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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第二章 委任統治中

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第7話 先住民との接触

では、どうぞ

 日本人入植者がこの地に渡る以前から、この土地には長い歴史を持つ先住の人々が暮らしていた。アサバスカ語系の言語を話す内陸部の諸集団、沿岸部に暮らすトリンギットの人々、そして北部の極北国一帯に暮らすイヌイットの人々である。彼らの生活様式は、それぞれの居住地域の自然環境に応じて、狩猟、漁労、採集を中心とした独自の文化を築き上げてきた。


 露領時代において、これらの先住民たちは、毛皮交易を通じてロシア人と接触を持ちながらも、おおむね独自の社会構造と生活様式を維持してきたとされる。露米会社の支配は、主に沿岸部の交易拠点周辺に限られ、内陸部、特に嶺林国や極北国の奥地においては、先住民の伝統的な生活が、比較的色濃く残されていた。


 日本人による統治が始まると、この先住民との関係は、新たな局面を迎えることになる。


 統治機構が先住民に対してどのような方針を取ったのか、これについては明治六年に統治機構内で作成された方針書が、現存する史料の中で最も早い体系的な記述として確認できる。この方針書には、次のような記述がある。


「土人(原文ママ)との関係については、徒に争いを生ぜしむることなく、その地理及び生活の知見を活かしつつ、漸次、本邦の風儀に導くを旨とすべし」


 この一文に示されている通り、統治機構の基本方針は、対立を避けながら、先住民の持つ実用的な知識(土地勘、狩猟・漁労の技術、気候への対応など)を活用しつつ、長期的には日本式の生活様式・言語・教育への同化を進める、というものであった。


 この方針のもと、明治七年以降、各地で具体的な施策が進められていくことになる。


 まず行われたのが、先住民の集落周辺における、日本語学校の設置である。明治八年海湾国沿岸の先住民集落の近くに、最初の学校が開設された記録が残っている。この学校では、日本語の読み書きに加え、日本式の算術、礼法などが教えられた。当初、就学する子弟の数は限られていたが、統治機構による各種の優遇措置(就学者の家庭への食糧配給の優先など)も相まって、徐々にその数を増やしていったとされる。


 また、狩猟・漁労に従事していた先住民の一部は、入植者たちの開拓事業、また後の鉱山開発において、案内人や労働者として雇用されるようになった。先述の通り、嶺林国における金鉱の発見も、先住民の持つ土地勘が、間接的な手がかりとなった可能性が、複数の記録から示唆されている。


 一方で、この時期の統治記録には、先住民の伝統的な生活様式に対する制約も、いくつか記されている。明治十年代に入ると、特定の狩猟・漁労区域における入植者の開拓地との境界設定が進められ、先住民の伝統的な移動・生活圏が徐々に制限されていく傾向が見られるようになる。また、正教会の影響下にあった一部の先住民集落においては、日本側の統治機構による神道・仏教施設の建立が進められ、宗教的な側面においても徐々に同化の圧力が強まっていったことが当時の宣教関係者の記録からも窺える。


 明治二十年代に入る頃には、特に海湾国・嶺林国周辺の先住民集落において、日本語を日常的に用いる世帯が、相当数を占めるようになっていたとされる。この時期、先住民出身者の中から、統治機構の下級官吏や、鉱山・農業における監督的な立場に就く者も、徐々に現れ始めている。


 北部極北国(きょくほくのくに)においては、この同化の進行は、南部・中部に比べて緩やかであった。これは、極北国が、統治機構の行政的な中心地から地理的に離れており、また、その厳しい自然環境ゆえに、大規模な日本人入植が、他地域に比べて遅れたことによるものと考えられる。


 以上が、委任統治期における先住民との関係をめぐる確認しうる限りの事実経過である。


 本書では、この問題について、これ以上の評価や考察を加えることは控えたい。ただ、ひとつ事実として記しておかなければならないのは、本書冒頭で述べた、私自身の家系の初代も、また、この地に渡った無数の入植者たちも、この同化政策によって生み出された土地と機会の上に、自らの生活を築いていったという事実である。彼らがこの政策に直接関与した記録は見当たらない。だが、その恩恵を、間接的にであれ受けていたことは、否定しようのない事実である。


 統治機構は、この先住民政策と並行して、行政機構そのものの整備を、着実に進めていくことになる。

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