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もし日本がアラスカを手に入れていたら  作者: 如月 愁
第二章 委任統治中

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第5話 鉱脈

では、どうぞ

 嶺林国みはやしのくににおける鉱物資源の発見は、明治八年ひとつの偶然から始まったと伝えられている。


 当時開拓地の拡大に伴い、新たな農地を求めて入植者たちは盆地のさらに奥、山間部へと踏み込み始めていた。記録によれば入植者の一団が、農地開墾のために渓流沿いの土地を切り開いていたところ、川底の砂礫の中に金色に光る粒を見つけたことが、最初の発端であったとされる。


 この発見の経緯について、当時の統治機構に提出された報告書の写しが、現存している。報告書には、次のように記されている。


「嶺林国奥地、渓流の砂中において、砂金と見られるものを発見せり。量、いまだ多からずといえども、上流に鉱脈の存する可能性、十分に考えられる」


 この報告は、ただちに榎本らの統治機構に伝えられ、現地での本格的な調査が開始された。調査には、当時招聘しょうへいされていた、お雇い外国人の鉱山技師も加わっている。これは、明治政府が本州各地の鉱山開発のために、欧米から専門家を招いていたのと同様の動きが、北方の新領土においても行われていたことを示している。


 調査の結果、明治九年にかけて嶺林国の山間部数箇所において、相当規模の金鉱脈の存在が確認された。これが、後に嶺林金山として知られることになる初期の主要な資源産地である。


 この発見が嶺林国のそして委任統治全体の経済に与えた影響は、計り知れないものがあった。それまで、農業と林業を中心とした、ようやく自給自足の目処が立ち始めたばかりの段階にあった統治機構にとって、この金鉱は、まさに渡りに船とも言うべき、新たな財源であった。


 榎本はこの発見の報を受け、ただちに採掘事業の組織化を指示している。当初、採掘は入植者たちによる小規模なものであったが、明治十年代に入ると統治機構直営の採掘組合が組織され、より組織的な開発が進められるようになった。


 この鉱山開発が、入植者たちの生活に与えた変化も大きかった。それまで農地の開墾という地道で、なかなか実りの見えない労働に従事していた人々の中から、鉱山での労働へと転じる者が徐々に増えていくことになる。


 ここで私の家系に関わるもうひとつの重要な動きについて触れておきたい。それは、初代の家系における生業の転換である。


 初代自身は、おそらく晩年に至るまで農業を生業とし続けたと考えられる。だが、後年の戸籍関係資料、また土地・職業に関する記録を辿ると、初代の長男、すなわち北氷道に移住して「二代目」にあたる人物が、若くしてこの鉱山開発に関わり始めたことが見えてくる。


 二代目の生年は、明治七年前後と推定される。つまり彼は、嶺林国での金鉱発見からまもない時期に生まれ、まさにこの資源開発の時代とともに育ったことになる。彼が具体的にいつから、どのような形で鉱山に関わるようになったかについては、改めて述べることとしたい。


 なお、鉱物資源の発見は、金鉱にとどまらなかった。金鉱の調査と並行して、嶺林国のさらに山間部、また周辺地域において、石炭層の存在も確認されている。


 石炭の発見は、明治十一年頃のことであったとされる。当初、金鉱ほどの注目を集めたわけではなかったが、後年この石炭が燃料資源として、また製鉄事業の基盤として極めて重要な役割を果たすことになる。これについては、後ほど詳しく述べることとする。


 いずれにせよ、嶺林国における鉱物資源の発見は、それまで生存のための開拓に追われていた入植者たちに初めて、未来への具体的な展望をもたらすものであった。金色の砂を渓流の中に見出したあの日から、この土地の運命は、誰も予想していなかった方向へと、静かに動き始めていたのである。

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