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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第三章 明治政府統治

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第6話 震災

では、どうぞ

 大正十二年九月一日、午前十一時五十八分。


 関東地方を襲った巨大地震は、後に関東大震災として歴史に刻まれることになる。マグニチュード七・九と推定されるこの地震は、東京・横浜を中心に壊滅的な被害をもたらし、火災による二次災害も相まって死者・行方不明者は十万人を超えることとなった。


 本書は、この未曾有の災害の全容を詳述することを目的とするものではない。ここでは、この震災が、北氷道のそして日本海軍の歴史に与えた影響という限られた観点からこの出来事を記しておきたい。


 震災の直接的な被害はまず、横須賀海軍工廠に及んだ。工廠の施設の一部が損壊し、また横須賀港に停泊していた艦艇にも程度の差こそあれ一定の被害が生じている。


 より深刻な影響を受けたのが、横須賀で建造中であった紀伊型戦艦「紀伊」であった。当時、紀伊は建造の中盤段階にあったが、地震による工廠施設の損壊とその後の混乱の中で、船体に重大な損傷を受けることとなった。当初、修復の可能性について検討が行われたが、損傷の程度と修復に必要なコスト、そして当時の財政状況を総合的に勘案した結果、大正十二年末紀伊の廃艦が正式に決定された。


 これにより、紀伊型はいったん一隻(尾張)のみの体制となることになる。紀伊の代艦建造については、震災直後から海軍省内で議論されていたが、ワシントン条約の制約と財政事情のもとで、その実現にはなお時間を要することとなった。


 一方、この震災が北氷道にもたらした影響は、本州のそれとはまったく異なる性質のものであった。


 北氷道は震源から遠く離れており、地震による直接の被害は皆無に等しかった。そして、北氷道工廠で建造中であった空母・天城は何らの影響も受けることなく、工事を継続することができた。


 この事実が持つ意味は、当時の海軍省内においても明確に認識されていた。もし天城が当初の予定通り横須賀で建造されていたならば、この震災によって天城もまた、何らかの被害を受けていた可能性が高い。史実の天城が横須賀での被災により建造を断念せざるを得なかったことを想起すれば、北氷道工廠への移管という決定がいかに結果的に正しいものであったかが、改めて明らかになる。


 この震災を機に、本州一極集中の軍事生産体制が持つリスクについての認識が海軍省内でさらに強まることとなった。北氷道工廠の存在意義は、震災後より一層高く評価されるようになっていくのである。


 北氷道ではこの震災後、本州からの被災者の一部が、移住先を求めてこの地を訪れるという現象も生じている。当時の道庁の記録によれば、大正十二年から十三年にかけて例年を大きく上回る数の移民が北氷道に渡っており、その中に震災による被災者が相当数含まれていたことが確認されている。


 この時期に渡ってきた人々の中には、職人、技術者、商人など、様々な職業の人々が含まれていた。彼らの多くは北氷道の各地に散らばり、それぞれの技能を活かした生活を築いていくことになる。この人口流入は、北氷道社会に新たな多様性と活力をもたらすものでもあった。


 震災から二年後の大正十四年、空母・天城は北氷道工廠において、その建造を完了した。進水式は、海湾国の港において海軍関係者と北氷道の住民が見守る中で行われ、これが北氷道工廠における最初の大型艦竣工として、当地の歴史に記録されることとなった。


 私の祖父(三代目)はこの進水式の年、二十一歳であった。海軍兵学校の課程を終えて、まさに自らの進むべき道を定めようとしていた時期に、眼前でこの歴史的な瞬間を目にしたことが、彼の決断に何らかの影響を与えていたかどうか記録は語らない。ただ、この年、彼が本土の海軍航空学校への転科を申し出ていることは確認されている。


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