第94話 牛が多い村
工場の爆破任務が完了し、国境から東へと向かったライリー一行は徐々に嬉しそうな表情になっていく王妃を見て、やはり常に悪意に気を張っていないといけない人生は辛いものなのだろうと思いながら牧歌的な景色の続く街道を進んだ。
夜通し走ったので馬も兵士も疲れて来たところで農村が見えてきた。この東部諸国というのは中世ヨーロッパという雰囲気の景色が広がるところで転生ものの舞台というのは大抵はこういうところを言うのではないかとライリーも思いながら御者台に座っていた。
「何か、眠くなってきたね。ライリーは眠くないの?」
体が斜めになる事が多くなってきたので気になったソフィアがライリーに話しかける。
「そうだなあ。のんびりしていて昼寝にちょうど良さそうだな。天気も良いし景色もいい。俺は異世界というのはこういうところをイメージしていたな」
「え? じゃあ、王国はライリーは思っていた場所とは違っていたの?」
「ああ。王国は異世界というよりは、向こうの世界から見たら天国みたいな感じだな。異世界に行ってさあ、冒険だって言う雰囲気じゃあないな」
「ふ~ん。そうなんだ。あ、牧場かな? 牛がたくさんいるね」
「そんな感じだな。柵もあるし」
道を進むと柵に挟まれた場所に来たので馬にこの牛たちは何か言っているのかを聞いてもらう事にした。
「なあ、この牛たちが何か言ってないか聞いてみてくれないか?」
「ああ。いいぜ……」
『こないだから旅人が多いねえ。この先の王都に用でもあるのかねえ?』
「この先の王都に向かっている旅人が多いと思うって言ってるぜ」
「そうか。やはり国を移り住んでいるのか。まあ、この先の村に行けばそれも分かるか」
雰囲気がのんびりしているので牛たちもあまり人間観察はしていないようなので先に見える村に向かう事にした。
◇◇◇
村に着くと農夫とその娘が井戸水を汲んでいた。宿は無いのかと尋ねる事にした。
「ここは良い村だな。俺たちは王国軍なんだがこの村に宿はあるか?」
これに農夫は答えた。
「ああ。あるぞ。俺は宿も経営しているから泊るといい。これは娘だ」
そう言うと娘は答えた。
「こんにちは。何泊のお泊りですか?」
「一泊ってところだな。この先の王都を経由して魔族領の中枢国に向かわないといけないからな」
「王国軍の方は大変ですね」
「そうなんだよ。俺はこことは違う世界から来て天国のような国に来れて幸せだなと思っていたら魔族領の中枢に行けと言われて、これが本当に大変ってやつだな」
「他の世界からですか? そう言えばこの国の王都にもそんな人が居たような気がします」
かなり重要な情報の気がするがカセムに把握していないのかと尋ねてみた。
「今、さらっととんでもない事を聞いたがカセムは何か知らないのか?」
「ああ。王国でも言ったが別にそんなに重要な事でもない。ソフィアもお前が来た時に大して驚いていなかっただろ?」
「まあ、それもそうだが俺の元いた世界には悪人も相当いたからな。そんなのがチート付きで転生してきたら迷惑極まりないんじゃないか?」
「何だ? そんな心配をしていたのか。そういうヤツは王国軍の最優先排除対象者になる。能力を使えなくなる処置をするために軍の担当の兵士が向かうか、クレールみたいな妖精が先に手を打ってくれているから特に心配はない」
「そうなのか。心配して損した。会ってみたいような気もするしあんなクソな世界の輩何て見たくもないと思うか、どっちかだな」
それを聞いた宿屋の娘は聞いた。
「そんな酷いところからお越しだとは知りませんでした。でも、その人はあなたが居た世界から来たのでしょうか?」
「ああ、そうか。そういや無数の世界から転移してくるのが居るって言ってたな。前の世界での人生が酷すぎてそんな事も忘れていた」
「ねえ、お客さん? 今夜、私が癒してあげましょうか?」
それを聞いたソフィアとエリンが何とも言えない表情でこちらを見つめてきた。それを感じた娘は二人の顔を見るなり、可愛い子たちがいるじゃないかと言って食事の仕込みに帰って行った。
「二人とも、これから泊まるんだから脅すんじゃないぞ」
ライリーが二人をたしなめると不満そうなエリンは言った。
「だって、ライリーさんって行く先々の街で誰かと寝ているじゃないですか。我慢して見ている私の身にもなってください」
「まあ、そうは言うが俺は学生の頃も酷かったが大人になってからも向こうの世界じゃ縁が無さ過ぎたんだ。エリンも俺がモテている方がいいだろう?」
「そりゃいい男ってことでしょうけど……」
モテているようでそうでもないように思わせる事で独占欲を無くさせる方法はこれで何度目かは忘れたが、中枢国に近づくほど前の世界の住民と近い特性になるので宿屋の娘は夜這いにでも来るのかも知れないがそうなった場合、前の世界での異常な縁の無さは一体何だったのかと思ってしまう。
そんな事を考えているとまた牛が何頭か現れた。近づくとズボンを口に咥えて引っ張ったり尻を舐めたりしてくるので馬に何て言っているのか尋ねた。
「お前らは何でそんなにライリーのズボンを舐めたり引っ張ったりしているんだ?」
『何か、舐めたくなるんだよね。ほら、この村って野暮ったい男ばっかりだしさ』
「だとよ」
それを聞いたライリーは牛に言った。
「そりゃ、これだけのどかな村だとそうなるだろう。それにこの村の馬にもっと男を磨けって言って貰えばいいんじゃないか?」
『言ってもらったよ。でも一日中、農作業だしどうせ汚れるし村娘は誰かしらと結婚するんだから必要ないって言ってるよ。それに夜は疲れてすぐ寝てしまうしね』
「まあなあ。農村あるあるだな。でもいいよなそれって結婚できずに絶望的な日々を送る村人は誰も居ないって事だろ?」
『そうだけど? そんなとこあるの?』
「俺はいくらでもそういうのを見てきたし、俺も似たようなもんだった」
『いやね~。そんなところ』
「ここは魔族領の中枢に近いし、そういう人もいるもんだと思っていた」
『いるのかな? 分からないね』
「そうか。じゃあ、俺は宿に向かうから咥えるのをやめてくれ」
『しょうがないねえ。じゃあ、草でもまた食べようかね』
のどか過ぎてキリが無いとはこの事だろうなと思いながらライリーらは宿に向かった。素朴で温かみのある宿に着き、部屋に荷物を置いた一行は食堂に向かうと料理が用意されていた。




