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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第五章 第二次世界大戦

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第2話 禁輸合戦

では、どうぞ

 昭和十六年に入ると、日米間の対立は外交的な言葉の応酬から、経済的な圧迫という、より実質的な段階へと移行していくことになる。


 合衆国が最初の経済的手段に訴えたのは、昭和十六年三月のことであった。この時期、合衆国は日本向けの工作機械の輸出を事実上全面的に禁止する措置を発動した。


 工作機械とは金属を削り、穴を開け、形を整えるための工業生産の根幹をなす設備の総称である。艦艇のエンジン部品、航空機の精密部品、砲身や砲架の加工に至るまで、現代の軍需産業は高精度の工作機械なしには成立しない。日本がこの分野において、合衆国製の工作機械に対して相当の依存度を持っていたことは、当時の産業統計からも明らかである。


 この禁輸措置が、日本の軍需産業に与えた影響は直ちに現れた。北氷道工廠においても、新型の旋盤や研削盤の調達が困難になり、一部の生産ラインで計画の遅延が生じていたことが、当時の工廠記録から確認されている。


 日本政府は、この禁輸措置に対する対抗手段を速やかに検討している。昭和十六年四月、日本は合衆国向けの貴金属の輸出を全面的に禁止する措置を発動した。


 この報復措置の背景を理解するためには、当時の日米間の経済的な相互依存関係について、簡潔に触れておく必要がある。北氷道の嶺林国、特に嶺林金山で産出される金、そして同地域で産出されるプラチナ等の貴金属は戦前の日米間の主要な交易品目のひとつであった。合衆国の宝飾・歯科・工業用途において、日本産の貴金属は、相当の市場シェアを占めていたとされる。この禁輸措置は、合衆国側にも決して無視できない経済的打撃をもたらすものであった。


 両国の経済的な応酬は昭和十六年の夏にかけて、さらにエスカレートしていくことになる。


 六月、合衆国は日本向けの石油関連機器の輸出を禁止した。これに対し、日本は、北氷道産の石油の対米輸出を停止した。合衆国側は、航空燃料の対日輸出を制限し、日本側は白金族金属の全面的な輸出禁止で応じた。


 こうした応酬を当時の外交担当者たちは、どのような目で見ていたのか。外務省の一職員がこの時期につけていた日記には、次のような一節がある。


「双方ともに相手に対して手を打ち続けているが、その手がいつ尽きるのか、あるいはどちらが先に別の手段に訴えるのか、誰も見えていないように思われる。交渉の糸はすでに細くなりすぎている」


 事実、この時期日米間での外交交渉は、表面上は続けられていたものの、その実質は、すでに双方が相手に対して譲歩する意志を失った、形式的なものに近づきつつあった。


 日本側にとって、北氷道の返還という選択肢は、交渉においていかなる条件のもとでも受け入れられないものであった。北氷道は明治維新以前に買収された歴史的な日本の領土であり、何世代もの日本人が、その地に根を張り、生活を築いてきた土地だったからである。これを外交的な取引の材料として差し出すことは、政治的にも、国民感情の面でも、いかなる政権にとっても不可能に近い選択であった。


 合衆国側もまた、北氷道の軍事化という問題について、日本から何らかの実質的な譲歩を引き出せない限り、交渉を妥結させることはできないという立場を、崩さなかった。


 こうして、昭和十六年の夏が過ぎ、秋が深まっていくにつれて交渉の失敗という現実が、両国政府の間で徐々に既成事実として認識されていくことになる。残された問題はもはや、開戦を回避できるかどうかではなく、いつどのような形で、戦火の口火が切られるかというより切迫した問いへと変わりつつあった。

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