第522話・現代最強の自衛官VS史上最強の魔導士⑤
「魔眼の修復を中断し、適応作業に全リソースを振ったか……」
斬撃で崩壊するビルから出てきたイヴに、離れたところで立つ錠前は笑みを見せた。
「勝手に手札切れと思ってくれて助かったよ、おかげで作業に集中できた」
錠前の魔眼が、このタイミングで完全に回復。
さっき放った『絶』は、至近距離だったからこそ通常時と変わらない威力を出せた。
魔眼の修復が多少遅れても、適応を進めた方がメリットの多いことは、ベヒーモス戦でわかっていたのだ。
「まぁ良い、どのみち余が優位なことに変わりはない。さて? その必死の適応でどうする? 封域に入ってくれば今度は余がお前に適応するだけだが」
そう、錠前と同じくイヴもアノマリー。
彼が封域に適応したことに対し、彼女もまたイタチごっこのように適応できる。
このような状況で、錠前勉はあり得ない行動に出た。
「じゃあ仕切り直そうか」
「っ!」
指で印を結んだ錠前は、再び魔力を集中させた。
「『魔導封域』」
再びの展開。
またも激しい押し合いが発生するが、先ほどと何かが違うことにイヴは気づいた。
「チッ……、先に適応された分。押し合いは互角になってしまったか」
「そういうこと、戦場での後手は命取りだよ」
先ほどとは違い、封域合戦は完全な互角を維持。
錠前が適応で先手を取っている分、イヴが追いかける格好になったのだ。
こうなれば、次元防壁も健全に機能する。
一気に距離を詰めた錠前は格闘戦を展開するが、
「んっ?」
イヴの打撃が、錠前の肩に当たった。
封域は依然押し合い中、錠前はただちに思考を回す。
――――こいつ、封域を維持しながら魔装結界まで展開できるのか。
全く異なるジャンルの結界術運用。
常識で考えれば錠前でも難しい技術だが、思い返せばダンジョンの生みの親がこいつ。
何も不思議なことは無かった。
「まぁ、関係ねーな」
防壁が攻略されつつあっても、殴り合いにおいては錠前に分がある。
このまま押し切ろうとして――――
「なんだ…………?」
「ほう、気づいたか」
眼前のイヴが不敵に笑う。
「貴様の適応スピードには驚かされたが、裏を返せば余も全く同じことができる」
さっきの錠前は、魔眼の修復とトレードオフで適応を完了させた。
しかし今度はイヴが、”封域に魔法を付与しない”という縛りを使い、適応を反則的なスピードで完了させていた。
これにより――――
――――パリィンッ――――!!!
「ッ…………」
「やり直しだな」
錠前勉の封域が、再び崩壊する。
即座にイヴは魔法を付与し、彼にまたも斬撃の嵐を浴びせた。
適応もイーブン。このまま押し切ろうとした彼女は、
「ッ…………!?」
できなかった。
錠前も錠前で、封域が破壊される寸前に手を打っていたのだ。
「寿司食うのにケチャップ使わないから、美味しくしろ的なバカ縛りしてんじゃねーよ」
「貴様っ」
斬撃が届かない。
いや、届いているがほぼ効いていなかった。
「魔術の神様の化かし合いね、僕の得意分野だよ」
錠前の打った手。
それは、
「浅い誓約はうっすい効果しか無い、君は執行者を運用するのに向いてなさそー」
軽口で嘲笑う錠前。
「まさか、もう適応を終えたのか?」
「”封域に魔法を付与しない”、代わりに適応の高速化をいただく。中和目当ての受け身思考だ。こんな誓約なんざ僕もさっきやってる。それに加えて――――」
一気に肉薄した錠前が、拳に力と魔力を込めた。
「”今後一切封域を展開しない”、そういう誓約を結ばせてもらった」
錠前勉の拳が、イヴの腹部を叩き潰した。
紅いイナズマが走り、周囲に衝撃波が走る。
「がっはぁ!!????」
たまらず吐血したイヴは、その場で白目を剥いた。




