ヤンキー聖獣、次元を超えて見参。そして深夜のファミレス作戦会議
ヤンキー聖獣、次元を超えて見参。そして深夜のファミレス作戦会議
「裏帳簿……まさか本当に、あのゴロツキの懐から?」
私がアルトさんの手元にある黒い手帳を見つめていると、彼は痛む頬を少しだけ擦りながら、丸眼鏡の奥で冷たく笑った。
「ええ。ゴルド商会のザックス。あいつらがこのポポロ村でどれだけ汚い真似をしてきたか、これを見れば一目瞭然です。あとは僕がこの証拠を元に『法的』に逃げ道を塞げば……」
アルトさんが手帳を開き、極悪な計画を口にしようとした、まさにその時だった。
――バリィィィィッ!!!
突如、薬局の中央の空間に、ガラスにヒビが入るような亀裂が走った。
紫がかった銀色の雷光がスパークし、空間そのものが文字通り『割れた』のだ。
「ひっ!?」
アルトさんが悲鳴を上げてビクッと肩を揺らす。
だが、私はその次元の亀裂から漂ってくる「馴染みのあるポマードの匂い」に、思わずため息をついた。
「よォ、ミオ嬢ちゃん。ルナキンの『ニンニクマシマシ特製薬膳スープ』が飲みたくて寄ったんだが……」
次元の裂け目から、のっしのっしと足音を響かせて現れたのは、一人の男。
完璧にセットされた黄金のリーゼント。背中に『第6聖獣 麒麟降臨』の金糸刺繍が入ったド派手な光沢ジャージ。そして足元には、なぜか履き古したベランダサンダル(通称:便所サンダル)。
彼こそが、神々が管理するこのアナスタシア世界における調停者の一角。
第6の聖獣にして次元超越者、麒麟。通称『リキ兄貴』である。
「……あァん?」
リキ兄貴は、割れた薬瓶や荒らされた陳列棚、そして床に散らばった緑色の液体を見ると、ピタリと足を止めた。
次の瞬間、彼の全身からビリビリと空気を震わせる絶大な『神気』が立ち上った。
「誰だ。誰が嬢ちゃんの店をこんなにしやがった……あァ!?」
凄まじい威圧感。アルトさんはその場にヘナヘナと座り込み、ガチガチと歯を鳴らして青ざめている。ただの法務官である彼にとって、聖獣の怒りのオーラは直視するだけで気絶しかねない代物だ。
「リ、リキさん! 落ち着いて! 私は無事だから!」
「落ち着いてられるか! 俺のマブダチの店荒らしたドグサレ野郎はどこのどいつだ! 今すぐ次元跳躍して、首根っこ掴んで『聖雷・鉄拳制裁』で消し炭にしてやらァ!!」
リキ兄貴の右拳に、バチバチと紫銀色の極大雷撃が集束していく。あれを一発でも撃ち込まれれば、ゴルド商会の支部ごと、一瞬で跡形もなく蒸発してしまうだろう。
「お、お待ちください……ッ!!」
その時、座り込んでいたアルトさんが、震える両足で必死に立ち上がり、声を振り絞った。
「あァ? なんだテメェは。ルナミスの役人か?」
「ひぃっ……! は、はい……地方監査局の、アルト・クレイマンと申します……っ」
リキ兄貴の鋭い眼光に見下ろされ、アルトさんは今にも泣き出しそうな顔をしている。しかし、彼はギュッと拳を握りしめ、丸眼鏡の奥の瞳に強い光を宿した。
「そ、その怒り……ごもっともです。ですが、今あなたが彼らを物理的に『消し炭』にしてしまえば、法的にはただの失踪事件か事故として処理されてしまいます。それでは、ゴルド商会という腐敗した『組織そのもの』を潰すことはできません!」
「……ほう? ならどうするってんだ、小僧」
「これを使うんです」
アルトさんは震える手で、先ほどスリ取った『裏帳簿』を掲げてみせた。
「あいつらの横領、脱税、贈賄の記録です。僕はこれを元に、逃げ場のない完璧な包囲網を作ります。彼らがこれまで搾取してきた金と権力、そして社会的な地位……その全てを、合法的に奪い取ってから地獄へ落とすんです。ミオさんに手を出した代償がどれほど高くつくか、骨の髄まで分からせてやります」
恐怖で足はガクガクと震えているのに、アルトさんの口から紡がれる言葉は、氷のように冷たく、そして極悪だった。
リキ兄貴はポカンとアルトさんを見た後――ニヤリ、と凶悪な笑みを浮かべた。
「へっ……ハハハハッ!! なんだテメェ、見かけによらず最高にドス黒いこと考えやがるじゃねェか!」
「えっ、あ、いや、僕はただ平和的に……」
「気に入ったぜ、アルトとか言ったな。腕っぷしはミジンコ以下だが、テメェの頭ン中は最高にロックだ。で? 俺は何をすればいい?」
リキ兄貴がジャージのポッケに手を突っ込みながら問うと、アルトさんは少しだけホッとしたように息を吐いた。
「……ミオさんの、絶対的な物理護衛をお願いしたいんです。僕とミオさんで罠を張りますが、相手が法を無視して『暗殺』などの実力行使に出てきた場合、僕の腕力では……先ほどの通り、盾になることしかできませんから」
そう言って苦笑するアルトさんの頬の絆創膏を見て、リキ兄貴は鼻を鳴らした。
「なるほどな。テメェ、嬢ちゃんを庇って殴られたのか。……上等だ、その心意気に免じて、このリキ兄貴が一肌脱いでやるよ」
「ありがとうございます……っ!」
「よし、話は決まりだ! ところで嬢ちゃん、俺ァ腹が減っちまってよ。作戦会議とやらをするなら、飯食いながらにしようぜ」
リキ兄貴の提案により、私たちは一旦薬局を閉め、ポポロ村のメインストリートにある24時間営業のファミレス――『ルナミスキング(通称:ルナキン)』へと移動することになった。
深夜のルナキンは、非番のルナミス軍の兵士や冒険者たちがまばらに座っているだけで、静かだった。
私たちは窓際のボックス席に陣取った。リキ兄貴は山盛りの『特大ルナミスバーガーセット』を豪快に頬張り、私はドリンクバーのポポロ・コーヒーをすする。
「それで、アルトさん。罠って、具体的にどうするの?」
向かいの席で、山盛りのフライド・太陽芋をつまんでいたアルトさんに尋ねる。
彼は眼鏡をクイッと押し上げ、テーブルの上に裏帳簿を広げた。
「まずは、ゴルド商会のザックスに『確実な失態』を犯させる必要があります。彼らは今、ミオさんの『疑似月光薬』の利権を狙っていますよね。ならば……彼らが絶対に飛びつくような『特大の餌』を用意するんです」
「餌?」
「はい。例えば……ミオさんが裏で、『法に触れるような、とんでもない違法薬物』を製造している、という偽の情報を流すとか」
アルトさんの言葉に、私は目を瞬かせた。
「違法薬物って……そんなの作ったら、私まで捕まっちゃうじゃない!」
「大丈夫です。ミオさんには、チート級の錬金術があるじゃありませんか」
アルトさんは悪戯っ子のように笑った。
「見た目や匂い、それに反応は『完全に違法な麻薬』。だけど、成分を詳しく調べたら『ただの健康茶』だった……なんていう、とんでもない劇薬を錬成することはできませんか?」
私はハッとして、前世の『毒と薬の世界史』の知識と、この世界のトンチキ植物の成分を頭の中で高速で結びつけた。
「……できるわ。ポポロ村特産の『ポポロ・タバコ』の葉と、『陽薬草』の根を特殊な温度で合成すれば。見た目は妖しい紫色の粉末で、嗅ぐと強烈な陶酔感を覚えるけど、人体に入るとただの滋養強壮効果に変換される……そんな偽装麻薬なら、作れる!」
「完璧です」
アルトさんはパチン、と指を鳴らした。
「その偽装麻薬を、ザックスに押収させるんです。『違法薬物製造の動かぬ証拠だ』と勝ち誇った彼らが、それを意気揚々とルナミスの監査局に持ち込んだ瞬間……」
「成分がただの健康茶だと発覚して、大恥をかくってわけね」
「それだけじゃありません。無実の市民への不当な家宅捜索、名誉毀損。その失態の上に、この『裏帳簿』の罪を重ねて叩きつけるんです。逃げ道なんて、一本も残してやりませんよ」
アルトさんの極悪非道な作戦の全貌を聞き、私は思わず身震いした。
隣でルナミスバーガーを飲み込んでいたリキ兄貴も、「ククッ……えげつねェ。最高だぜ」と嬉しそうに笑っている。
「さぁ、ミオさん。忙しくなりますよ。僕は明日から、村の連中を使って『偽の噂』を商会に流す手配をします」
「分かったわ。私は急いで、その偽装麻薬の錬成にとりかかるわね」
深夜のルナキンで、チート薬師と極悪法務官、そして最強ヤンキー聖獣による、悪党抹殺のカウントダウンが静かに始まったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第3話、いかがでしたでしょうか?
ついに第6の聖獣・リキ兄貴(便所サンダル装備)が登場しました!
アルトの「物理で消し炭にするより、社会的に抹殺した方が効く」というドSな説得に、ヤンキー聖獣もニッコリです。
深夜のファミレスで作戦会議という異世界らしからぬシュールな光景の中、アルトの【極悪な罠】の全貌が見えてきましたね!
次回からは、ミオのチート錬金術が大爆発!
そして、アルトの「策士としての甘やかし(溺愛)」ターンに入っていきます。徹夜で薬を作るミオに、アルトが持ってくるものとは……!?
【読者の皆様へ、作者から全力のお願いです!】
「リキ兄貴かっこいい!」「アルトの悪知恵えげつない!」「深夜のルナキン行きたい!」
と、少しでも楽しんでいただけましたら……
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