第十三章:準々決勝:神童の帰還
毎日3話公開の3日目、お昼の更新となる第13章です。第一回戦を突破したトウジたちの前に立ちはだかるのは、かつてユウセイが所属していた絶対王者のエリート強豪校――。
地方大会の順位表には、ダイコとミナトの外科医のような的中によって、奇跡的な浮上を果たしたトウジたちの公立校の名前が刻まれていた。しかし、準々決勝はこの大会の本当のコンクリートの壁を彼らの前に連れてきた。最可高校――かつてユウセイが崩壊する前に絶対的な王者として君臨していた、あのエリートの強豪校だ。
本戦の射場の空気は緊迫し、畳と汗の匂いはさらに濃くなっていた。対戦相手の射線では、鋭い瞳と貴族的な構えを持つ少年が最可チームを率いている。ユウセイの幼馴染のライバルであり、現在の彼らの主将、レンだった。
両チームが一列に並んだとき、レンは幽霊部活の四番目の席――落ち前――を真っ直ぐに睨み据え、軽蔑に満ちた笑みを漏らした。
「おいおい、逃げ出した脱走兵が本当に戻ってきたのか?」
レンの声が線の手前でこだました。冷酷で、不遜極まりない声だった。
「ユウセイ、またその壊れた弓を持って、何千人の前で恥を晒しに来たのか? 一度弾け飛んだ弦は、二度と同じ張力を維持できやしないんだぜ」
ユウセイは四番目の位置で微動だにしなかった。制服の着こなしは完璧だったが、黒い竹弓の握りを握る指先が、誰にも気づかれないほどに微かに震えていた。二年前の全国大会の決勝――あの弦が激しく断裂した残響、左肩を脱臼した激痛、観客席からの哀れみの視線――そのトラウマの亡霊が脳内に押し寄せ、彼の視界を曇らせ始めていた。
試合が始まった。汚名返上を誓ったイツキが、新しく沸き返る笑みを浮かべて一本目の的中を決めた。ダイコは自身のアルゴリズムを数学的な正確さで実行し、ミナトは野獣のような一射の衝撃で体育館の床を震わせた。だが、最可は一射も外さない。彼らは完璧な機械だった。
「落ち前、射位へ」
線の係員がコマンドを告げた。
ユウセイは一歩前に踏み出したが、その足取りは重く、機械的だった。足踏み(あしぶみ)の姿勢に入ったものの、体幹の軸がミリ単位で揺らいでいる。彼は弓を掲げた。打起し。
引分け(ひきわけ)の中で弦を開き始めたとき、彼の周囲の世界は真っ暗に染まった。二十八メートル先の的は見えなかった。彼の耳の奥で鳴り響いていたのは、あの弦が引きちぎれる幻聴の残響だけだった。呼吸が浅くなる。鋭い瞳が焦点を失う。彼は地方大会の全観衆の前で、完全にコラプス(崩壊)する寸前だった。
「――おい、エリートの切り札」
深く、低く、馬鹿げているほどに冷静な声が、ユウセイの精神の呪縛を叩き割った。
すぐ後ろの五番目の席――大落――に控えていたトウジが、線の厳格な沈黙のプロトコルを破って半歩前に踏み出していた。主将はユウセイの背中、ちょうど肩甲骨 achievements の真ん中に手のひらを当て、温かく、揺るぎない圧力をかけた。
「地面はお前の足元で割れたりしないよ、ユウセイ」
トウジは、本物のリーダーとしての絶対的な気概を込めて低く囁いた。
「お前の弓の弦は、今日新しく張り直された。俺たちはあの寺の境内で、一緒に過去を削り落としてこの木を磨いたんだ。全国大会なんて忘れるんだな。俺たちのちゃんこ鍋のリズムを感じろ。もし今日お前の弦が切れたなら、俺が一緒にその弓を握ってやる。……引け」
ユウセイの背筋に、電流のような衝撃が駆け抜けた。背中にかかるトウジの手の重みが、まるで鉄の錨のように彼の体幹の揺らぎを安定させた。耳の奥の幻聴は、あの寺の未明にトウジが放った、あの完璧なツルネの記憶によって完全に消し去られた。
ユウセイは一ミリ秒だけ目を閉じ、深く息を吸い込むと、純粋な集中を宿して目を開けた。神童が、帰ってきた。
彼の会は、生きた芸術そのものだった。待機席のソラ・ハチマキが椅子の上の姿勢を正し、空間の劇的な反転に目を見開いた。ユウセイの黒い弓は外科医のような洗練さで引き絞られ、両肩は完全に一列に整い、矢の先端は的の正中を真っ直ぐに指していた。
三秒。四秒。五秒。
そこに恐怖はなかった。あるのはただ、己の尊厳を奪い返した弓引きの、最も純粋で、最もイカした誇り(プライド)だけだった。
離れ!
弦の解放は完璧だった。
ツルネ――ッ!!
体育館中に轟いたその響きは、水晶のように澄み渡った、あまりに鮮烈で強力な一音だったため、最可の選手たちが一斉に息を呑んだ。矢は尋常ではない速度で空気を切り裂き、その力学ベクトルから一ミリメートルも逸れることなく突き進んだ。
ドッ!!
アルミの矢は黒い的の中心の正中を貫き、先に的中していたレンの矢のシャフトを完全に引き裂いて、決定的な衝撃を刻み込んだ。
体育館全体が、驚愕のざわめきに沸き返った。最可の神童の帰還は、対戦相手をねじ伏せる圧倒的な技術的優位性をもって完全に証明されたのだ。ユウセイは二秒間残心の姿勢を維持し、あらゆるライバルの士気を地に叩き落ともうとするような、あの貴族的な不敵の風格を放っていた。彼はゆっくりと弓を下ろすと、身体を巡らせて横目でレンを睨み据えた。
「言ったはずだ、滑稽だって」
ユウセイは、鋭く不敵な笑みを口元に浮かべて言った。
「君たちの弓は、所詮ただのブランド物の木切れだ。俺たちの流れ(フロー)が、今、最可を飲み込んだよ」
トウジは不敵に微笑み、最後の大トリの射線へと一步踏み出した。幽霊部活は今、準々決勝の巨人を引きずり降ろしたのだ。準決勝が彼らを待っており、五本の弦は、この大会で最も格好いい風格を全身から沸き返らせていた。
(第十三章 終わり)
第13章をお読みいただきありがとうございました!ユウセイのトラウマをトウジが背中から支えてねじ伏せる、極限の信頼関係が熱い一戦でした。
この後、本日の夜19:00には、地方大会の絶対王者である最強の壁・桜華高校との激突が描かれる第14章「準決勝の壁」が公開されます。トウジを襲う最大の試練をお見逃しなく!
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