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聖魔合一 ~魔神の眼を持つ勇者~  作者: あんずじゃむ
第二章 オリアナの花編
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第018話 追走~金をとりもどせ!!~

 都市、ケイクル。

 頑強そうな門を潜ると、そこは初めて見るものがたくさんあった。

 門から続く幅の広い道は都市の中央まで続いているようだ。道の脇には様々な出店が屋台を出し、または敷き布を広げ、商売をしていた。

 たくさんの人、物が行き交う。見たことのない動物もいたし、初めて嗅ぐ香辛料のぴりりとした匂いが屋台から漏れてきた。急にお腹が空いてきた。

 人間対魔族の戦争が終わり、すぐに市長が変わった。その市長がやり手らしく、たった十年でこの小国の都市をここまで発展させたそうだ。

 聖国と王国を繋ぐルート上にあるというのもあって、人や物を載せた馬車が多く通るのだが、その辺りの税制を変革したらしい。曰く、人や物が入りやすく、出にくい町。

 ちなみに僕とヴェルは商品など持ち合わせていなかったため、税を取られることはなかった。


「さて、まずは宿を探しにいこうか。その後ヴェルが乗る馬車の日程と値段を調べて、冒険者組合(ギルド)も探さなきゃ」


 ここに来るまでもいろいろ考えていたがすることは多い。

 あれもこれも、僕たち二人でしなきゃいけない。

 一応事前にこの町の地図でどこに行くかは打ち合わせしてあった。


「リキッド、これ美味いぞ!」

「なに一人で食べてるのさ」

「いらないのか?」

「いる!僕も食べる!!」


 屋台の傍で串焼きを両手に何本も持って貪るヴェルに近寄る。甘辛い食欲を刺激する匂いに誘われる。

 ヴェルに差し出された串を受け取りかぶり付く。肉は少し固いが味の濃いたれが美味い。


「うまい!」

「だろ、もっと食え」

「ヴェル、その食べ方は行儀悪いんじゃないの」

「平気平気、父様も母様もいないから多少ははめを外してもいいだろ」

「都合いいなあ」


 ヴェルは両親の前ではかなり猫を被っている。

 もはや別人だと思う。


「最初に宿屋行くんだっけ?どうせ荷物も少ないし、先に冒険者組合(ギルド)を見に行こうぜ」

「え、ヴェルも興味あるの?」

「なに言ってんだ。俺も冒険者登録するぞ」

「そうなの!?」

「学術都市には行くけど、どうせ馬車も毎日出てるわけじゃないだろうしな。次の便まであと何日かはあるだろ。俺もクエスト受けてみたいし」


 冒険者は二つの条件を満たせば誰でもなれる。ひとつはお金。銀貨だ。

 もう1つが12歳以上であること。僕たちは二つとも条件をクリア出来る。

 それに冒険者登録を済ませておくことにデメリットも特になかった。登録した後に依頼やクエストをこなさなくても罰則がないからだ。


「これを食べ終わっ、いてっ!」


 フードを被った子供が僕にぶつかる。

 突然の衝撃に串を落としてしまった。

 相手は僕に何も言わず、そのまま立ち去ろうとした。


『今金を盗られた。すぐ追いかけろ』

「え?あっ、お金が無い!」

「何!?おい、待て!」


 先生に言われて懐を探ると、お金を入れておいた財布が丸ごとなかった。ヴェルとは財布を分けてあるが、リューネ母さんから受け取った貴重なお金だ。見ず知らずの犯罪者にくれてやっていいものじゃない。

 相手が人ごみに紛れこむ前に僕も走り出す。


「ヴェル!僕はあいつを追いかけるから、また後で合流しよう!」

「ったく、わかった!」


 長旅で疲れているけど、休むのは後回しだ。

 走りながら、短剣を握り意識を集中する。目は敵を追ったまま、白い魔力が体に広がるイメージを持つ。

 すると、剣を振ることなく、体に魔力が満ちた。手足が薄く白に光る。

 それと同時に僕の足が加速する。

 魔力を纏って身体能力が向上したのだ。

 今まで鍛錬としてはやってきていたことだが、以前村を襲撃されたときにこの身体強化の方法に気付いた。

 それから村を出るまでは意識して練習してきた。

 剣に魔力を込めるのはまだ剣を振らないと厳しいが、体に纏わせるだけなら意識すれば出来るようになった。


 いきなり加速した僕に驚いたのか、一度こちらを振り向いたフード姿の子供が本気で逃げの態勢になる。


「逃がすもんか」


 幸いこちらは手荷物も少ない。十分に追いつける。

 大通りを駆け抜ける。走り去る僕らを通行人たちが見ては自分に関係ないことに巻き込まれては溜まらないと道を開ける。

 徐々に詰まる距離に焦ったのか、相手が細い道に入る。土地勘のない僕たちに裏路地で追いかけるのは難しい。見通しの悪い道では逃げ切られるかもしれない。


『魔術を使え』

「走りながらでは無理だよ!」

いつも(・・・)のではなくていい。あの程度の賊なら弱い魔術でも牽制になる』


 長い鬼ごっこ。いくつかの角を曲がったところで詠唱を開始する。

 相手に向かって腕を伸ばし、手の平を向ける。


「――水よ、水球となりて我が前に沸き出でよ!水圧弾(ウォーターボール)!!」

『相手の左肩の方を狙え。それといい加減無駄な詠唱をやめろ』

「今そんなこと言ってる場合じゃないから!」


 僕の魔力が腕から手の平を通ってその先の空中に水の弾を出現させる。自分の魔力が空気中に流れ出すこの感覚はかなりの脱力感を伴う。魔力の使用で左目の奥が少し痛む。

 いつも(・・・)の魔術と違って、魔法陣は出ない。この違いは何なんだろう。また今度先生に聞いてみよう。


 先生に言われた通り左肩を狙うと相手はこちらを水に身を捻って、進行方向右の路地に飛び込んだ。

 外れた水圧弾(ウォーターボール)は壁に当たると水が弾ける大きな音がした。路地の外まで聞こえそうだ。


「逃げられたじゃないか!」

『いいから黙って追え』


 それから何度か同じやりとりを繰り返した。

 ある程度近付けたら水圧弾(ウォーターボール)で先生に言われた方へ撃ち込み、しかし命中したのは一発だけで、他は今回と同じように撃った方と反対側の路地に逃げ込まれた。


「くっ!何度もしつこいのよ!」

「なら、お金を返せよ!」

「うるっさいわね!あんたらみたいな良いとこのガキはまた親から貰えばいいじゃない!」


 フードの子供が怒鳴る。そういう問題じゃない。

 それに僕だってそろそろ追いかけるのをやめたい。全力で走りながら魔術を撃つのは辛いのだ。もう早く宿で休みたい。

 さっきから魔力の使い過ぎで左目の奥が酷く痛んできた。


「よっ」

「なっ!?ちょ、きゃああ!!へごっっっ!?!」


 突然現れたヴェルに足をかけられ、フードの子供がすっ転ぶ。

 あ、今顔面から地面に突っ込んだぞ。めちゃくちゃ痛そう。

 そして路地に大の字で転んだ子供の背中にヴェルが腰を下ろす。その手に持った剣は相手の目の前に突き刺さっていた。

 

「ぐえっ!」

「ヴェル、どうしてここにいるの?」

「どうしてって、さっき後で合流するって言ったのは冒険者組合(ギルド)の近くで挟み撃ちしようってことだろ」

「……」


 そんなつもりは一切なかったんだけど。 

 そうか、僕はいつの間にか冒険者組合(ギルド)近くまで敵を追い続けていたのか。何度も見ていたはずの地図をおぼろげに思い起こす。

 そもそも先生が魔術の指示をしていたのもここに誘導させるためだったような気がしてきた。

 あれ、これは僕だけがわかっていなかった?


「ちょっと、どきなさいよ!というか私よりガキのくせに無視しないでよ!!」

「やれやれ。まずはお顔を拝見といきますか」

「もうなんとなくわかっているけどね」


 魔力を纏った僕でもすぐに捕まえられないほど素早い身のこなし、こちらを見ずに魔力を探知するその危機察知能力。それとフードという特徴、あとケイクルへ着く前にあった孤児院。


「あ、やめなさいよ!男二人が寄ってたかって女の子に何をするつもり!?」


 フードを剥ぐとぴょこんと艶のある銀色の毛が生えた耳が飛び出した。

 案の定獣族のようだ。林であったフードの子供より背が高く、その子とは別人みたいだ。少し長い銀の髪の毛が特徴的な女の子だった。

 彼女の言うとおり、僕たちより彼女の方がいくつか年上なのだろう。背丈も僕らより少し高い。

 でも、子供は子供だ。


「ガキと言ったり男と言ったり、せわしない奴だな。おとなしく金を返せば変なことはしねえよ」

「もう少し胸を大きくしてから出直してこい。そうしたら存分に相手をしてやる」

「え?」

「え?」


 ヴェルと若干の意見の相違があった。

 僕はひとつ咳をして、女の子に向かって笑いかける。


「こほん。とりあえず、僕は平らな胸にはあまり興味はないから。お金だけ返してくればいいよ」

「あたしにだって胸はあるから!ちょっと今は栄養が足りないだけで成長中だし!だからそんな可哀相なものを見る目でこっちを見るな!ぶん殴るわよ!!」


 やれやれ、これだからお子様は困る。

 肩を竦める僕に向かってヴェルが呟いた。


「俺、たまにリキッドが別人に見えるときがあるよ」



お読みいただきありがとうございました

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