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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第四章 第一次世界大戦

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第4話 昭和へ

では、どうぞ

 大正十五年(一九二六年)十二月二十五日、大正天皇が崩御され、元号が昭和と改められた。


 昭和という時代の幕開けは、新たな希望と安定をもたらすものではなかった。大正末期からすでに始まっていた経済的な混乱、そして昭和二年(一九二七年)の金融恐慌は、日本社会に深刻な打撃を与え、国民の間に、既存の政治・経済体制への不満と不信を急速に高めていくことになる。


 北氷道においてもこの経済的な混乱の影響は、無視できないものがあった。第一次世界大戦期の特需によって膨らんでいた資源産業の生産規模は、戦後の需要減退とともに縮小を余儀なくされ、炭鉱や鉱山で働く労働者の賃金削減、あるいは解雇が相次いだ。


 私の家の二代目は、この時期すでに現役の第一線を退いており、こうした経済的な混乱の直撃こそ受けなかったが、彼が長年その発展を見守ってきた嶺林の資源産業が、急速に縮小していく様子を複雑な思いで眺めていたであろうことは想像に難くない。


 一方私の祖父(三代目)は、この時期、本土の海軍航空学校での課程を終え、一式陸上攻撃機の前身となる当時の艦上攻撃機の訓練に従事していた。


 彼が航空の道を選んだのは前話でも触れた通り、少年期の定期便への憧れという原体験に由来するものであった。だが、昭和初期という時代の空気もまた彼の選択にある種の後押しをしていたと本書では考えている。この時期、日本海軍における航空戦力の位置づけは、急速に高まりつつあった。第一次世界大戦での航空機の実戦経験、そして空母技術の進歩が、航空戦力を、次の大規模海戦における主役たり得るものとして、多くの海軍将校に意識させ始めていたのである。


 昭和六年、満州事変が勃発した。


 この事変において、日本陸軍は満州全土を実効支配下に置き、翌昭和七年には満州国という事実上の傀儡国家を建国している。この一連の動きは、国際連盟の調査委員会(リットン調査団)による批判と、昭和八年の国際連盟脱退という結末につながっていった。


 北氷道は、この満州事変に直接的な形では関わっていない。だが、この事変以降日本が国際的な孤立を深めていく過程は北氷道の将来にとっても、重要な意味を持つものであった。国際的な孤立が深まるにつれ、日本国内では自給自足的な経済圏の確立、すなわち自国が確保できる資源の重要性が、改めて強調されるようになっていった。この文脈において、北氷道の豊富な地下資源と北氷道工廠の建造能力は、ますます戦略的な重要性を持つものとして位置づけられるようになっていく。


 この時期に入って私の祖父(三代目)は、中国大陸での作戦に、実戦経験として参加することになる。昭和十二年(一九三七年)、日中戦争が本格化すると、彼は海軍航空隊の一員として、中国沿岸部への渡洋爆撃に従事した。史実においてもこの時期の一式陸攻の前身となる中攻(九六式陸上攻撃機)が、長距離渡洋爆撃を行っており、この経験が、後に太平洋戦争開戦時におけるアラスカからハワイへの長距離攻撃の技術的・人的基盤を形成することになる。


 私の父(四代目)が生まれたのは、大正八年(一九一九年)のことである。祖父(三代目)が、すでに北氷道の海軍兵学校を卒業し、軍務についていたこの時期、父は嶺林国の家で、母とともに生まれてきた。


 昭和十三年、ワシントン・ロンドンの軍縮条約体制が実質的に失効し、日本は無条約時代に入っていた。この時期から大和型戦艦の建造、近江・越前・信濃・伊予という大和型空母四隻の建造計画がいよいよ具体的な動きを見せ始めることとなる。北氷道工廠は、近江・越前の建造に向けて設備の拡張と技術者の増員を急ぐこととなった。


 昭和十六年十二月八日まで、残り三年余り。北氷道という土地が、その存在の意味を最も峻烈な形で問われることになるあの日まで、歴史は着実に歩みを進めていた。


 次章では、この長い助走の先に待っていた、第二次世界大戦の開幕とその中で私の祖父と父がそれぞれ担うことになった重大な任務について、詳しく述べていくこととしたい。

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