~マンション(共同住宅)の物語 其の1 「駐在所に警察官は居るのか!?」
逃げる男と、追いかける千枚通しの女の動画は、ここ西宮から拡散されていった。
少し向こうにスマホをずらすと甲子園球場の照明灯の明かりがフレームインした。
そんな街中で、命がけの逃亡と、それを追う鬼女の姿は、その深刻さを知らぬ通行人には滑稽な痴話喧嘩の果てに起きている珍事のように見えた。
しかし、亭主にしてみれば、命がかかっている。
認めたくなかったが、目の前から距離を縮めてきてきるのは、間違いなく妻であった。
しかし、その形相は修羅そのもの。
「捕まれば刺される。一番近くで支えてやったのに、何故こんな目に…。」
そんなことを一瞬思ったが、逃げるしかなかった。
追う妻はスタミナがどうとか、関係無くなっていた。
憑りつかれているかのように無心に追いかけてきていた。
亭主は、目の前に現れた駐在所が幻でないことを確認し、あとは中に警察官がいることを願い、走った。
駐在所の扉に体当たりするような勢いで激突し、扉を開けた。
「すみません!警察さん!いらっしゃいますか?」と叫びながら、後ろを振り返ると、信号を無視して走ってくる安仁屋さんが、あと7,8秒でここに到達しようとしていた。
扉が明かないよう足と手で食い止めながら、警察官がいなければ、「もうやられる。」と覚悟したそのとき、扉を叩く安仁屋さんとの距離は、薄いガラス一枚となった。。。




