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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第三章 明治政府統治

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第4話 軍縮の海

では、どうぞ

 大正十一年(一九二二年)二月、ワシントン海軍軍縮条約が正式に締結された。


 この条約は、第一次世界大戦後の国際秩序を背景に主要海軍国の主力艦保有量を制限することを目的として、アメリカの主導により締結されたものである。交渉の場となったのはワシントンD.C.であり、日本、イギリス、アメリカ、フランス、イタリアの五カ国が参加した。


 日本全権として交渉にあたったのは、海軍大臣加藤友三郎であった。史実における交渉と同様、日本側は当初、対英米七割の保有比率を強く主張した。加藤は、英米から繰り返し六割案を提示される中で、粘り強く交渉を続けたがこの物語における歴史では、ここに史実にはなかったひとつの論点が加わっていた。すなわち、北氷道という本土から遠く隔たった広大な領域の独立防衛のために、通常の本土防衛だけを前提とした保有比率よりも多くの艦艇が必要であるという主張である。


 この主張に対するアメリカ・イギリス両国の反応は、当初懐疑的なものであった。北氷道という土地が、日本の正式な領土であること自体は、国際的に認知された事実であったが、それを理由として主力艦保有量の上積みを認めることは、軍縮交渉の根幹を揺るがしかねない先例を作ることを意味したからである。


 だが、交渉の過程で日本側は、北氷道の地理的特殊性について、具体的なデータをもって説明することに成功している。北氷道から本州主要港までの距離、北太平洋における気象条件、そして、北氷道の防衛が手薄になった場合にもたらされるリスクについての説明は、少なくとも一部の米英交渉担当者の理解を得ることにある程度の成果をもたらした。


 最終的に合意された比率は対米英七割、すなわち、日本の主力艦保有量として三十五万トンが認められる形となった。これは、史実の三十一万五千トンを大きく上回るものであり、当時の日本海軍内部には、この成果を歓迎する声が強かったと伝えられている。


 一方で条約が日本の海軍力に課した制約も、決して軽いものではなかった。八八艦隊計画として構想されていた、戦艦八隻・巡洋戦艦八隻を主力とする大規模な艦隊建設はこの条約によって、根本的な見直しを余儀なくされた。多くの計画艦が建造中止、あるいは未成のまま解体の憂き目を見ることとなった。


 紀伊型戦艦については、条約の保有枠内で辛うじて二隻のうち一隻(尾張)の建造継続が認められた。もう一隻(紀伊)については条約上の制約と、当時の財政事情とを勘案した結果、建造を一時中断する形となっていた。


 天城については、この条約交渉の時点ですでに北氷道工廠において建造が進んでいた。巡洋戦艦として計画されていた天城を、空母として改造・完成させるという案は、条約の空母保有枠(日本に認められた九万四千五百トン)を活用する観点から、海軍内部で積極的に検討されていたものである。


 この条約の締結は、北氷道にとっても一定の影響をもたらすものであった。本土防衛艦隊との比較において、北方艦隊の保有枠をどのように配分するかは、この後、海軍内部での重要な論点となっていく。北氷道工廠の建造能力は、本条約の枠内でどのような役割を担うべきか、またその能力をどのように維持・発展させるべきかについて海軍省と道庁との間で、継続的な協議が行われていたことが、当時の行政文書から確認されている。


 軍縮の時代は、同時に海軍技術の質的な転換を促す時代でもあった。量的な制約が課される中で、各国海軍は限られた保有枠の中で、いかに優れた性能を持つ艦艇を整備するかという、技術的な競争へと重点を移していくことになる。レーダー技術、航空兵力の活用、潜水艦の近代化といった分野での研究開発が、この時期急速に進展していくことになるのであるが、これらについては次章以降で改めて述べることとしたい。


 いずれにせよ、大正十一年のこの条約はその後二十年近くにわたって、日本海軍の骨格を規定することとなる、きわめて重要な制約として機能していくことになる。

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