第025話 鍛冶~別れの前に~
都市ケイクルにはいくつかの鍛冶屋がある。
鍛冶屋にも種類があり、武器を専門に作る店や馬車や家の部品などを作るところなどがある。
僕たちはヴェルが事前に調べたという鍛冶屋に来ていた。
ここはケイクルの都市でも奥の方にあり、治安があまり良くない。
道中は雑多な建物が立ち並んでいて、増築を繰り返しているのか、道幅も等間隔ではなかった。何より昼間なのにどこも薄暗く、武器を持ったゴロツキや痩せた乞食、身を売る娼婦などがいた。
個人的には歓迎できない道のりだったけれど、ヴェルが無言で進んでいくものだから付いて行くしかなかったのだ。
「親父さんはいるか」
「今は王国まで出ているよ。何の用だい?」
受付にいるのは恰幅の良いおばさんだった。
短い髪は男のようだけど、豊かな体は女性のものだった。
鍛冶屋内の壁には武器が飾ってあるが、盗難対策なのかすべて釘等で固定化されていた。動かないはずのそれらからも武器としての迫力が伝わってくるのだからきっと質が良いのだろうと思う。
「剣を一本作って欲しいんだ。絶対に折れないような強い剣を」
「物に絶対なんかないさ。それにお前さんにはもう立派な武器があるようじゃないか。冷やかしなら帰っとくれよ」
おばさんはヴェルの腰に下げた剣を見て肩を竦める。
ヴェルの剣は良い剣だ。所謂業物と言う奴だそうだ。息子に甘いテイラー様がヴェルのために作らせた武器だ。そこらのものとは訳が違う。
おばさんの言う通り、ヴェルに新しい剣は必要ないだろう。
……じゃあどうしてここの来たのだろうか?
僕は首をかしげる。
「俺のじゃなくて、こいつの剣だ」
「えっ、僕の?」
「ほう。短剣しか持ってないようだけど、剣が欲しいのかい。もちろん金はあるんだろうね。絶対に折れない剣は無理だとしても、それなりに良いものを作るなら、それなりの値段は覚悟するんだね」
「ここに大銅貨が30枚ある」
「それ今回の報酬全部じゃん!宿のお金はどうするの!?」
「相方はそう言っているが、いいのかい?」
「剣を作るのにこれで足りなければ、俺の個人の金も足そう。数日もしたら俺はこいつと離れることになる。だから、」
「傍で守れないならせめて武器を持たせようってか。あんたはこいつの恋人かい?それとも親なのか?」
「友だ」
「……ヴェル、そう言ってくれるのは嬉しいけど、せめて友達なら僕の意見も聞いてよ」
「俺は女将さんと大事な話をしているからリキッドはそっちで武器でも見てて」
「僕も当事者の一人だと思うんだけど、なんで僕そっちのけで話をしているのかな」
「女将さん、それより納期はどれぐらいになる?出来れば早い方がいいんだけど」
「少なくとも一か月は欲しいね。旦那も今日明日帰ってくる訳じゃないし」
「それじゃあ、俺は武器を見届けることは出来ないか。せめて半月ほど短く出来ないか。もし出来るなら滞在をなんとか伸ばすんだが」
「いきなり無茶なことを言うね。急いだとしても一週間短くするぐらいだね。こっちも商売だ。出来ない約束はしないんだ」
「わかった。残念だけど受け取りはリキッド一人にさせる。それと値段と武器の詳細なんだけど――」
ヴェルとおばさんは僕を完全にどんどん無視して話を進めていった。
僕の意見は一切聞いて貰えなさそうだったで、二人から離れ、鍛冶屋内に飾られた武器を見て回る。
この鍛冶屋はケイクルの都市内でも武器専門の鍛冶屋としてトップなのだそうだ。飾られた剣や斧はどれも鋭く、触れただけで身が裂かれそうだ。
ヴェルとおばさんが商談に熱中しているのを確認して小声で先生に話しかけた。
「先生、昨日僕がやられた黒ローブの男の武器はなんだと思う?」
『なんだ、一撃貰っておいてわからなかったのか。あれは鞭だ』
「鞭?鞭ってあんなに早く重いものなの?」
『あれは特殊な魔物の皮を使っているようだ。中には棘や毒が付いているものもあるが、今回はそうではなかったようだ。もしそういったものならばお前の腕は腐り落ちているだろうしな』
先生の言葉に背筋がぞわりとする。
確かに咄嗟に飛び出してしまったが、相手次第では腕を落とされたり、下手したら殺されることだってあるかもしれない。
もっと注意をしていないと。
『そこらの雑草程度から作られたとはいえ、適切な治療をされたから傷が残っても痛みは少ないだろう。感謝しておくんだな』
「そうだね。ヴェルがいなかったら、あの酷い痛みが今も続いていたかもしれないんだよね」
『わかったのならば、次からは敵味方不明確者に遭遇したら、すぐに武器を持つ癖を付けろ。後悔は後にするものだが、死んでから後悔したのでは手遅れだ』
「……肝に銘じます」
先生の言う通りだ。
僕にはきっと危機感が足りていない。
もう冒険者になったのだ。命の危険はいつだって目の前に転がっているのだ。
その後、先生からは鞭使いと対峙した時の対策をいくつか教えてもらった。再び戦うことになるか、実際に相対した時に実践出来るかはわからないが、いつだって用意は大事だ。
僕が先生と一通り話終えたところで振り向くと、ちょうどヴェルたちの話も終わったようだった。
「悪かった。待たせたな」
「それはいいけど、お金は?」
「ああ、とりあえず足りない分からは俺が出しておくよ。幸い思ったよりも馬車も安かったしなんとかなりそうだ。やっぱり中央とこっちじゃ物価が違うな」
「そういうことじゃなくて!って、報酬で足りなかったってことはもしかして全部使っちゃったの!?」
「おう!」
「おう!じゃないよ!!そんな良い笑顔しない!サムズアップもいらない!いや、ハイタッチしようって意味でもないから!」
次々とポーズを変えるヴェルに突っ込みを入れる。
こいつ、わかっててやっているな。
「ヴェルの馬車が出る日で宿の契約が切れるんだよ。ヴェルは良いかもしれないけど、僕はどうすればいいのさ」
「なに、金が無くなったらすることは一つだ。一生懸命働こう。最低ランクとはいえ、俺たちだって冒険者だ。冒険者組合に行ったらいくらでも仕事はあるだろう」
「……そういう問題じゃないんだけど。はあ、仕方ないなあ」
僕たちは再びギルドへ戻ることになった。
雑品を買うために町の商店街へいくつもりだったが、元手が無くなったのならばそうもいかない。
まだまだ村から出るときに受け取ったお金はあるけれど出来るだけ手を付けたくないという拘りもあった。
「あら、二人とも一日に二度も来てくれるなんて、お姉さん嬉しいわ」
「セレスさん、子供扱いはやめてください」
「一人前に扱って欲しいのならばせめてランクを一つはあげて貰わなくちゃ」
冒険者へ戻って一階の掲示板で依頼を選び、二階の受付にいくとセレスさんが笑顔で迎えてくれた。
お金が無くなり、ささくれだった心が癒される。
「次はこちらの依頼をお願いしたいのですが。依頼ってこんなのもあるんですね」
「はい。家の壁の修繕ですね。冒険者になりたての方は驚かれますが、討伐や採取以外にもこういった建物の修繕依頼や町の清掃活動などもよく依頼で出されるんですよ」
「なんというか、想像と違っているんですけど、便利屋さんみたいですね」
「その認識も間違いではないですね。高ランクの方は討伐などを専門にされている方が多いですが、低ランクだとこうして町の外に出ない依頼も多いですからね。こちらを専門に従事されている冒険者の方も一定数いらっしゃいますよ。ケイクルではこちらの方が多いですね」
町の外に出ない依頼はほとんどがE・Fの低ランク任務だ。
魔獣などの危険はないが、おつかいのような雑務が多い。
「でも依頼やクエストをこなしたらランクは上がっちゃうんですよね。低ランク依頼を専門にしていてもCやDのランクになってしまったら依頼は受けられないんじゃ」
「それは大丈夫です。FからEの時は別ですが、Dランクへ昇級の際にはランク制限の関係により受けられない依頼やクエストが発生しますので、冒険者側の意思がないと勝手にランクが上がることはないですからね」
なるほど。
組合側が昇級の判断をしても冒険者側が低ランクのままを望んだ場合、冒険者の意見を優先して貰えるのだ。
「では今回も依頼内容を登録いたしますのでギルドカードをお預かりいたしますね」
「よろしくお願いいたします」
「それと、今回からはパーティを解散させてください。俺はリキッドと別の依頼を受けますので」
「わかりました。お二人とも頑張ってくださいね」
僕たちは数日間、別々に依頼をこなした。
依頼は壁の修繕の他にも、大通りの溝浚いや飲食店の手伝いなど多岐に渡った。
それでも司教の依頼で稼いだお金にも満たないのでセレスさんのいう通り、割の良い仕事だったのだと思う。
それと依頼をこなして以外だったのが、依頼者、というよりも町の人たちが算術や文字の読み書きが苦手だということだ。特に文字を読めるが書けないという人が思いの外多かった。
僕は両親やラッセルの家の人たちがいたからどっちも人並みにはこなせるつもりだが、こんなに外で重宝されるとは思わなかった。
そして、ついにヴェルが乗る馬車が出る前日となった。
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