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聖魔合一 ~魔神の眼を持つ勇者~  作者: あんずじゃむ
第二章 オリアナの花編
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第021話 泥濘~どろどろのち、こそどろ~

「なあ、リキッド。この依頼、実は結構はずれだと思うんだけど、どうよ」

「確かに金額分の労働はし、うわあ!?」


 泥濘(ぬかるみ)に足を取られてひっくり返った。

 僕もヴェルも全身が泥だらけである。


「おいおい、しっかりしろよ。さすがの俺でもリキッドと泥人形の区別がつかなくなりそうだ」

「……僕は少し前からヴェルは泥から生まれて来たんじゃないかって思ってるよ。顔についた泥が良く似合ってる」

「くっそ、あのエセ神父め。何が聖花だ、土は不浄なものだ。自分が泥んこになりたくないだけなんじゃないのか」

「うぇっ、口の中に泥が入った。じゃりじゃりする」


 オリアナの花の採取を始めて、最初はただ花を集めるだけで簡単かと思ったのだが、思いの外一筋縄ではいかなかった。

 何故なら、オリアナの花は基本的に泥濘の底の粘土に根を張っているからだ。切ったり折ったりを司教に禁じられている僕らは泥濘に入り、粘土を掘り起し、採取をしているのだが足元が本当に滑るのだ。

 朝から馬車乗り場に寄って、ヴェルが乗る予定の便の金額と日程を確認した後、すぐにこうして町の外の林で採取を始めたのだが、もう数時間も続けているのにもかかわらず、まだ11苗。目標の30の半分にもいっていなかった。

 陽が高い位置にあるため、二人で集めた花は萎れないよう荷物の近くの木陰に束ねて置いてあった。

 


「来る途中はもっとたくさん生えてた気がするんだけどなあ」

「ちゃんと数えてなかったし、見間違いだったのかもね」

「それにしたって数が少ないな。さすが聖なる花。アン姉さんと同じ名前だけあって、俺たちを振り回すのが上手い」

「言わないでよ。僕も思ったけど黙っていたのに」


 そう。リキッドの姉、オリアナも僕たちを丸一日散々振り回しては泥だらけで家に帰ったことが何度もあった。懐かしい記憶だ。

 その頃はまだ村では他にも子供はいたが、オリアナはいつも4人で遊びたがった。

 たぶん、僕たちの親がよく話してくれた魔王を倒した勇者一行が四人組だったからだろう。

 勇者と聖女。それとお供の剣士に魔法使い。

 四人は世界中を巡り、困っている人を助け、悪い魔族をやっつけ、最後には歴代最強と呼ばれる魔王を倒す物語だ。

 特にシルバ父さんとリューネ母さんが語る物語はまるでその場で見てきたような臨場感溢れるものだったからオリアナはよく僕たちの家で父さんたちの話を聞きたがった。


「よし、リキッド。もう昼も過ぎてるだろうし休憩にしよう。朝出るときに宿で貰ったハムサンドを食べて、午後から本気出せばもっと早く終わるはずだ」

「お願いだから最初から本気出してよ」

「固いこと言うなよ。手と体の泥を落とすぞ。――水よ、水球となりて我が前に沸き出でよ水圧弾(ウォーターボール)


 ヴェルが詠唱をすると、彼と僕の前にそれぞれ半身ほどの水球が現れる

 滞空する水球に手や顔を突っ込み、泥をすすぐ。冷たい水が気持ちいい。

 僕だと同時に一つしか出せず、そもそも勝手に前方に飛んでいくのに、ヴェルは水圧弾(ウォーターボール)を滞空させたまま、しかも中で水流が出来ており、手を入れると自動で泥が流れた。便利を通り越してもはやわけがわからない。ヴェルは魔術を完全に制御下に置いていた。技量の違いである。


水圧弾(ウォーターボール)ってこんな魔術だっけ。なにこれ、どうなってるの?」

「これぐらいだったらお前だって出来るだろ。リエルだとこれが体の部位毎に水玉を作るし、あげくは温水になったりするんだぞ」

「僕の!知ってる!魔術と!違う!!」


 これが才能の差!?

 リューネ母さんも先生もそういった実用的な魔術は全然教えてくれなかった。

 居もしない敵と戦う術よりも、自力で温水シャワー浴びられる方が素敵だと思うんだけど。


「人には、向き不向きがある。そうかっかするなよ」

「その言葉って優しいように見えて、単純にお前は諦めろって言ってるだけだよね」

「泥も落としたしランチタイム、ランチタイム。頑張った自分にご褒美を……お?」

「話を逸らしたな。ん、どうしたの?」


 僕を置いて傍の木の近くに置いてある荷物へ近づくヴェルが急に止まった。

 視線は地面、荷物を見ているようだ。視線を追うと荷物から足跡が続いていた。

 その足跡は荷物の場所へ近づいてきて、そしてその場から離れて行った様子だった。

 ちょうど視線を上げるとこちらから走り去る背中が見えた。

 背の低い子供のような体躯。目深に被った地味なフード。そして尻尾。

 どこかで見たような背中だ。


「……荷物がないんだが」

「そうだね。採取した花もまとめて盗られたみたいだね」

「ああ、確かにそうみたいだ。……って、あいつを追いかけるぞ!!」


 放心から立ち直ったヴェルが走り出す。

 僕も後を追うようにして駆けだした。

 不幸中の幸いか、二人とも武器は持ったままだ。

 万が一何かあっても大丈夫。


 相手は確かに逃げ足が速いが、追い付けないことはない。

 ミツキよりも遅そうだ。


「昨日もこんなことがあったな」

「ケイクルに来てから立て続けだね」

「じゃあ、昨日と同じ作戦でいくか。リキッド、あいつを追い続けられるか?」

「任せて。ヴェルはどうするの?」

「先回りする。あいつのゴール地点もなんとなく予想が付くしな」

「わかった、任せる」


 昨日と同じように短剣を握って意識を集中させる。白い魔力を全身に纏う。

 急激に上がった身体能力でフードの子供を追い立てる。

 近づくとわかる。昨日町へ着く前に林で見た少年だ。

 彼は手に僕らの荷物とオリアナの花を抱え、右へ左へ必死に逃げる。

 林道や獣道、オリアナの花が咲く泥濘も飛び越えた。

 途中、角鼠(ホーンラビット)の傍も通ったが、魔獣は走り去る僕らを横目で見ただけで何もしてこなかった。


 僕は距離を取られた振りをして、少し後ろへ下がる。

 そうすると後ろを振り返り、振り切れると確信した少年が進路を変更する。

 蛇行をやめて、一直線。


「……やっぱりか」


 その方向は僕の考えが正しければ孤児院の方向であった。

 そしてその予想通りだった。

 少しの時間距離を保ったまま走り続けると、孤児院の前でヴェル手を振って僕らを迎えるのが見えた。

 それに驚いた子供が急停止する。


「はい、ご苦労様でしたー」

「なっ!?なんでお前がここに!?」

「なんでって、君はこの孤児院の子なんでしょう。お兄さんたちを甘く見ちゃいけないよ。ほら、わかったら荷物を返すんだ。今返すなら痛いこともしないから」

「くそ!くそ!くそ!くっそおおお!!お前たち冒険者はいつもそうだ。そうやって暴力を振りかざして、俺たちを馬鹿にして。俺たちが何をしたっていうんだよ!」

「俺たちの荷物を盗った!」


 ヴェルの言う通りである。


「クルト、他人の荷物を盗ってはいけませんって教えたでしょう!」

「シスター!?」


 孤児院から一人の小柄な女性が出てきた。

 地味な貫頭衣を身に纏う青い髪を伸ばした女性は急に出てきては少年を叱りつけた。


「シスターは辞めたと言っているでしょう。私のことはセレナさんとお呼びなさい」

「でもシスター。こいつらオリアナの花を抜きまくってた!悪いやつだ!」

「それでも泥棒をして良い理由にはなりません。神もあなたが反省しないのなら罪をお許しにならないでしょう」


 シスターは辞めたと言っているが神のお許しと言っているしやっぱりシスターなのではなかろうか。

 服装も首まで襟で覆われていて、長袖と手袋という顔以外の素肌を一切見せない彼女は実にそれっぽい。

 ひとまずシスター(仮)さんとしておこう。


「神なんてどうせ何も出来ないし、怖くないやい!神が俺に向かって何が出来るっていうのさ」

「具体的に言うと、今日のスープの具が無くなります」

「……どうしたら神の許しが貰えるの、シスター?」

「まずはこちらの二人に謝って、盗った荷を返しましょう。我が子が大変ご迷惑をおかけしました」


 シスター(仮)さんが僕たちに向かって会釈をする。

 クルトと呼ばれた少年が僕たちに荷物を返してくれた。

 この女性は常識的そうだ。


「荷はお返しさせていただきます。クルトが持っているオリアナの花もあなたたちが採取したものですか?」

「はい」

「では、五つお返しいたします」

「いや、全部返してくださいよ!」

「あらあら、困ったわね」


 困ったのはこっちだ。

 ペースが独特過ぎて会話しづらいなんて初めてだ。


「ちなみに、全部でいくつあるのかしら」

「僕らが取ったのは全部で11ですね」

「つまり……五つかしら?」

「違うよ!なんで五つに拘るの!?それより大きい数を知らないの!?」

「……」


 シスター(仮)さんの顔からめちゃくちゃ冷汗が出ていた。

 もはやシスター(汗)さんだ。

 滝のように汗を流すシスター(汗)さんの後ろからまた新たな人物が現れた。


「シスター、クルト。いつまで外で喋ってるの。早く中に入ってきなさいよ。みんなもう食べるの待ちきれないって暴れ出しそうって、その泥だらけの二人はわああああ!?」


 孤児院から現れたのは一日振りのミツキだった。

 僕を指さして大声を上げるのはやめて欲しい。今日はまだ何もしていないのに。

 フードを被っていないため、彼女の銀の髪からは二つの耳がぴょこんと可愛らしく飛び出ていた。


「あ、昨日のコソ泥」

「コソ泥って言うなし!もっと他に言うことはないの!?」

「……残念な奴」

「今どこ見て言った!?ちゃんと成長中だから!馬鹿じゃないの、ぶん殴るわよ!!」

「相変わらず仲良いな」


 つい思ったことを口に出すと、何故か胸を庇うように腕を交差させたミツキに怒鳴られた。

 僕とミツキのやりとりを見て、ヴェルが笑う。

 それを見て、汗の引いたシスター(仮)、もうシスターでいいや。シスターも笑って僕らを促した。


「あら、ミツキのお友達だったの?それならお出迎えしなきゃ、どうぞこちらへ」

「こいつら冒険者だぞ!悪いやつだぞ!」

「神様がクルトの分のパンを半分にしてあげなさいとおっしゃっているわ」

「ゴメンナサイ。オレガマチガッテマシタ」

「いいのよ。それにしても、ミツキが男の子を連れてくるなんて!もう年頃だとは思っていたけど、早いものね。ちゃんとお付き合いの順序は守らなきゃだめよ」

「ありえないから。そもそも私が連れてきたわけじゃないし。連れて来たのクルトなのよね。え、本当に家に入れるの?こいつらを?」

「そういえば今朝町で働いていたらね、昨日はコソ泥が出て騒ぎがあったと聞いたのだけれど、ミツキは何か知っているかしら?あちらの二人は何か知っているようだしお話を聞かなくっちゃ。事と次第によっては、もう一人分のスープも具なしになるわね」

「アタシハナニモシリマセンヨ」


 ミツキ、少年、シスターが順番に孤児院の中に入っていく。

 ヴェルがこちらにどうする?という視線を送ってきた。


「オリアナの花をまだ返してもらってないし、付いて行くしかないでしょ」

「それもそうだな。あんなに泥まみれになったのにまた一から集めるのもきついし」


 そうして僕らも泥を落としてから、三人に続いて孤児院の中へ入った。


お読みいただきありがとうございました。

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