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遺書 その⑥

 教室ではテストが返却されていた。テストの点数を見たケイトは安堵する。0点なんてとったのは初めてだ。


「点数の高い人は正直な性格をしていて、点数の低い人は偽善的な性格をしています」


 先生の解説に、ケイトは苦笑いを堪えた。

 テストの点数が低ければ、成績優秀者に選ばれる可能性は低くなるだろう。奴隷として売られないのなら、偽善的な性格だと評価されても構わない。


「それでは、どんな答えを書いたのか比べてみましょう。ケイトさん、あなたの一問目の回答を教えて下さい」


 先生に当てられて、ケイトは回答欄に目を向ける。

 問題文は〝あなたの両親は喧嘩をしています。喧嘩の原因は、病気になった母親が、料理を作れなくなったからです。夫婦喧嘩を止めるために、あなたならどうしますか?〟という内容だった。


「私は〝母親の病気が治るまで、自分が代わりに料理を作る。〟と回答しました」

「なるほど。コーリくんは、なんと答えましたか?」


 コーリはクラスの中で、最も冷酷な男子だ。先生に指名されたコーリは、唇に酷薄な笑みを浮かべた。


「僕もケイトと同じで、〝母親の代わりに料理を作る。〟と答えました」


 コーリが母親を気遣うような回答を書くとは思わなかった。ケイトが驚いていると、先生が鼻で笑う。


「コーリくんの答えには、まだ続きがあるでしょう?」


 コーリは唇の端を吊り上げる。


「もちろんです。〝母親の代わりに料理を作る。そのときに、両親の食べる料理には、毒を入れておく。〟が、僕の答えです。両親が死ねば、夫婦喧嘩もできないでしょう?」


 ケイトからすれば、コーリの回答は、とても正気とは思えなかった。だが、他の大多数の生徒は、コーリの回答を聞いて、感心したように驚いている。


「素晴らしい回答ね。みんな、コーリくんに拍手をしましょう」


 先生に促されて、ケイトは乾いた拍手をコーリに送った。




 自宅のドアを開けると、知らない男が家にいた。この辺りでは見ない顔立ちや服装から、外国人だとわかる。両親と男は熱心になにやら話していたが、ケイトの帰宅に気づくと、示し合わせたように会話をやめた。

 いったい、なにを話していたのだろう? 疑問に思いつつも、ケイトは男に会釈をする。


「こんにちは」


 男はケイトに挨拶を返さず、ケイトのつま先から頭のてっぺんまでを、観察するような目で見ている。蛇の舌で舐められているような嫌悪感に、ケイトの背筋が総毛立った。

 じっくりとケイトを観察したあと、ようやく男は父へ視線を戻す。


「相談したいことがあるのですが、外で話せませんか?」

「もちろんです。外へ参りましょう」


 父は男にとびっきりの笑顔を送ると、打って変わってケイトには厳しい視線を向けた。


「お前は部屋で勉強でもしてろ。父さんたちは、ちょっと出かけてくるから」


 両親は男を連れて、家を出ていった。

 嫌な予感がした。あの男は、もしかしたら奴隷商人ではないのか? ケイトの売値を相談するために、家に来ていたのではないのか?


 暗々たる気持ちを抱えて、自室の椅子に座る。勉強なんて、とてもする気にはなれなかった。

 引き出しを開けて、不思議なノートを取りだす。ノートを開くと、新たな書きこみがあった。


〝サイパス村では、すべての子供が奴隷として売られていたわけではない。

 売る子供の選定は、性格診断テストにより行われていた。それは現在で言うところのサイコパステストに近い。〟


 ケイトは鞄から、今日返却されたテスト用紙を取りだした。そのサイコパステストとやらが、おそらくこれなのだろう。

 このテストで売る子供を選んでいたのなら、0点の私は選ばれないのではないのか?

 ケイトの心に、一筋の光が差した。だが、その光は、すぐに真っ暗な闇に飲みこまれる。


〝サイパス村の村人は、子供を売ったお金で生活していた。子供を売るという非情な商売を行うために必要なのは、非情な心だ。

 思いやりのある大人は、サイパス村にいてはならない。もし、そんな大人がいれば、子供を売ろうとする大人と、それを阻止しようとする大人で、争いになってしまう。

 それに、サイコパスな性格の子供は、奴隷には向いていない。主人の言うことを聞かず、主人を殺害する危険があるからだ。

 だから、奴隷として売られる子供は、思いやりのある子供ばかりだった。

 性格は遺伝する。サイコパステストによる選別が、何世代にもわたって続けられた結果、サイパス村では、サイコパスな遺伝子を持つ者ばかりが暮らすようになっていた。〟


 読み終えたケイトは、呆然とノートを見つめる。

 もっと早く教えて欲しかった。もし、この事実を知っていたのなら、昨日受けたテストで、わざと非情な答えを書いていたのに。

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