第十四章:準決勝の壁
毎日3話公開の3日目、本日のラストとなる第14章です。立ちはだかる絶対王者、桜華高校。その沈黙のコンクリートの壁を前に、トウジの右手が最大の試練を迎えます――。
県立総合体育館は、日が進むにつれて狭くなっていくように感じられた。畳と汗 of 匂いは、地方大会の決勝トーナメントを中継するために灯された、眩しい照明の息苦しい熱気と混ざり合っている。第二射線。そこに立つトウジたちの公立校弓道部の前には、今大会最高にして最大の壁がそびえ立っていた。現・地方王者の桜華高校である。
彼らは最可の連中のような傲慢さは微塵も持ち合わせていなかった。ただ、沈黙するコンクリートの壁だった。彼らの一射一射は、機械的で、寸分違わぬ完璧な「ツルネ」を響かせる。彼らは外さない。
準決勝は、一本の矢を巡る過酷な消耗戦へと変貌していた。デジタル掲示板の累積スコアは、恐ろしい速度で上昇していく。肉体的な疲労が、確実に牙を剥き始めていた。ミナトの肩はこれまでの負荷で強張っており、ダイコの眼鏡は鼻筋の汗で滑り落ち、イツキは純粋な意志の力だけでスタンスを維持していた。
それでも、チームの流れ(フロー)は持ちこたえていた。イツキは二本の確実な的中を叩き出し、ダイコは精密な幾何学アルゴリズムで射線を安定させ、ミナトは野獣のような力強い射出の衝撃で道場の最奥を震わせた。ユウセイはエリートとしての不敵な風格を維持したまま、四本の矢すべてを的の中心にぶち込み、相手側の応援席を沈黙させた。
しかし、桜華は二十射中十九的中という驚異的な記録で応じてみせた。絶対的な重圧が、最後の大落の射線へと伸しかかる。
「大落、射位へ」
線の係員が厳かにコマンドを下した。
トウジは一步前に出た。彼の弓道着は汗で皮膚にぴったりと張り付いている。観客席を包み込んだ静寂は、窒息しそうなほどに強烈だった。連盟の待機席では、ソラ・ハチマキが椅子の上の身体を前に傾け、鋭い瞳を細めて息を呑んでいた。誰もが理解していた。この準決勝の結末は、幽霊部活の主将の最後の矢に、完全に委ねられているのだと。
トウジは足踏み(あしぶみ)の姿勢をとった。使い込まれた床板に足の裏を据えたが、一日の間に重ねてきた十二射の蓄積疲労によって、両脚が微かに震えていた。
彼は弓を掲げた。打起し。
引分け(ひきわけ)の中で弦を拡張し始めたとき、これまでの旅路における最悪の敵が、全精力を懸けて脳内に帰還した。早気の亡霊が、残虐な精神の支配者として脳の深淵から這い上がってきたのだ。肉体の疲労は彼の心理的な防壁を緩め、あの臨床的な焦燥の引き金が胸の奥で弾けた。
息苦しい熱波がトウジの首筋を襲う。三十六センチメートルの紙の的は、二十八メートルという距離の先で歪み、まるで地平線の彼方にある見えない点のように縮小していくように見えた。心臓が肋骨の裏で不規則に激しく跳ね、破裂しそうな鼓動を刻む。
(離せ。間に合わない。お前は失敗する。早く離せ!)――脳内の声が叫び、彼の腱のコントロールを力ずくで乗っ取った。
トウジはまだ会に達する手前にいた。弓は最大まで開かれておらず、矢の側面も頬に触れていない。胸のラインの拡張も、未熟なままだった。だが、臨床的焦燥が彼の指先を完全に支配した。
意識的な思考が処理を始めるよりも早く、トウジの右手の指が、暴力的に開いた。
離れ。
弦が鋭く、歪んだ不快な高音を立てて空気を引き裂いた。チームが積み重ねてきた完璧なリズムのメトロノームが、一瞬で断裂する。アルミの矢は安定を失い、体育館の風に流されながら、後方の安土の側面の壁へと激突し、人工芝の上に無残に転がった。
失射。
デジタル掲示板の赤ランプが点滅した。観客席のざわめきが、まるで嵐のように一気に沸き返った。待機線のユウセイは奥歯を噛み締め、ミナトとイツキは目を見開いて、その一敗の重みを胸の奥に感じていた。トウジの早気が、最悪のタイミングで再び首をもたげ、チームの大黒柱をへし折ったのだ。
トウジは残心の姿勢のまま微動だにしなかった。左腕を伸ばしていたが、その瞳は純粋なパニックに完全に見開かれていた。冷や汗が顔を伝い落ちる。
残る矢はわずか三本。準決勝の壁は、超えることのできない巨大なコンクリートの要塞へと変貌していた。
(第十四章 終わり)
第14章をお読みいただきありがとうございました!最悪のタイミングで再発してしまった早気の恐怖。崩れ去る主将トウジを前に、チームの運命はどこへ向かうのか。
これにて3日目の3話連続更新(12〜14章)は完了です!
明日は怒涛の【4話一挙公開】で、この大会のすべてを決するラストショットまでノンストップで駆け抜けます!更新時間はいつも通り【朝7:30、昼12:15、夜19:00、夜19:30】です。道場を死守するための魂の決戦をぜひ見届けてください!
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