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[完結] 第三王子の認めがたい初恋  作者: 悠初


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16/18

16 対峙

 黙って聞いていた男たちがやっと口を開く。

「驚いたな。信じがたい話だが、辻褄(つじつま)は合ってる。何よりその指輪は正当な後継者である証なんだろうし」

 その時、料理係の男がおずおずと進み出てきた。

「ディオダート様なのですか……? 本当に?」

 デオダは男の顔をじっと見た。

「ご立派になられて……。私です、厨房のパティシエの、よくスフォリアテッラをこっそり差し上げた……、いえ、ずっと昔のことですからご記憶にありませんよね」

 まさかここで覚えていないとは言いづらい。彼を見つめながら必死に記憶を辿ると一人思い当たる人物がいた。

「……ああ、ブルーノなのか? 随分と料理の幅を広げたんだな」

 デオダが笑うと、彼は駆け寄ってデオダの手を握り泣き崩れた。

 男たちが大いに沸く。

「これで証明されたな!」


「よし、今度はこっちの話をしよう。俺たちはウラニアの現政権に対抗するレジスタンスだ。ウラニアでは今、現王の圧政で苦しんでいる国民が多くいる。それに旧王派の家臣や関係者たちが迫害され、無念のうちに死んでいった者さえもいる。俺たちは被害に遭ったやつらと、その同志だ。クーデター決行まであと一歩というところにお前が現れた。天は俺たちに味方している」

 男が握手を求める。

「俺はエリオ。ただの代表者で、ここでは全員平等だ。悪いがお前さんもな」

「エリオ、みんな。どうか宜しく頼む」


***


 人混みに(まぎ)れていると、エリオが小声で文句を言ってくる。

「お前はちょっとデカ過ぎて目立つ。三十センチぐらい縮め」

「無理を言わないでくれ」

 閲兵(えっぺい)式の日。王は軍事力の誇示と権威付けのために隔年で行っているらしい。

「あそこにいるのが現王だ。どうだ、見覚えあるか?」

 柵に囲まれた台の上の観覧席。キャスケットの下から(のぞ)いてみると、当時より髪を伸ばしてはいるが確かにあの叔父の顔そのものだ。(つや)やかな黄金(こがね)色の豪華な衣装に身を包んでいる。

「ああ……忘れもしないよ」

 王宮前の広場。兵のパレードはここをスタートし、沿道を回り、また戻ってきてここを終着点とする。

 やがて、派手な軍服を着た兵たちの行進が広場に戻ってきた。

「奴らの中にもシンパは少なくない。王宮の中にも、群衆の中にも、いざとなれば味方は大勢いる。ここまで来たらビビるなよ、みんなお前が頼りだ」

「今さら恐れるものなどあるものか」

 一歩も引けない。亡き父のため、過去の自分のため、帰りを待つ人のため。

 目の前のチャンスを掴むしかない。

 全身を熱い血が駆け巡っていく。


 兵が観覧席の前に着き、まさに今パレードを終えようという時。

 エリオの合図で、(はた)や垂れ幕を持ったレジスタンス軍が飛び出す。

「王子の帰還」「真の王・ディオダート」「後継者の再臨(さいりん)

 観客たちが騒ぎ出す。

「何あれ?」

「ディオダート様って、幼い頃から療養生活だっていう、あの?」

「戻ったってなんのことだ? ずっと王宮にいるはずだろ?」

 観覧席に座っていた王はそれだけですっかり動揺した。

 一番隠さねばならない事実を国民の前で露呈されている。

「おい、あいつらを早く取り押さえろ。早くっ……」

「叔父上! ようやくお会いできました!」

 黒檀(こくたん)のレイピアを抜いたデオダが少し離れた正面に立ち、群衆に聞こえるよう敢えて大声で呼びかけた。

「な、ディオダート……!? まさか……死んだと報告を受けていたのに!」

「どうしました? 再会を喜んでくださらないのですか! それともあなたが『保護』した甥のディオダートをお忘れか!」

 観客たちはとても理解が早かった。

「なんかおかしいと思ってたんだよな。全部、王の(たばか)りだったんじゃないか?」

「ああ、こりゃ本物だな。どう見ても(にせ)の王とは格が全然違う」

「こないだ飲み屋で聞いたんだ、新王が帰ったって」

 すっかり慌てた王が、その豪奢な椅子から立ち上がった。

「何をしている! あんなやつ偽者に決まっているだろう! 早く斬れ! ……おい?」

 さっきまで団結と忠誠を高めていたはずの近衛兵は動かない。

 先王の逝去(せいきょ)の後すぐに王座についた、小物で吝嗇(りんしょく)な男。

 それと時期を同じくして重病と発表されて以来、誰の目にも触れなかった王子。

 信用できる条件は揃い過ぎている。

「では、本物の王子とやらをここへ連れて来てもらおうか! 王の印章とともに!」

「まさか……それも持っていると言うのか? ……ええい、貸せ!」

 動かない近衛兵の剣を抜き、素人剣法でデオダに向かってきた。

 レイピアの(つば)で造作もなく剣を(はじ)いてやると、それだけでバランスを崩し、そのままどさりと倒れた。

 そこにデオダが、首元に剣先を突きつける。

「くそっ! 殺せば良いだろう! 好きにしろ!」

「……生憎(あいにく)このレイピアは大事な物なので、貴方には少々もったいない」

「何だと!?」

 地面に広がった長い黒髪にレイピアを突き刺してやると、ついに観念し抵抗をやめた。

「誰か、彼を拘束してくれるか?」

 王子の初めての指示を聞いて、兵たちは嬉々として名誉ある権利を奪い合う。

「俺が連れていくっ」

「よこせ、俺が担当する」


 エリオが歩み寄り、膝を突く。

「お帰りなさい、ディオダート様。どうか国民にお声を」

 デオダは空になった椅子の前に立ち、宣言する。

「同胞たちよ、喜べ! 虚飾の王は去った! ついにウラニアは、我々の手に取り戻せり!」

 目の前で簒奪(さんだつ)劇を見届けた国民たちは、真の王を囲んで熱狂した。


 ついにその名を取り戻したデオダは、その光景を見つめる。

 信じられない。

 ひたすら逃げ隠れして生きていたあの日々。

 自分を排除した祖国になど二度と帰りたくもなかったし、一切考えないように生きてきた。

 それが、一歩踏み出したらこんなにもあっさり道が開け、今までが嘘のように多くの人々に歓迎されている。

 あの方に出会っていなかったら、今日の日はなかった。

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