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絶望のキッズ携帯  作者: 白瀬隆
キッズ長崎に来る!
30/30

翌朝

グラミチのパンツが一本ダメになったので買い替えなければならない。もうすぐ四月だ。そろそろzozoタウンに新作が並んでいるだろう。俺は英文を丁寧に日本語に訳しながらふと思った。自宅の窓際に置いた机には朝日が差し込んでくる。静かにキーボードに日本語を打ち込みながら時計を見ると、一時間半ほど通して作業していた。少し休もう。アイコスを吸いながら、残りの英文がどのくらいの分量か眺めた。


夢か。翻訳家って仕事は夢だったんだろうか。そもそも仕事が夢っていう決まりがあるのか。俺が欲しいのは立派な仕事というものでもないと思う。お金持ちと思われている歯医者という仕事についていても、それを誇らしいと思ったことは別になかったからだ。今何が欲しいか。だいたい分かってる。社会に参加している実感。不登校児と同じだ。38歳で社会人経験も浅い。雇ってくれるところなんてないし、在宅自営なんて腐ったことを何年も続けていると、どこかに勤める自信もない。ガキに偉そうなことを言っておきながら、俺もこんなもんだ。ただ、不登校児でも足掻こうとしているんだ。俺だって黙って泥沼に沈んでいてはみっともないじゃないか。


アイコスの火が消えた。俺はもう一度PCを睨み始めた。なぜか今日は仕事が進む。単語を一つ訳すだけで、一つ社会に近づいている気がするからだ。やり取りはメールだけだが、それを読むのは人間だし、翻訳した文書は企業で使われる。今の俺にできる精一杯の社会参画だ。まずはもう一度、丁寧に仕事をするところから始めよう。


次に気が抜けたのは昼飯時だ。嫁の作った弁当を食べながら、昨日までのことを思った。結構楽しかったと思う自分がいるし、嫁が俺には見せない顔をしていた。ガキがいる家庭。嫁に悪いことをしたかもしれないと思う。だが嫁はまだ42だ。俺がもう一度やり直せたら、大人になれたらガキが欲しいか聞いてみていいかもしれない。俺がうつ病になった時、嫁は子供なんていらないし、俺だけいれば十分に幸せだから気にしないでほしいと言った。休めるだけ休めばいいと言ってくれた。反対に俺は焦り、何とか金を稼ぐ立派な人にならなければならないと七転八倒した。だけど今は、ある程度だが人生は落ち着いている。俺が人生を整理するだけで、嫁に選択肢を提示することができる。もっとも嫁は子供なんていらない。二人で穏やかに健やかに幸せに暮らせればそれでいいと答えるだろう。嘘がない嫁の口癖で、おそらく本音だからだ。


ガキが夢を叶えればババアだけでなく俺や嫁も喜ぶ。誰かが夢を叶えるということは、周りの人、特に大切な人を幸せにするのかもしれない。やっと嫁の幸せを考えるようになった。そしてこっそり思うことは、ガキの前で少しいい格好がしたい。そんなことだ。実はこんなロクでなしだったなんて思われたくはない。立派でなくていい。少し格好いい人間でありたい。

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