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絶望のキッズ携帯  作者: 白瀬隆
キッズ長崎に来る!
29/30

帰宅

嫁がビデオ通話で神戸にいるババアと話している。時刻は夜九時だ。やけに早い。聞き耳を立てると、ガキは弟に乳製品がいかに旨いか自慢した挙句、午後八時には眠りこけていたらしい。ババアはいくらか思うところがあるようだ。

「もっと真っ直ぐに向き合えば良かった」

声は真剣だが、抽象的な表現だ。ピンと来ていないがそういうセリフが似合う空気だったから言ってみたのだろう。そして俺の声も聞きたいと言われた。ブルドッグの人に声が聞きたいなんて言われたら怯えてしまうが、俺は毅然とした態度でビデオに映った。さすがに画面から出てくるはずはないからだ。仮に出てきたとしたら。そう思うだけで膀胱が震え始めるが、俺は顔に出さない。動物同士の争いというのはビビった方が首筋に食いつかれるとテレビで言っていたからだ。武士道を極めたもののように眉ひとつ動かさないでいると、ババアにガキはどうだったかと聞かれた。俺は静かに答えようとした。しかし、できなかった。

「シュークリームくらい食わせましょうよ。それにたまにはアイツだけ連れ出してハンバーグも食わせていいじゃないですか。弟が大変なのは分かります。でもアイツまで付き合わせる理由はない。その上ほったらかしにされて。アイツは我慢して寂しくて叫んでるんです。あれを癇癪なんて呼んでたら、心の叫びが全部癇癪だ。助けてって言っても、苦しいって言っても、全部癇癪になる。アイツはずっとたくさん笑いましたよ。俺がどれだけオモチャにしても、構ってくれて嬉しいんでしょう。愛されることに飢えてるんですよ。なんで気付かないんですか。悲しんでいるだけの子供ですよ」

ババアが黙ってしまった。俺も何と言ってフォローしていいか分からない。ババアが静かに答えた。

「私も考え直さないといけないか」

またありきたりな言葉が帰ってきた。このババア。青龍刀が必要だ。だが俺も大人だ。一言謝り席を立った。あとは嫁に任せておけば、適切な助言をするだろう。

「たまにはこっそりエクレアを買ってあげたらいいと思う」

「二人で弟が寝てからお茶を飲む時間を作ろう」

嫁が色々提案している。ババアはうなずくばかりだ。俺は感情的になった自分を恥じた。ただアイツを思うと、感情が先に立った。しかし言い忘れたことがある。俺はもう一度ビデオに映った。

「ガキに夢ができましたよ。警視庁のサイバー犯罪対策課。ここに勤めたいそうです。ガキの夢ですから、三人で応援しましょう」

ババアの顔が明るくなった。気色悪い。いや、良かった。ガキの夢。サイバー犯罪対策課に勤める前にここの連中に捕まらないことも祈りたいが、叶うことを何より願っている。そして、幸せになってもらうことが俺の夢だ。

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