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[完結] 第三王子の認めがたい初恋  作者: 悠初


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4 エドゥアール(1)

エドゥアール……この国の第三王子、末男。美貌と、芸術支援で国民から人気。王宮にほど近い屋敷に暮らしている。

デオダ……競技場の闘士。

 大陸の西南、このモンセルニュは、国を大きく囲む山が国名の由来だ。

 国土は小さいがその国境のほとんどを山脈やら河川やらが囲っているためどうにも攻めづらく、これまでに数度あった侵攻はみな追い返すことができた。内陸国なので海の幸だけは入手しづらいが、それ以外は国内供給で十分賄い、近隣の同じような小国と平穏のうちに交易も行う。大きく儲かることもないが、大きく(きゅう)したこともこれまでない。


 俺はそんな平和な小国の第三王子として生を受けた。

 そういった国の地理や歴史も幼い頃から学んできた。

 だが兄たちが帝王学や、政治学、軍事学について学ぶなか、末子である自分だけ少し内容が違うことには早い段階から気づいていた。それに兄たちの勉学は全て家庭教師が教えていたが、自分は貴族学校へ通うことができた。

 兄たちはほぼ強制であった士官学校への入学も、初めて選択権が与えられた。

 結果、一年間の短期カリキュラムで座学を中心に学ぶというどっちつかずの道を選んだのは、いかにも自分らしい選択だったとも今は思う。

 自分に武芸が向くとは到底思えなかったが、兄たちがこなしたものを自分だけ全面的に拒否するのも忍びなかった。

 いや、否定するほどの強い意志がなかったのだ。

 その後一年遅れで大学に入り文化史を学んだ。


 代わりに、まだ士官学校に通っている兄たちに先んじて、大学生で比較的時間に融通の利いた俺が公務に出されてきた。

 俺の容姿や振る舞いは、社交界でも難なく気に入られた。兄たちと違って士官候補生ではないというだけで、親しみやすそうとか、芸術に理解がありそう、といったイメージが勝手に先行する。

 実際は、とにかく感情を消して無難に対応しているだけなのだが、いつも思い通りになったし失敗したことなどはない。


 ただでさえ国民は王族に対して支持が厚いのに、微笑んでさえいれば人から好感を獲得できたので、友達付き合いも社交も苦労しなかった。

 ただ、周りに集まってくる人々が無条件に好感「しか」向けないことは、いつも静かに俺の肩に重く付きまとった。

 誰も俺に特別なことを期待していないし、かといって敢えて非難したいこともない。

 好ましい人物ではあっても、それ以上でもそれ以下でもない。


 健康な兄が二人もいればまず王位が巡ってくることはない。長兄が王位を継ぎ、次兄がそれを支えるだろう。

 では三男の自分はどうするか。

 王族の身分を退き領地でももらって独立するかというとそれほどの気概はない。

 騎士として名を上げるかというとそんな熱意もない。

 聖職者を目指すような信仰心はかけらもない。

 そうなると、ともかく王族として留まり、比較的自分の得意な芸術振興や慈善事業をして王室のブランド力の維持に貢献する、きっとそれが自分にできる精々というところだろう。

 そうやって生涯を終える。それでいい、自分のできることをやるまでだ。求められている役目に十分応えていると言える。


「皇太子とはセルクル闘技場にも行きましたが、すごい熱気と人気でした」

「まあ、何だか怖いわね」

 家族での夕食の席、俺の報告に対しての母の感想はその一言に尽きた。

「ええ、私も正直言ってそう思っていましたが、ルールが厳格で子供でも観覧できるのです。闘士たちは紳士的でショーマンシップもあり、思ったほど粗雑な場所ではありませんでした」

 母は依然小さく首を振っているので、イメージを変えるつもりはないらしい。

 三兄弟のうち俺だけが芸術肌と見做(みな)されているのは、城下でも家族内でも同じだった。実際、大きく間違ってはいない。

 母はそういう俺を自分の一番の理解者のように感じているので、俺らしからぬ意見をやんわり拒絶したいのだ。

「悪くないじゃないか。我が国の高度な倫理観と人権への配慮を誇れる。闘いながら知性主義のアピールになるとは一挙両得だ」

 国王である父は鷹揚に構え、敢えて強い支援こそしないが産業として育つなら良し、とでもいったところだ。柔和でおっとりした性格の人である。

「父上、観光客が安全に遊べるよう警備を強化すれば、警察や軍のレベルの高さを証明できるのではないでしょうか」

 そう兄たちが賛成意見を述べ、家族の闘技場に対するイメージを一通り確認したところで、また母が口を挟む。

「それよりエドゥアール(エディ)、後でリュートを弾いてくれないかしら。貴方が王宮に帰ってきた時は必ず聴いておきたいのよ。聴いている間は心がすっかり落ち着くんだから」

「ええ、喜んで」

 他の男たち三人はしんと黙ったので、演奏には特に興味はないらしかった。


 居間でリュートを散々鳴らすと、母は大満足して寝室へ下がっていった。

「終わったのか。ご苦労だった。エディ、お前は親孝行の優しい息子だな」

 入れ替わるように父がやってきて笑い、コニャックのグラスを二つ作った。

「お前が帰ってくるだけで家族の雰囲気が(やわ)らぐ。それはお前だけの特別な個性だ。本当ならずっと一緒に暮らしたいが、お前にもお前の人生があるからな」

 父に見せる自分の像は、果たして本物なのかは分からない。親の評価はいつだって甘いのは国王であっても例に漏れないはずだ。

「ただ体に気をつけて、王族としての使命を果たしなさい。いつも国民に寄り添って、道徳的規範となり、気高い理想を以てこれからも公務に励むように」

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