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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第二章 委任統治中

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第11話 世代交代の兆し

では、どうぞ

 明治二十年前後、北氷道はひとつの大きな節目を迎えつつあった。すなわち、最初期の入植者たちの子の世代が成人として社会の中核を担い始める時期である。


 初代をはじめとする最初期の入植者たちの多くは、すでにこの時期、四十代から五十代に差し掛かっていた。極寒の地での開拓という、心身ともに過酷な労働に従事し続けてきた彼らの中には、すでに体力的な衰えを見せ始める者も少なくなかったと、当時の統治機構による衛生・人口調査の記録から窺うことができる。


 一方で、彼らの子世代、すなわち私の家系で言う「二代目」たちは、まさにこの時期、教育を終え、それぞれの道を歩み始めようとしていた。


 二代目、すなわち初代の長男にあたる人物について、本書ではすでに、彼が嶺林国みはやしのくにに新設された小学校で初等教育を受けたことに触れている。彼の進路を辿る上で、重要な手がかりとなるのが、明治二十一年、嶺林国の鉱山組合が作成した、従業員名簿である。この名簿の中に、彼の名前が採掘技術を学ぶ見習いとして記載されていることが確認されている。


 彼がなぜ農業ではなく鉱業の道を選んだのか。当時の社会状況を踏まえれば、いくつかの推測は可能である。


 第一に、すでに述べてきた通り嶺林国における鉱業は、明治十年代を通じて急速に発展しており、農業に比べて、より高い収入と、社会的な上昇の可能性を提供する分野として、若い世代にとって魅力的に映っていたと考えられる。


 第二に、初代自身が農業に従事し続ける中、長男である二代目が、家業を継ぐのではなく、新たな分野へと進むことを、ある程度後押ししていた可能性も考えられる。これは、本書独自の解釈となるが、初代自身が、武士という身分を失い、農業という、それまでの人生になかった生業に、ゼロから取り組まざるを得なかった経験を持つ人物であったことを踏まえれば、自らの子にはより主体的に新たな時代の可能性を切り開いてほしいという思いを抱いていたとしても、不思議ではないだろう。


 二代目は明治二十一年頃から鉱山組合の見習いとして採掘技術を学び始めた。この時期の鉱山労働は、決して安全なものではなかった。当時の記録には、落盤や、坑内での事故による死傷者の記録が複数残されている。それでも、彼はこの道を歩み続け、明治二十年代後半までには、ある程度の技術と経験を備えた中堅の採掘技師としての地位を、確立していったと考えられる。


 この時期、二代目自身の家庭についても、わずかながら記録が残っている。彼は明治二十三年頃同じく嶺林国に入植していた別の旧士族の家系の女性と結婚したことが、当時の戸籍記録から確認されている。そして、明治二十年代の終わりから三十年代の初めにかけて彼らの間に、複数の子が生まれている。


 この子供たちの中の一人が、後に本書で「三代目」、すなわち、研究者である私から見て祖父にあたる人物として登場することになる。彼の誕生については、次章以降、詳しく述べることとしたい。


 明治二十年代という時代は、北氷道にとって、ひとつの安定期であったと言える。買収から二十年余りが経過し、最初の苦難の時期を乗り越えた入植者たちの社会は、ようやく、次の世代へと引き継がれていく、ひとつの「ふるさと」としての姿を、整えつつあった。


 だが、この安定は、永遠に続くものではなかった。世紀の変わり目を迎える頃、北氷道の運命は、再び本州の、そして極東全体の国際情勢の大きなうねりの中に、巻き込まれていくことになる。


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