1.sweet pain
1.
繰り返し思い出す光景がある。ゆっくり遠ざかってゆく気怠げな背中。夏の日差しを受ける真っ白な夏服。私は彼を懸命に追いかけるのだけれど、決して追いつくことが出来ない。どこか初恋の夢にも似た、もどかしい記憶。
あれは由稀の後ろ姿なのかもしれないと、時々思う。生前は面識なんてなかったはずなのに。でも、なんとなく。
真夏の夜は短いけれど、一人で越えるには少し長い。私は毎晩、由稀の寝顔をぼんやり眺めていた。月の明るい日はカーテン越しに白い光が射して、彼の気難しい目許がよく見える。きっと夢の中でも、お人好しなことを考えて色々頭を痛めているのだろう。
思えば不思議な子だった。無愛想で、無礼で。そのくせ、突然現れた、こんな変なヤツのために、真剣になってくれて。
手を引かれた、あの静かな夜。向けられた憐情を心地よく感じたのは、彼の瞳や仕草があまりに優しかったからだ。こういう人なんだなって、わかった気がした。不器用で、可愛い、歳下の男の子。
寝ている時まで、眉間に深い皺が寄っている。可笑しくって伸ばした指は、ただすり抜けるばかりで。すっかり馴れ親しんだ痛みに、私は眼を細めた。ありもしない胸の、この奇妙な疼きに名前を与えたら、きっと私は消えてしまうだろう。だから、孤独な夜でいい。彼を見つめて、彼のことを考えて、それだけでいい。多くを望むわけじゃない。
叶うなら、どうか。神様もう少しだけ。
第三章「境界線にて」




