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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第三章 明治政府統治

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第2話 嶺林の発展

では、どうぞ

 明治四十年代から大正期にかけて、嶺林国の資源産業は正式な行政区分への編入という制度的な変化を追い風に急速な発展を遂げていくことになる。


 最も大きな変化をもたらしたのは、本州からの資本の流入であった。委任統治期においては、現地の統治機構が独自に管理・運営していた鉱山事業に明治政府への正式な編入を機に、三井・三菱をはじめとする本州の大企業が相次いで参入してくるようになったのである。


 この資本流入は、嶺林国の鉱業の規模を短期間で大きく拡大させた。それまで比較的小規模な組合形式で運営されていた採掘事業は、明治四十年代を通じてより大型の設備と組織を持つ企業経営へと急速に移行していった。


 この変化は、手放しで喜べるものではなかった。大企業の参入により、これまで現地の入植者たちが主体的に担ってきた鉱業は、徐々に本州資本による経営へと従属していくことになったからである。委任統治期から鉱業に携わってきた、二代目のような人材にとってこの変化はある種の複雑な感情を伴うものであったと、本書では推測している。


 もっとも、二代目個人にとってはこの変化は、必ずしも不利なものではなかった。彼は、長年の経験と技術的な知見を評価され、三井系の企業が北氷道の鉱業事業を統括するために設立した嶺林採掘合資会社の技術顧問としてその地位を確保している。これは、明治四十三年頃の記録に確認することができる。


 この嶺林採掘合資会社は後に嶺林鉱業株式会社として改組され、大正期を通じて、嶺林国の鉱業を実質的に統括する存在となっていく。石炭についてはこの時期、蒸気機関の普及に伴う需要増加を背景に、採掘量が大幅に拡大している。第二章でも触れた通り嶺林国の石炭は、日露戦争期においてすでに艦艇用燃料の一部として供給された実績を持っていたが、大正期に入るとその供給先は海軍のみならず、民間の工場・鉄道へと広がっていくことになる。


 石油については、この時期嶺林油田のみならず、南部海湾国の沿岸部においてもより大規模な埋蔵の確認が進んでいる。海湾国沖合での試掘が本格的に開始されたのは明治四十四年のことであり、大正三年(一九一四年)頃までには、商業的採掘に十分な埋蔵量が確認された。この油田の発見は、後の第一次世界大戦において北氷道の戦略的価値を、さらに高めることになる一因ともなった。


 嶺林国の発展は、人口動態にもはっきりとした変化をもたらしている。明治末から大正初期にかけて、本州からの移民はそれまでの士族出身者中心からより多様な職業・出身地の人々へと、その裾野を広げつつあった。鉱山技術者、土木技師、教員、商人、そして単純な肉体労働者まで、様々な人々が新たな活路を求めてこの地に渡ってくるようになった。


 この人口増加は、嶺林国の中心集落を小さな入植地から、ある程度の都市的な形態を備えた町へと徐々に変貌させていった。郵便局、銀行の出張所、そして商店街の形成が、この時期相次いで記録されている。


 二代目はこうした変化の中で、自らの子供たちの教育に、相当の意を用いていたと伝えられている。彼自身が、北氷道の最初の世代として、教育機会の限られた環境の中で育ちながらも独学と実地経験によって技術を身につけてきた人物であっただけに、子供たちにはより体系的な教育を受けさせたいという思いが強かったのかもしれない。


 三代目がやがて海軍兵学校へと進む道を選ぶことになる背景には、こうした父の思いと、急速に発展する北氷道の時代の空気との双方が影響していたと、本書では考えている。次話では、その三代目の少年期と彼を軍人の道へと向かわせることになる、いくつかの出来事について述べていくこととしたい。

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