第518話・現代最強の自衛官VS史上最強の魔導士①
――――ダンジョン内部、第5エリア。
「…………コカビエルの反応消失、『エンジェル・フリート』が壊滅しました…………」
古代ビルの屋上で苦々しい表情を見せたのは、大天使ガブリエル。
彼の見つめる先では、神々しい光の羽根を伸ばす神がいた。
「別によい、元から期待などしていなかったしな」
そうつぶやいたのは、全ての元凶にして史上最強の魔導士。
破壊神イヴだった。
「コカビエルは最後になんと言っていた?」
「……アダム様に申し訳ないと」
「くっはは、私の名は無しか。まぁ……当然だな」
笑みを見せたイヴに、ガブリエルが膝をつく。
「不死の薬はアダム様だけではなく、イヴ様もいてこそ完成したもの。我ら大天使の忠誠は揺るぎません」
「別にそなたらを疑ってはいない。それに、余は今気分が良いのだ」
「っと、言いますと?」
「エンジェル・フリートが消えたことで、ダンジョンを構成する結界の仕様が変わった。もはや入り口に意味はなく、外郭部がそのままこの第5エリアへ通じる。地球上全てを魔術対象にした代償だな」
ゆえに。
「感じるのだ、ヤツの気配がな」
――――富士、山頂。
日本最大の霊峰と呼ばれしここで、1人の自衛官が立っていた。
「おー寒いねぇ、さすが日本一の御山。光景も最高だね」
コンバットシャツに迷彩ズボンという姿をした錠前が、雲海を見下ろしながら言った。
「太平洋の艦隊直掩、テオドールくんに任すのは正解だったね。正直きついと思ってたんだけど」
顔を向けた先には、金髪を陽光に輝かせた執行者が立っていた。
「あの子はわたしの弟子よぉ? あんな任務くらいこなしてくれなきゃ、師匠のわたしの立つ瀬が無いわ」
「はっは、愛弟子への想いは熱いね。さて、じゃあ――――」
数歩前に出た錠前は、糸目に隠れていた魔眼を開いた。
「始めようか、エクシリアくん」
「えぇ、テオドールがハブの艦隊を破壊したから、ダンジョンを覆うバリアは大きく弱体化した。今が最高にして最後のチャンスよ」
「わかってる、サポート頼むよ」
指で印を結び、全集中力を集める。
錠前勉の膨大と言うだけでは足りないほどの魔力が、一か所に集まっていく。
富士山頂が、紅い光に飲まれていった。
同時に、執行者エクシリアの足元に魔法陣が浮かんだ。
「『ホロウ・マキナ』」
エクシリアの奥義、『ホロウ・マキナ』。
対象となる人物の魔力総量、出力を一時的だが大きく引き上げる、補助魔法の究極系。
「”深緑”、”虚妄”、”翡翠の牙”――――」
後追いでの完全詠唱。
執行者エクシリアは普段省くこれを敢えて行うことで、錠前にさらなるバフを掛ける。
180年を生きた魔導士による、本気の補助。
これを受けた錠前は、右手にさらなる魔力を凝縮。
極限まで密度をあげた魔力粒子は、電磁気力の力を超えて核融合を開始。
錠前の指先に、太陽が生まれた。
穿ち、放つは本気の一撃。
敵がまだ錠前に感づいておらず、バリアが弱まった今が最大の好機だった。
「”位相”、”無名”、”蒼白き焔”――――」
さらに錠前は、魔法が完成する直前に敢えての完全詠唱。
出力を上げた究極の魔法が、錠前の右手に宿った。
――――最初の一手で全てが決まる。
その事を完璧に理解した上で、放たれるは現代最強――――錠前勉の本気の一撃。
「暁天一閃――――『極ノ砲』」
一瞬だった。
発射された火球は秒速13キロメートルという、圧倒的な速度で富士山頂から発射。
雲海を突き破り、静岡県をあっという間に横切って魔法はダンジョンのバリアを貫通。
結界術の仕様変更が仇となり、攻撃は”直接”第5エリアで陣取る破壊神イヴに届いた。
「ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
着弾。
イヴは即座に両腕を突き出してガードしたが、富士山頂からの不意打ちは完璧に決まった。
その破壊力は上海を更地にした時を遥かに上回っており、かつ加害範囲をより縮小。
対価として、威力自体の底上げに成功していた。
高層ビルが崩壊し、多量の砂煙が地面を覆った。
転移魔法で第5エリア上空に現れた錠前は、太陽を背にゆっくりと降下。
最初の一撃は、錠前が決めた格好だ。
――――史上最強の魔導士――――
――――現代最強の自衛官――――
煙の中から歩いて出てきたイヴは、吹き飛んだ両腕を肉体反転で再生しながら彼を見上げる。
その上で、地面に降り立った錠前は不敵な笑みで人差し指を立てた。
「勘違いしてるみたいだから言っとくけど、そっちが侵略者だから」
「ガキめ」




