第523話・現代最強の自衛官VS史上最強の魔導士⑥
錠前の拳が、イヴの内臓を粉砕した。
彼は今後の人生で『魔導封域』を一切発動しないという誓約を結び、対価として圧倒的な封域耐性と適応アドバンテージを獲得。
突き刺さった一撃は重く、イヴの魔導封域が崩壊した。
このまま押し切る!
――――内臓は潰した! 後は首を胴体から切り離せばアノマリーといえど死ぬ。このままトドメを!
腕をイヴの首めがけて振り下ろそうとしたが、
【箱舟の主のバイタル喪失、緊急措置を発動します】
「ッ!」
できなかった。
錠前からイヴを守るように、光の柱が出現。
中からは、筋肉質な巨躯を持つ人型のモンスターが現れた。
「ゴゥウウ…………」
一息吐いたそれは、錠前が以前報告書で見たモノ。
「特級神獣ゴアマンティス…………」
エクシリア暗殺で使用されたモンスター。
あの時は特戦を含めた自衛隊の決死の行動で、なんとか倒せた天界の特級神獣。
注目すべきは、その魔力総量。
外見は同じだが、以前と比べてもおそらく数十倍に強化されている。
意識を取り戻したイヴが、傷を再生しながら前に出た。
「なんだ? 言いたいことでもあるか?」
サシの戦いに水を差された格好だが、錠前は不敵に笑う。
「参ったって意味で捉えて良いのかな?」
「フッ、ほざけ。言っておくがコイツをあまり舐めないことだ。余の魔力を分け与えた今、執行者でも相手になるかわからんぞ」
「2対1、ね……。まぁハンデがあった方が君にとっては良いのかな? 僕優しいから」
「”2対1”か、フッ……勘違いするな」
掌印を結んだイヴは、さらなる魔力を放出。
さらにもう1本光の柱を出現させた。
観戦組の背筋が凍る。
中からは、”ゴアマンティス”がもう一体出てきたのだ。
魔力総量は、こちらも全く同じ。
つまり――――
「3対1だ」
「警備が厳重なこって、どこのVIPだよ」
「行け」
ゴアマンティス2体が、同時に襲い掛かる。
そのスピードは今までのモンスターの比ではなく、観戦していたエクシリアでさえ驚くほど。
しかも――――
――――ギャリギャリギャリ――――!!!!!
ゴアマンティスが錠前を殴ろうとすると、その表皮をなぞるように『魔装結界』が出現。
彼の防壁を、一気に削り立てた。
「なるほどね、配下のこいつら自身の魔力に加えて、イヴ自身が追加でバフを付与。その効果には能力自体の一部貸与も含まれるわけか」
ならば無暗に受けるわけにはいかない。
攻撃を避けた錠前は、凄まじいパワーとスピードを誇るCQCを展開。
並みのモンスターならこれでワンパンだが、さらに畳みかける。
「『劈』」
ゴアマンティスの全身を、無数の斬撃が襲い掛かった。
余波は背後のもう一体にも届き、さらには奥にあった高層ビルを粉微塵にしてしまう。
しかし、
「ごあああ!!!!」
負傷を即座に再生しながら、ゴアマンティスは反撃。
口から灼熱の劫火を吐き出し、周囲一帯を火の海にしてしまった。
上空へ退避した錠前だが、それを覆う影。
「どうした? 出力が落ちているようだが」
バリア越しにイヴが錠前を叩き落とす。
ビルを手で削ってブレーキを掛けた彼は、追撃をさせないため道路に降りた。
「イヴも普通に参戦してくるか……、普通に多対1だな」
防壁の出力低下、さらには度重なる無茶な縛りの成立。
数度の封域合戦により、錠前の回復・適応スピードは落ちつつあった。
「いつ以来かな…………、ここまで追い詰められたのは」
脳裏に蘇るは、”あの日”の記憶。
一度は自分を葬ったロシア人、ロマノフの姿。
青い学生時代を思い出しつつ、顔の汗を笑いながら拭った。
――――今更っ。
ゴアマンティスのバフは大体わかった。
イヴも現状では攻め手に欠ける。
こうなれば――――
「やるしかないね、一か八かの”暁天一閃”」




