~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「会社も家も、夜も朝も、逃れることはできない。」
井川は、自分たちの社内発表用のパワーポイントを
22時にようやく完成させた。
そこから江川の要望する書類を作成し始めると、
終電に乗れなくなる可能性もあることから、自宅で
作業することにして、事務所を閉めて帰路についた。
電車内で、予め、マンション内での奇行や、それに
よる身体への影響等の事例を検索していたが、余りの
疲れから、2度、3度とスマートフォンを床に落とした。
何とか90分かけて帰宅したら、時計はもう23:45
であった。
そこから食事を採り、風呂に入り、缶ビルを飲んだ
井川は、そのままソファで転寝をしてしまった。
実家で両親と住む井川は、母親が風邪をひかないように
布団をかけ、起こしはしなかった。
午前5時30分。
朝陽と鳥の囀りに目が覚めた井川は、5秒ほどの空白の後、
「あっ!」と叫んだ。
そこから急ぎPCを立ち上げ、江川に指示された対応策を
調べ、ワードにほぼほぼコピーし貼り付けながら、体裁を
整えようとした。
食事もせず、髭も剃らず、ぎりぎりまで作業し、7時に
家を出た。
7時15分、いつものように快速急行に乗り、2駅進んだ
ところで、作成した書類を、会社のデスクのPCに向けて
送信する作業を、間違って自宅の自分のアドレスに送信
したような気がすることに気が付いた。
急いで次の駅で降り、全速力で家に引き返す。
時間は7時32分。遅刻を回避するには7時45分の
快足に乗らなければ始業の9時に間に合わない。
信じられない速さで帰宅し、大きな旧式のデスクトップ
型パソコンをラグビーボールのように脇に抱え、懸命に
駅へと走った。
何とか乗車することはできたが、その後、井川は大きな
代償を払うことになった。




