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聖魔合一 ~魔神の眼を持つ勇者~  作者: あんずじゃむ
第二章 オリアナの花編
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第024話 納品~ただし報告するまでが依頼です~

 眠れなくても朝は来る。

 明けない夜は無いなんて言葉があるけど、たまには朝が来ない夜だってあってもいいと思う。

 遅くまで寝付けなかった僕はいつも通りの時間に起きたヴェルによって無理やり起こされた。

 目に痛い太陽の光を手で遮ながら歩く。ヴェルが昨日怪我をした気遣ってオリアナの花のほとんどを持ってくれたおかげで、僕は片手が開いていた。その手で右の目元を擦る。


「たまには寝坊したっていいじゃないか」

「だめだ。今日はいっぱい予定があるんだから」

「予定?教会で報告して終わりじゃないの?」

「教会で納品しても報酬は冒険者組合(ギルド)で貰うんだぞ」

「……」


 そうだっけ?

 そうだったかな?

 まったく覚えはなかったけど、そう言うと怒られる気がしたので黙っておくことにした。


「聞いてなかったな」

「何も言ってないよ!」

「顔に書いてあったぞ」

「幼馴染ってなんで言葉にしなくても伝わっちゃうのかな」

「リキッドがわかりやすいだけだと思うぞ。っと、着いたな」


 教会の近くには前回よりも多くの人がいたが、ヴェルは気にすることなく進んでいく。

 遠慮を考えないんだろうか。考えないんだろうな、ヴェルだし。

 朝のミサが終わったところなのか、教会の中には外よりも多くの信徒がいたが、ミッドフェイル司教の姿はなかった。

 さっそくヴェルは近くにいた信徒の方に司教の居場所を聞いていた。


「すみません、ミッドフェイル司教はいらっしゃいますか」

「先ほど今朝のミサが終わったところなので、この時間なら庭園にいらっしゃると思いますよ」


 親切に教えてくれた人へお礼を言って、庭園へと向かう。

 そこには庭園に咲いた花を一人見つめるミッドフェイル司教がいた。 


「おはようございます。依頼の納品に来ました」

「ああ、いらっしゃい。ここでは信徒の方もいますから、中へどうぞ」


 神父がもう一度花を見て、僕らを事務室へ案内した。

 神父が見ていた花は白いオリアナの花ではなく、青い花だった。


「では、確認いたします」

「どうぞ」


 事務室ではテーブルの上へ紙を広げ、その上へ花を乗せた。

 なお、花に付いていた泥や土については事前に昨日ヴェルが魔術を使って綺麗に洗い流してある。


「全部でちょうど30ですね。ありがとうございます。折れている花もなく、すべての苗が汚れも落としてあって、君たちは優秀な冒険者ですね。また私が依頼を出すときには是非お願いしたい」

「それは有り難いお話ですね。ですが、私たちはこの町に長く留まる予定はないのです」

「そうなのですか。それは残念だ。君たちは若いのに旅をしているのかい?」

「ええ、特殊な魔術を癒すための方法を探しています。もしよろしければ司教様の知恵を貸していただくことはできませんか」

「特殊な魔術ですか、私も魔術には詳しくないので申し訳ないですが、お力にはなれないかと。魔術のことなら学術都市で文献を調べるか、聖都へ行って治癒術師を探すのがよいかもしれませんね」

「聖都?」


 ヴェルと司教の話を聞いていたが、手掛かりに関して僕の知らない言葉が出てきた。

 聖と名が付くのなら、聖国と関わりがあるのだろうか。


「ええ、聖国レインフォースの首都です。私も若い頃はそこで修業したこともあるのですよ」

「確か聖都には聖女様がいらっしゃるんでしたか。美しい方と聞いていますが、司教様は聖女様を拝見されたことはございますか」

「十年以上前に、一度だけ。その時はまだ少女でしたが、可憐でありながらも神聖で、あの時に見た美しい横顔とその金の髪は一生忘れることはないでしょう」


 今代の聖女様は金の髪を持つという。シルバ父さんとリューネ母さんが話してくれた聖女と勇者の話では、聖女は神聖な存在でありながら、愚痴や我儘を言う普通の少女だと聞いていたから司教の話が少しおかしく思えた。


「聖女様のこともそうですが、聖都には数多くの優秀な人間が集まってきますから。治癒魔術のスペシャリストもきっといることでしょう。聖女様自身も治癒魔術の最上級である癒しの世界(オールリザレクション)という極大魔術を扱うと聞いたことがあります」

「……はい?」


 今なんか聞いたことがある単語が出たような。


「治癒の極大魔術ですか、それはさぞ素晴らしいものなのでしょうね」

「扱いが難しく、適性がある一部の者にしか使うことが出来ないものですが、その魔術は神の光に見間違うほど美しく、また死の際にいるものも生還させることが出来るそうです」

「……」

「おい、どうしたリキッド。顔色が面白いぞ」

「ごめん、ちょっと考え事してた。って、顔色が面白いってなにさ!?」


 ヴェルはからからと笑っていたが、僕はそれどころではなかった。

 癒しの世界(オールリザレクション)

 治癒魔術の最上級と司教は言った。

 魔族に村を襲われたあの日。家屋が潰されていたにも関わらず、村人のほとんどに目立った外傷がなかった。すべてについて確認したわけではないが、怪我をしていたはずなのに目が醒めたら傷が無くなっていたと言っていた人もいたそうだ。僕の知らない範囲で多くの人を救っている。

 逆に言えば、僕の把握出来ない範囲まで救えてしまうほどの魔術なのだ。

 先生は治癒魔術について癒しの世界(オールリザレクション)しか知らないと言っていたが、本当なのだろうか。

 最上級魔術(・・・・・)しか知らない(・・・・・・)ということがあり得るのだろうか。


「どちらか一人、ギルドカードを出してください」

「わかりました」


 ヴェルにアイコンタクトをし、僕のギルドカードを司教手渡す。

 司教はカードを指で文字を書くようになぞった後、僕へカードを差し出した。


「今、二人の今回の成果についてカードへ登録をしました。それを冒険者組合(ギルド)へ持っていけば私が提示した報酬を受け取れるでしょう」

「ありがとうございます。長いことお邪魔しましたので、お暇させていただきます。お忙しいところ失礼いたしました」

「私もミサが終わり、暇をしていたところだったからちょうどよかったよ。それにこちらもお茶も出さずに申し訳なかった。久しぶりに聖女様の話も出来て楽しかったよ」


 司教が教会の外まで送ってくれた。

 僕らよりも少し歩調が遅い司教と歩くペースを合わせる。

 綺麗に等間隔に並んだ石畳を通って、教会の外へ。

 ふと、さっき気になったことを聞いてみようと思った。


「そういえば、ミッドフェイル司教」

「なんですか」

「先ほど僕たちが声をかける前に見ていた花、オリアナの花ではありませんでしたけど、あれはなんという花ですか?」

「……名のないただの雑草ですよ」


 司教が少し言い淀んだが、そう言って苦笑するのだった。


 教会を出た足で冒険者組合(ギルド)へ向かった。借りている宿もこちらにあるので無駄足感もあるが、多少は仕方ない。教会の周りは民家ばかりだし、安く便利な宿は冒険者組合(ギルド)周辺に集まっている。


 建物へ入るとき、昨日の連中がいたらどうしようかと少し悩んだが、いくらなんでも冒険者組合(ギルド)建物内で目立つ行為もしないだろうと思い、扉を開けた。

 例の連中でも、以前見た冒険者でもない人たちが依頼の張ってある掲示板の前でああだこうだ言い合っていた。僕とヴェルはそれを横目に階段を上り、受付のある2階へ。


 受付ではセレスさんが別のグループの受付をしていた。早い時間に来ると冒険者も比較的行動しているようだ。

 少しの間、手持無沙汰でヴェルと話していると、前のグループが依頼を受注し終わり、僕たちの順番になる。


「リキッドくん、ヴェルくん。おつかれさまです。依頼は無事達成できましたか」

「はい。カードに登録もして貰いました」

「おお。偉いですね。てっきりリキッドくんは私の話を話半分でしか聞いていないと思っていましたから驚きました」

「ハハハ、ソウデスネ」


 そんな説明はなかった。なかったのだ。

 だって僕聞いた覚えないし。


「セレスさん、今日も青い髪がチャーミングですね」

「あ、露骨に話を変えてきましたね」

「初任務達成でテンションが上がってますからね。仕方ないですよ」


 セレスさんの自己主張する胸元に視線を向けながらも、僕は紳士的に対応する。そんなに見るつもりじゃないのに目が離せない。

 くっ、目が。

 僕の様子に温かい笑いを浮かべながらも、セレスさんは丁寧な対応をしてくれた。


「では、カードをお預かりいたします。登録内容の確認後、報酬をお渡しいたしますので少々お待ちください」

「ヴェル!初報酬だよ。何買う?僕はねえ、ん~。悩むなあ」

「悩むって、最初の報酬の使い道は決まっているぞ」

「え?それってヴェルの分の報酬の話だよね」

「ん?二人分のだぞ」


 まるで意思の疎通が出来ていなかった。

 幼馴染ならば言葉にしなくても伝わるなんて嘘だった。

 僕はヴェルの考えていることがわからない。


「鍛冶屋にいくぞ」


 ヴェルは当たり前の顔をしてそう言った。

 え、僕の意見は?

 もちろん意思の疎通は出来なかった。



お読みいただきありがとうございました。

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