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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第三章 明治政府統治

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第7話 定期便

では、どうぞ

 大正十三年、北氷道と本州を結ぶ定期航空便が、初めて就航した。


 これは、日本の民間航空史においても記念すべき出来事のひとつであった。当時、日本国内における民間航空はまだ黎明期にあり、本州の主要都市間を結ぶ航空便そのものがようやく整備され始めたばかりの時代であった。そのような状況の中で本州と北氷道という、広大な太平洋を挟んだ二つの土地の間に定期便を開設するという試みは当時の技術水準に照らせば、決して容易な挑戦ではなかった。


 この航空便の開設を後押ししたのは、いくつかの要因の重なりであった。まず、北氷道の人口増加と経済発展に伴い本州との人的・物的な往来が急速に増大していたことがある。従来の船便による往来は、天候や海況に大きく左右される上、所要時間も相当なものであった。より迅速で安定した連絡手段への需要は、この時期確実に高まっていた。


 また、海軍の関与も見逃せない要因であった。北氷道工廠の設立と、北方艦隊の整備拡充に伴い海軍としても、本州と北氷道の間の迅速な連絡・輸送手段の確立を、強く望んでいた。この民間航空便の開設は、海軍側の要望を一定程度反映したものでもあったと、当時の行政文書から読み取ることができる。


 最初の定期便が就航した当日の様子を記した記録が、当時の北氷道の地方紙に残されている。


「本日、東京を発ちたる飛行機、雲間を縫いてはるばると、ついに海湾国みわのくにの飛行場に降り立てり。見物の人々、地上にてこれを迎え、わが北氷道もいよいよ空によって本土と結ばれたるを、感慨深く見守りたり」


 この記事が示す通り、この定期便の就航は北氷道の住民にとって、単なる交通手段の追加以上の意味を持つ出来事として受け止められていた。それは、遠く隔たった本土との繋がりが、船という古来変わらない手段に加えて、空という新たな次元においても確立されたことを告げる出来事だったのである。


 私の祖父(三代目)が、この定期便の就航をどこで、どのような立場で目にしたのか。だが、後年彼が断片的に語り遺した言葉の中に次のような一節がある。


「初めて飛行機を見たのは、まだ子供の頃だった。雪の積もった嶺林の空の上を、あの機体が飛んでいくのを、首が痛くなるほど見上げていた。あの時から、自分もあの空に上がりたいとずっと思っていた」


 この証言は、本書がこれまで追ってきた第二章の記述と符合する。すなわち、少年期の彼が見たアラスカと本土を結ぶ定期便の飛行機への憧れである。それが、やがて彼を本土の海軍航空学校への転科へと向かわせる、ひとつの原点となったことは想像に難くない。


 この定期便の就航はまた、別の意味でも重要な意味を持っていた。航空技術の急速な発展を北氷道の住民が直接的に体感する機会となったのである。この時期、第一次世界大戦での軍用航空機の実戦経験を踏まえ、世界各国で航空機の性能向上が急ピッチで進んでいた。日本においても海軍は独自の艦上戦闘機・艦上攻撃機の開発に着手しており、その基盤となる航空技術の蓄積が、この時期急速に進んでいた。


 北氷道という土地がやがて、この航空戦力の最前線的な拠点として機能することになる歴史を思えば、この定期便の就航はある種の象徴的な意味を持つ出来事であったと本書では考えている。空がこの土地と本土を結ぶ通路として、初めて開かれたこの年、ひとりの若者がその空に向かって踏み出す決意を固めつつあったのである。


 大正十三年、私の祖父(三代目)は二十九歳。北氷道の海軍兵学校を卒業し、すでに軍務についていた彼は、本土の海軍航空学校への転科を翌年正式に申請することとなる。

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