薬』を作ってくれれば、それでいいです。後の汚れ仕事……証拠の捏造や、ゴルド商会への直接的な法的手続きは、全て僕が単独でやります」
「えっ?」
「万が一、ザックスたちが法をすり抜けて反撃してきた場合、法的な責任や恨みは全て僕一人に向くように細工しておきます。ミオさんは『何も知らされずに薬を作らされた被害者』という立場を貫いてください。……あなたの居場所と安全は、僕が絶対に守りますから」
それは、どこまでも理路整然とした、自己犠牲の提案だった。
私を一切の危険から遠ざけ、彼一人で全ての泥を被るという、過保護すぎる『安全な檻』の提示。
普通なら、頼もしいと喜ぶところなのかもしれない。
でも、私はムッとして、彼の胸ぐらを――昼間にザックスの手下がやったのと同じように、両手でギュッと掴んだ。
「ミオ、さん……っ?」
「馬鹿なこと言わないで」
驚いて目を丸くするアルトさんを、私は真っ直ぐに睨みつけた。
「私を守ってくれるのは嬉しいけど、アルトさん一人に泥を被らせて、安全なところで笑っていられるほど、私の神経は図太くないわ。それに、私の薬局のトラブルにあなたを巻き込んだんだもの。これは、私の戦いよ」
「ですが、相手は腐っても大商会です。下手をすれば……」
「へっちゃらよ。私にはチート級の錬金術があるし、アルトさんの悪知恵があるし、リキ兄貴の物理があるじゃない。私たち、最強のチームでしょ?」
私がふふっと笑って胸ぐらから手を離すと、アルトさんは呆然としたように私を見つめていた。
「……ミオさんは、変わっていますね」
「そう?」
「ええ。昼間、僕のあんなドス黒い裏の顔を見たのに。普通の人なら、気味悪がって距離を置くはずです。なのにあなたは……一緒に戦う、と言ってくれるんですね」
アルトさんは困ったように、けれどどこか嬉しそうにふっと微笑み、私の手を取った。
長袖のスーツから伸びる、ペンダコのある少しひんやりとした指先が、私の指に絡められる。
「分かりました。僕一人で泥を被るなんて、やめにします。……その代わり、最後まで僕の『共犯者』でいてくださいね、ミオさん」
甘く、どこか熱を帯びた声。
彼の手の温もりに、私の胸の奥がトクンと高く鳴った。
***
翌日の深夜。
薬局の裏手にある調剤室は、怪しげな紫色の煙と、頭がクラクラするような甘い香りに包まれていた。
「よし、温度を下げて、マナを一気に流し込む……っ!」
私はゴーグルを装着し、錬成釜の中身をかき混ぜていた。
釜の中では、ポポロ・タバコの葉から抽出したタール成分と、陽薬草の根っこがドロドロに溶け合っている。
「【錬成合成】!!」
ポンッ! という軽い破裂音とともに、釜の中に一握りの『赤紫色の妖しい粉末』が完成した。
「ふぅ……できたわ。見た目と匂いは完全にアウトだけど、成分はただの超健康茶……ミオ特製・偽装麻薬の完成よ」
ゴーグルを外して額の汗を拭った、その時だった。
「お疲れ様です、ミオさん。夜遅くまで頑張る僕の可愛い共犯者に、差し入れをお持ちしましたよ」
コンコン、と開け放たれた勝手口のドアをノックして、アルトさんが顔を出した。
手には、タローソン(24時間コンビニ)のレジ袋が提げられている。
「アルトさん! こんな夜中にどうしたの?」
「ミオさんが僕たちの作戦のために徹夜してくれているのに、僕だけ寝るわけにはいきませんからね。はい、ポポロ・コーヒーと、タローソンで一番高い『ハニーかぼちゃの濃厚プリン』です」
アルトさんは私を作業台の椅子に座らせると、手際よくプリンの蓋を開け、温かいコーヒーを淹れてくれた。
疲れた身体に、ハニーかぼちゃの強烈な甘みと、コーヒーのほろ苦さが染み渡る。
「ん〜っ! 美味しい……生き返るわ」
「ふふっ、良かった。本当はもっと良いものを食べさせてあげたいんですが、今はこれで我慢してください。……あいつらを社会から抹殺して、ふんだくった賠償金で、後で美味しいお肉でも食べに行きましょう」
優しい声でとんでもないことを言いながら、アルトさんはハンカチを取り出し、私の頬に飛んでいた煤をそっと拭ってくれた。
距離が近い。丸眼鏡の奥の優しい瞳が間近にあって、思わず顔が熱くなる。
「あ、アルトさんの方は、どうなの? 例の『偽の噂』は……」
「ええ、完璧です。順調に撒き餌は済ませました」
照れ隠しに仕事の話を振ると、アルトさんは眼鏡をクイッと押し上げ、極悪策士の顔に戻った。
「ポポロ村の端に、メロロンの栽培に手を出して人生が崩壊した『泥沼夫妻』がいるのをご存知ですか? 今はメロロンを愛しすぎた結果、お互いに口も利かない仮面夫婦状態の二人です」
「ええ、知ってるわ。昔はおしどり夫婦だったのにね……」
「彼らに、村からの『特別栽培補助金』の増額をチラつかせましてね。ゴルド商会のスパイが入り浸っている酒場で、『ミオ薬局の裏口から、夜な夜な怪しい紫色の煙が出ている。あれは絶対に違法薬物だ』と愚痴らせておきました」
「わぁ……えげつないわね」
私がドン引きするのと同時に、アルトさんは満足げに頷いた。
「あの泥沼夫妻の迫真の演技のおかげで、ザックスの耳には既に『ミオが違法薬物を密造して荒稼ぎしている』という確証が入っているはずです」
アルトさんはそこで言葉を切り、私の手元にある『赤紫色の妖しい粉末』を見つめた。
「彼らは今頃、大喜びでこの店を強襲し、その『証拠』を押収する手筈を整えていることでしょう。……僕たちが丹精込めて作った、致死量の罠(健康茶)とも知らずにね」
ククッ、と喉の奥で笑うアルトさん。
彼が徹底的に甘やかしてくれるこの空間の裏で、悪徳商会を地獄へ突き落とすための巨大なギロチンが、静かに、確実に引き上げられていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第4話、いかがでしたでしょうか?
アルトの「僕が全部泥を被ります」という過保護な提案を突っぱね、「最強のチームでしょ?」と笑うミオ。この二人の『共犯者としての絆』が結ばれた瞬間です!
そして深夜の錬金術からの、アルトの甘〜い差し入れタイム。
優しい声でプリンを食べさせながら「賠償金で焼き肉行きましょう」と笑うアルト、完全にヒロインを甘やかす策士の顔になっています(笑)。
『仮面夫婦の泥沼夫妻』も、きっちり罠の駒として使われました!
次回、ついにザックスたちが罠に飛び込んできます!
意気揚々と店に乗り込んでくる悪徳商会と、怯えたフリをしてギロチンの紐を握るアルト。スカッと爽快な大逆転劇へのカウントダウンが始まります!
【読者の皆様へ、作者から全力のお願いです!】
「アルトの過保護っぷり最高!」「一緒に戦うミオかっこいい!」「偽装麻薬(ただの健康茶)の完成おめでとう!」
と、少しでもお楽しみいただけましたら……
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