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[完結] 第三王子の認めがたい初恋  作者: 悠初


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17/18

17 帰還

 デオダは印章指輪の鑑定を行い、正式に王位継承の手続きを取った。

 前王は、反逆罪、公文書偽造、詐欺罪、収賄罪等々で裁判にかけられることになる。

 続いて戴冠式に伴うセレモニーの提案を受けたが、それよりも優先したいことがある。

 これまで左遷されたり文書の改ざんを散々強要されて鬱屈していた文官たちがやる気に燃えているので、内政の立て直しはしばらく彼らに任せることにする。政治に関して自分は素人であるし、しばらくは彼らが文書にまとめたものを最終的に承認するかだけ決めれば良い。

 一新聞記者に戻ろうとしていたエリオも、参与という形で慰留してある。あれだけシンパを集め、作戦を練り、種々の根回しをして王位奪還を果たした中心人物だ、簡単に逃すわけにいかない。


 自分がここへ帰還するに至った国が、今危機に瀕している。友好国となればメリットも大きい。

 そう熱意を持って根気強く丁寧に説得し、出兵についての承認を得た。

 ずっと戦争のなかった小国のモンセルニュやバグラドールのお飾りの兵と違って、ウラニアの兵力は格段に高い。海浜国でもあるため水兵までもまた精強である。


 レジスタンス部隊も引き続き協力してくれた。

 モンセルニュへ戻り、彼らが街中へ散る。

 ストライキが長引いたモンセルニュでは、国民の収入も生活水準も下がって疲弊し、王族の再評価、王権の復興を望む声は日に日に大きくなっていると分かった。自由と権利も大事だが、強力な重しとしての権威もまた意味があった。

 バグラドールというよそ者が大きな顔で街中にのさばっているのもうんざりしている。

 

 傀儡(かいらい)政権で憂き目に遭っている商人らや貴族たちに、ウラニアが支援を用意していると情報を流した。

 バグラドール派兵団を調べてみると、その実態は民間からの公募で急遽増員した素人集団だった。

 そこへ志望兵と称したウラニア兵を潜り込ませるのは簡単だった。

 王宮の近衛兵の配置と交代時間を把握し、隙をついて(さら)ってきたのはモンセルニュ国王その人だ。

 モンセルニュ国境を流れる河に軍艦を密かに遡上させておき、そこへと連れ出す。

「どういうことなのか説明してもらえるかね……。君たちは一体?」

「改めまして、我々はウラニアから陛下らを保護する目的で参りました。私はウラニア国王のディオダートと申します」

「本当か? それでつまり、我々は別の国に新たに侵略されるということか?」

「いいえ、バグラドールの横暴は私自身も知っているのです。私はつい先日まで陛下の臣民であり、第三王子エドゥアール殿下の護衛をしておりました。その時の貴国へのご恩を返しに参ったのです」

「そんな話、(にわか)には信じられんが。貴殿がエディの護衛だったという証拠でもあるのだろうか? 何しろ今の我々は人をおいそれと信用できない状況にあるのだ……」

 そこでデオダはエドゥアールについて知っていることを一つ一つ挙げた。

 チェンバロとリュートが好きなこと。絵画、彫刻、詩が好きなこと。あのレストランのポトフが好きなこと。

 器用に生きているようでいて、実は頭が硬くて責任感が強いこと。慈しみ深くて、慈善活動にも熱心なこと。施設の子供たちから花冠をもらったことがあり、それは今も寝室の壁に飾ってあること。髪が揺れると流れ星のように輝くこと。朝起きるのが苦手で、いつも自分が抱き起こしたこと—— 。

「ある時など起こすのに一時間もかかりまして、ですが私は全く苦ではありませんでした、むしろ—— 」

「分かった、分かった。もう十分よく分かった、色々と……。とにかく、貴殿が本気で我が国を憂えてくださったこと、有り難く思う。それで、私はどうすれば良い。ここに連れてきたということはつまり……」

「ウラニアへ亡命して頂く用意があります。モンセルニュの正統な統治者を助けるという体裁を取り、派兵団に退去勧告を出し撤退させます。再び自立できるまでは後援しますが、その後は我が軍は速やかに引き上げましょう。現在、既にバグラドールとの国境の封鎖を完了しています」

「貴国の兵力は見事だな……。しかし随分有り難い話だ。その後で、我々がウラニアに何ができるだろうか?」

 デオダは(よど)みなく答える。

「まず我が国は国際社会での発言力を高め支持を得られます。そしてこの河川を整備し海上交通路として、二国間での交流・交易を確立したいと思っています。陸路の何倍も効率が良い。さらに貴国の芸術や教育福祉などの文化を学び発展と多様化を図りたいのです。我が国は長らく兵力ばかりに予算を割いてしまっていましたので。モンセルニュが豊かな芸術文化を誇り、教育や福祉に厚い国家であることは存じています」

 モンセルニュ国王は、ここまでのデオダの話を聞き、忘れそうになっていた本来の大らかで優しい性格を少しずつ思い出していた。

「ふむ。確かに二国ともに良い話ではあるが、それが全てだろうか?」

「それと……これは全く未定の話ではありますが、状況が落ち着きましたら、二国の王族間のより強固な絆を結ぶためにも、その……」

「あ、ああ……なるほど。それは条件の一つということかな?」

「まさかっ、とんでもない。それでは意味がありません。今はまだ私の一方的な提案であって……」

 この男は、国同士の交渉と同列にしてエドゥアールへの恋心をその父親である私に語ってしまったのか。

 (あき)れるほど稚拙(ちせつ)な交渉だが、その迂闊(うかつ)さは今の彼に人を信じる心を取り戻させた。

「ディオダート国王……、それは今この場で話すべきではない。後日、二人で話し合って決めれば宜しい……」

 やんわりと教えてやると、デオダの顔がぱあっと明るくなったので、国王は思わず噴き出しそうになった。

 —— いずれ私には、大きな息子が一人増えそうだ。

 若く純粋で君主としてまだ未熟だが、彼は不思議と多くの民を率いていけそうな予感をさせるじゃないか。きっとその目には将来の平和な情勢が既に見えているのだろう。

 理想が高くて不器用なエディとも、或いは上手くやっていけるのかも知れん。

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