第019話 組合~説明はしっかりと聞きましょう~
盗られた金袋を返してもらい、中身も確認した。
まだぶつくさ言う少女は解放されてもこちらに対して怒り気味であったが、逆上である。
加害者はあちら側なのに。
「こう見えてちゃんと成長してるんだからね!本当なんだからね!バーカ!」
「ヴェル、冒険者組合はこっちでいいの?」
「なんで自分が来た道戻ろうとするんだよ。方向音痴か」
「失礼な。ちょっとしたジョークじゃないか」
「無視するなー!」
だいたいこの町は路地が入り組んでいて紛らわしいのだ。
僕は悪くない。絶対にだ。
「なんだ、まだいたのか」
「いたわよ!いるわよ、いちいち腹立つわね」
「何をそんなに怒ってるんだよ。別に危害は(魔術一発当てたけど)加えてないだろ。それとも、あっ」
「あって何よ……!?ち、ちがうからね!別に生理とかじゃないから!この変態!スケベ!おっぱいまにあ!」
「いや、何も言ってないじゃん……」
それとマニアではない。集めてもないし。
「リキッド、女の子に手を付けるのはいいけど、リエルが怒るぞ」
「なんでリエルが怒るんだ?」
「好きな人が別の異性と仲良くなったら嫌だろ」
「僕とリエルは兄妹だぞ。なに言ってるのさ?」
「お前こそなに言ってんだ。お前ら全然似てないじゃん。片や金髪黒目に、片や青緑髪と新緑の瞳だぞ。本当に兄妹だと思ってたなら、考え直した方がいい。そう思っているのはお前だけだ」
「え……」
前から薄々両親は本当の親じゃないかもしれないと思っていたけど、やっぱりそうなのか。
落ち込む。今まで自分一人で思っていただけのことをこうやって他人から改めて突き付けられると結構来るものがある。泣きそう。
駄目だ。涙が溢れてきた。
「ちょ、ちょっと何?なんなのケンカ?ほら、あんたも男の子なら泣かないの。ほーら、背中撫でてあげるから」
銀髪の少女が慌てて僕の背を撫でる。
優しくされたことで余計に涙が止まらなくなってきた。
「お、おおう。まさかそこまで落ち込むとは思っていなかった。別にシルバさんもリューネさんもお前のことを家族として大切にしてなかったわけじゃないからな。そんなのはリキッドが一番よく知っているだろ」
「……うん」
「その、村を離れた今だから言うけど、リエルがお前のことを見る目は妹のそれじゃなくて、異性としてのそれだったぞ。お前たちの両親がそれを知ってて何もしなかったんだから、つまり、そういうことだ」
「……どういうことだよ?」
「あとは自分で考えろ」
無茶を言う。
でも、そうなんだよね。やっぱりリエルや母さんたちと血は繋がってなかったのか。
自分でも全然似てないとは思っていた。
それでもショックだった。
「もう大丈夫?なに、自分の親が実の親じゃなかったらなんだって言うのよ。親代わりの人に大切に育ててもらったならよかったじゃない」
「そうだね……うん、その通りだ」
血が繋がっていなくても僕をここまで育ててくれたことには違いない。愛情だってちゃんと受け取っている。シルバ父さんには命だって救ってもらった。リューネ母さんにはこうして旅立つ用意もして貰った。
それ以上に何を望む。
血が繋がっていなくても僕は二人の子供だ。胸を張ろう。
「ありがとう。……えっと、君の名前は?」
「ミツキ。まあ、もう二度と会うこともないでしょうけどね、名前ぐらいだったら覚えてあげるわよ」
「もう会うこともないしいいや」
「何でよ!!今のはそれでも覚えてよって言って名乗る場面でしょ!」
「仕方ないな。僕はリキッド。今から冒険者になる」
「その名乗り無駄にかっこいいな。俺はヴェル。ヴェルフレア=ラッセルだけど、長いしヴェルでいいよ。俺もリキッドと一緒に今から冒険者だ」
「ラッセルって国境跨いだ先の貴族じゃない!それがなんで隣町で冒険者なんてならずものの集まりみたいなのに加入するのよばかじゃないの」
「まあ、いろいろあるんだよ」
どうもミツキは馬鹿が口癖のようだ。
リエルの教育に良くないなと思う。……そうだ、もうここは村じゃないからリエルはいないんだ。
「まあいいわ。あたしは冒険者なんかとは関わりたくないからここら辺で退散させて貰うわ。町中での鬼ごっこも少しだけ楽しかったわ。じゃあね、お馬鹿なお二人さん」
「今懐にしまった金は置いて行けよ」
「次は斬るからな」
「ひぃ!」
どや顔で去ろうとしたミツキを笑顔で引きとめた。
こいつ、僕を慰めたと見せかけてまんまと金を盗りやがった。油断も隙もないな。
リューネ母さん直伝、あたまぐりぐりで半泣きになるまでミツキを折檻した後、僕たちは冒険者組合に向かった。
本当にすぐ傍にあった。
外から見た雰囲気は村の集会場に似ている。集会場は煉瓦で出来ていたがギルドは岩を砕いたもので出来ているようだ。とにかく頑丈そうなのはわかった。
両開きの大きな木製の扉を開けると、中は酒場のようになっていて、奥に掲示板があり、紙が何枚も貼りだされていた。また、テーブルや椅子が乱雑に置かれ、屈強そうな男や年季の入った鎧をきたおじさんが座って談笑していた。彼らが鋭い目で一瞬こちらを見て、またすぐ談笑に戻った。
「受付は2階みたいだな。いこう、リキッド」
ひるんでしまった僕とは違い、ヴェルは案内を確認し淡々と進んでいく。
敵わないなあ。
2階にはテーブル等はなく、三つのドアと奥には女性が立っているカウンターが二つあった。
受付の女性は20代ぐらいだろうか。獣人ではなく、人間だった。ケイクルに来てから獣人ばかりを見ているからもしやと思ったけど、そんなことはなかった。胸は少し大きい。僕のテンションが若干上がる。
「いらっしゃいませ。冒険者組合は初めてですね。今日は依頼の届け出でしょうか、それとも冒険者登録でしょうか」
「僕らが初めてきたってわかるんですか?」
「はい。職業柄、一度見た顔は忘れませんから。それに、さっきから周りをちらちら気にしているしているでしょう」
女性がくすくすと笑う。
嫌味な感じはしない。会話で緊張している僕らを和ませようとしてくれているのだろうか。
「今日は冒険者登録に来ました」
「わかりました。それではこちらに登録内容を記載いたします。お二人とも字は書けますか?」
「はい、大丈夫です」
受け取ったペンで紙に名前と年齢を書く。出身は王国と書いた。
「あの、ここにある【特技・経歴】欄はどういうことを書くんですか?」
「ああ、そこはですね。例えば魔術中級習得やお二人なら読み書きが出来る旨などを書いていただくと、私たち職員がそれに応じた仕事を斡旋したりします。経歴は剣術道場に通った年数や、武道大会などで優勝した経歴などを書いていただければよろしいですよ」
とりあえず僕は魔術初級と読み書き・算術と書いておいた。ヴェルはこちらを覗いた後、僕の書いた内容プラス馬術と書いて提出した。案外せこい奴だな。
2枚の用紙は別の受付の人が回収し、奥へ持っていった。
「ありがとうございます。では、ギルドカードを作るのに少々お時間がかかりますので、その間冒険者組合について説明しますね」
「それって用紙を書く前に説明すべきことなのではないですか」
「おっしゃりたいことはわかります。もちろん今から話す内容で気になる部分があれば冒険者にならなくても結構です。ギルドカード作成後、カードにあなたたちの魔力――血を込めて貰って初めて正式な登録となりますので用紙を書いただけで強制加入ではありません。続けてよろしいでしょうか」
「すみません。続けてください」
「ありがとうございます。まず、冒険者組合のルールについてはおおまかに一つだけ。人に迷惑をかけないこと。これは個人に対してもそうですが、冒険者組合や国に対してもですよ。犯罪行為はめっです」
「子供扱いしないでください」
「……こほん、失礼しました」
ちょっと可愛かった。後で受付の人の名前を聞いておこう。
「とにかく、冒険者のみなさんのことをならずものの集まりだとか犯罪者集団などと呼ばれたくないのです!犯罪、ダメゼッタイ」
「わかりました」
そういえばミツキもそんなようなことを言っていたな。
「冒険者組合では依頼、つまりクエストの発注・受注、その報酬の受け渡し、あと素材の回収をさせていただいています。冒険者組合は世界中の国で共通の組織ですが、特例を除いて基本的に受けた依頼とクエストは受けた冒険者組合にて達成報告をしていたきます。万が一他の冒険者組合で達成報告をされても報酬を渡せない場合がありますのでご注意ください」
まあ別の場所で対応した報酬を用意していない場合があるから、原則受けた場所でしか報酬を受け取れないということなのでだろう。
「依頼・クエストは個人やギルドから出される雑多なこと全般があります。薬草の収集や魔獣の討伐、子どもお世話など様々なものがあります。実際に下の階の掲示板にそれぞれ張ってあると思いますので私が口で説明するより見ていただいた方が早いかもしれません。それと受注に関してですが、掲示板にある依頼の用紙を外してこの窓口まで持ってきてください。こちらで手続きを行います。また受注に関しては個人だけでなくパーティでの受注も可能です」
「パーティ?」
「はい。何人かメンバーを集めて組むことによって複数人で依頼とクエストを受けることが出来ます。パーティ、それから冒険者個人にもランク制度がありランクに応じた上下1つ差ののクエストしか受けることが出来ません」
「それはどうしてですか。上位ランクの人が下位ランクの依頼やクエストを受ければ早く安全にこなせるんじゃないの」
「それをよしとしてしまうと下位ランクの人が受けられる依頼やクエストが無くなってしまうんですよ。冒険者家業で生活している人もいますから、それでは困ってしまうわけです。それに下位ランクの方が自分より上のランクを受けると、場合によっては大きな危険が伴いますからね。これも禁止させていただいています」
なるほど。冒険者の生活と命を守るための制度なわけか。
「ランクには上からS、A、B、C、D、E、Fの7段階があります。パーティも同じです。ただしパーティのランクはメンバーの平均ランクで決まります。それとパーティのリーダーはランクがもっとも高い人から一名を選出していただき、メンバーになれるのはリーダーより二つ下のランクの方までとなります」
「じゃあBCCDのランクのメンバーでパーティを組むと、Cランクのパーティになって、リーダーのBよりランクが3つ下のEランクの人はメンバーになれないってこと?」
「はい。付け加えるとリーダーのBランクの方よりランクが高いAランクの方もパーティメンバーに加えることが出来ません。その場合は一度パーティを解散してAランクの方をリーダーに再結成をしていただく必要があります」
「なるほど、ランクはどうやって上げるんですか」
「基本的に依頼やクエストをこなすことによって上がっていきます。回数など細かい規定はあちらに張り出されていますのでご確認ください。他にも冒険者組合に対する貢献度によって回数に関係なく昇級することがあります」
「貢献度?」
「はい。例えば、厄介な魔物や魔獣の討伐や凶悪犯罪者の逮捕などですね。こちらについては明確な基準が無いのでギルドマスターなどの個人判断とはなってしまうのですが」
「わかりました」
「最後となりますが、冒険者登録には銀貨2枚が必要となります。登録時にお持ちでなければ依頼やクエストの達成報酬から銀貨2枚分になるまで何割かを差し引く形になりますがいかがでしょうか」
「すぐに支払います」
「ありがとうございます。他にご質問等はございませんか」
「大丈夫だと思います」
「お姉さんの名前を教えてください
「うふふ、あとでね。それでは、カードが出来たようなので、あなたたちの銀貨と血を頂きます」
銀貨と血をいただくと言ったところで微笑む女性受付職員さんはちょっと雰囲気があった。さっきは流されてしまったが次は絶対に名前を聞き出そう。
銀貨2枚を支払い、言われるがままに手を出す。
指先を小さい針で刺され、ぷくりと盛りあがった血を冒険者証と呼ばれるよくわからない材質のプレートにある丸い枠に押し付ける。
プレートが一瞬光と熱を発し、それが収まるとプレートに僕の名前が印字されていた。
プレートには名前と一緒に金属の板がついていた。
「これで登録は完了です。小さな冒険者さんたち」
「ありがとうございます」
ヴェルが綺麗にお辞儀をする。貴族流の正式なものだ。
「私の名前はセレスといいます。これから仲良くにしてね」
「是非!」
「おいリキッド、お前こっちに来てからキャラ変わってないか」
「前から僕は僕だぞ」
「そ、そうか……」
「ねえ、セレスさん。この金属の板は何か意味があるの?」
「それは鉄性の板なのだけど、さっき言ったランクが一目でわかるようにそれぞれランクに対応した金属を取り付けてあるの。あなたたちは登録したばかりだからF級の鉄製プレートよ。ランクが上がるごとに希少金属に変わっていくわ。頑張れ、少年たちっ!」
セレスさんのウィンクが僕を打ち抜いた。
隣でヴェルが大きなため息をついた。
そうして僕たちは冒険者になった。
これから毎日セレスさんの顔が見れると思うとやる気が出てきた。冒険者になってよかった。
お読みいただきありがとうございました。




