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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第一章 統治まで

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第8話 奥羽越列藩同盟

では、どうぞ

 榎本艦隊が品川沖を発した頃、東北地方では、新政府軍と旧幕府方諸藩との間で、新たな対立の構図が形成されつつあった。


 慶応四年五月、仙台・米沢両藩を中心とする東北諸藩は、会津藩の赦免嘆願しゃめんたんがんを新政府に対して行ったが、これが拒絶されたことを契機に、奥羽越列藩同盟が結成される。この同盟には、最終的に二十五藩が参加し、新政府軍に対する組織的な抵抗の枠組みを形成することとなった。


 この奥羽越列藩同盟の結成と展開についても、すでに数多くの研究が存在しており、本書ではその軍事的経過を詳述することはしない。ここでは、本書の主題に関わる範囲、すなわち、この同盟と、北米に獲得した領土との関わりについて、確認できる限りの事実を記しておきたい。


 まず指摘しておかなければならないのは、奥羽越列藩同盟そのものは、アラスカという遠く離れた土地の処遇について、組織として明確な方針を持っていたわけではない、という点である。同盟参加各藩の最大の関心は、あくまで会津藩の処遇、そして東北における新政府の影響力をいかに食い止めるかという、地域的かつ即時的な課題にあった。


 しかし、この時期、品川を出航した榎本艦隊が仙台藩領の松島湾に一時寄港したという記録が複数の史料によって確認されている。この寄港の際、艦隊に同乗していた、アラスカ買収関連の文書を携えた文官たちと、仙台藩の一部要人との間で、何らかの接触があったことを示唆する記述が、後年発見された仙台藩関係者の日記に残されている。


 その日記の記主は、仙台藩の下級藩士であったとされる人物で、名は伝わっていない。日記には、次のような一節がある。


「榎本殿の船より、北の地に関わる書付を携えたる者ありと聞く。曰く、たとひ本州にて戦利いくさのりあらずとも、かの地にて再起を図るべしとの議論、艦中にてありたりと」


 この記述が、どこまで実態を正確に反映しているかについては、慎重な検討を要する。当時の風説や、後年の誇張が混じっている可能性も否定できない。だが、少なくとも、榎本艦隊の中に、北方領土を将来の拠点として位置づけようとする考えが、何らかの形で存在していたことを示す、間接的な証拠のひとつとして、本書ではこれを記録しておく。


 奥羽越列藩同盟は、結成後まもなく、新政府軍の圧倒的な軍事力の前に、各個撃破される形で崩壊していく。閏四月以降、新政府軍は北上を続け、七月には二本松城が落城、九月には会津若松城が開城し、会津藩は降伏した。同盟に参加した他の諸藩も、相次いで新政府への恭順を表明していった。


 この間、榎本艦隊は、松島湾を経て、さらに北方の蝦夷地、すなわち箱館方面へと向かう準備を進めていたと考えられる。艦隊が最終的に松島を離れたのは、八月のことであったとされる。


 ここで、本書の主題に深く関わる、もう一つの重要な動きについて触れておかなければならない。それは、この奥羽越列藩同盟の崩壊過程において、各地で禄を失い、所属する藩そのものを失った、無数の下級武士たちの存在である。


 彼らの多くは、藩の解体あるいは降伏に伴い、それまでの身分と生活の基盤をほぼ一夜にして失うことになった。戊辰戦争という大きな政治変動の陰で、こうした名もなき武士たちがその後の人生をどのように歩んだのか、その全容を史料から再構成することは容易ではない。


 しかし、後年編纂された開拓関係の記録、また、北氷道に残された移民名簿の一部を丹念に辿ると、この時期、東北諸藩の出身者、とりわけ奥羽越列藩同盟に参加した藩の旧臣たちが、相当数、後の開拓団に加わっていたことが見えてくる。


 本書冒頭で触れた、私自身の家系の初代にあたる人物もまた、この時期、ある藩に仕えていた下級武士の一人であった。彼がどのような経緯で禄を失い、そしてどのような心境で、後にアラスカへと渡る決断をするに至ったのか。これについては、第二章において、改めて詳しく述べることとしたい。


 戊辰戦争は、この後、舞台を北へ、北へと移していく。新政府軍の追撃を受けながら、榎本艦隊、そして彼に従う旧幕府方の将兵たちは、ついに本州を離れ、蝦夷地へと至ることになる。

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