第93話 綺麗ではない花火
馬車の窓から煙が上がっているのを見た王妃はエリンに状況を尋ねた。
「エリンさん、煙が上がっていますがライリーさんたちは上手くやれているのでしょうか?」
「今のところ、連絡は入っていません。入っていないという事は今は上手く行っているのでしょう」
◇◇◇
王妃の不安を他所にライリーらは工場に潜入しており、爆薬を設置していた。向こうで煙が見えた時は一つ目の爆薬を使用した際の煙で、可燃物の多い倉庫を敢えて狙い爆破したものであった。
ライリーとソフィアは工場のボイラー室の外壁に姿を消す魔道具を使用して待機していた。
「一つ目の爆弾を使って倉庫を爆破した。ここからどう動くか……」
ライリーが爆破されたのを確認した。横にはソフィアも待機している。
「そうだね。ここから上手く行くといいんだけど」
「ああ……透視した感じだと上手く動いているな。スパイ映画のようだな」
「スパイ映画って何?」
「俺のいた世界には大きな布に映像を投影する機械があってそれを使って映像を流す場所があってな。そういう所で娯楽目的で映像を流しているものの中に今見ているようなのがあったんだよ」
「へえ。そうなんだ。この世界じゃ魔道具一つで簡単に見られるからこっちとは大分違うんだね」
「似たようなものは幾つかあるんだが、違うのはこの世界では映画のようなものが無いって事だな」
「ああ、思い出したよ。王立研究所で見た事ある。確かにこっちの世界だと本を読んでそれを想像した結果を魔道具で映像にするとかはあるけどライリーのいた世界みたいに最初からそれが出来ている映像を流すという事はしないね」
「何故かは分からないが、不思議だよな。この世界にはそういう娯楽目的の映像が存在しないってのが」
「う~ん。昔はあったって聞いた気がするんだけど、私もそれを見てどうするの? って思っちゃうかな」
「まあな。この世界だとダイブシステムもあるし見るものが多いから必要無いといえば無いと思う」
そんな事を話していると先に工場に潜入している冒険者の二人は順調に爆弾を設置していき、残すところ一つとなった。
ここが正念場であり、ボイラー室に設置する。ライリーに確認の無線が入る。
『聞こえる? 今からボイラー室に爆薬を設置するけど私のこの棒を見て……』
「……ああ。見えた」
『じゃあ、あっちと……あっちに警備員が居るのがわかる?』
「……見えた。奴らを始末すればいいのか?」
『そうなんだけど、監視装置が厄介な位置にあってね。だから私がこうやって……棒で円を描いてから差した方角にいる警備員をやってくれない?』
「了解した。魔道具の透視の時間差が僅かにある。数秒は余裕を持たせて指示してくれ。今から魔法で透過矢を撃つ準備をするが何秒後がいい? すぐか?」
『……すぐに取り掛かれるよ。二十秒待てばいい?』
「念のため四十秒で頼む」
『分かった』
そう言うと彼女は手早く爆弾を設置していったが早速、警備員がまずい位置に来た。彼女から指示が出た。
「ソフィア、撃つぞ。他は問題無いか?」
「無いよ」
ライリーが警備員を壁の外から透過矢で撃ちぬくとその場に倒れた。倒れた警備員を予め用意しておいた掃除用具等を収納しているカートに押し込む。
あと二人はいるのだが全て始末してしまうと今度は監視装置から見ている連中に怪しまれてしまう。どのように加減するのかを尋ねる事にした。
「一人は倒したが、後の二人まで倒すと怪しまれるだろう。どうするんだ?」
『うん。今の一人が一番、問題がある位置にいる警備員だから後の二人は上手くやればやり過ごせるよ』
「わかった」
通信を終えると二人の冒険者は手早く爆弾を設置して行き、全ての設置が完了した。
『全部の設置が終わったよ』
『……聞こえるか? こちらも完了した』
これにカセムが答える。
「よくやった。従業員も全て安全な位置に居る事を確認した。まあ、惜しいのは魔貴族の工場長だな。虫の知らせか姿が見えない」
『俺も探したんだが、見つからなかったから他の従業員に聞いたら今日は中枢国に会議のために向かったってよ。運の良いヤツだ』
「なるほどな。事故を装って始末したかったが仕方あるまい。後はこちらの狙撃手が二人をサポートする。工場から脱出してくれ」
『了解した』
『頼りにしてるよ』
透視魔法で二人が工場から脱出したのを確認したライリーらは工場から限界まで距離を取りつつ、防御魔法を展開した。
「ソフィア、そろそろ花火が上がる。防御魔法を頼む」
「任せて」
魔法を展開すると無線が入った。
『カセムだ。皆、防御魔法は展開出来ているようだな』
カセムが確認し終えると爆弾魔は爆破のカウントダウンをはじめた。
『皆、準備はいいね? ……三、二、一……』
カウントダウンが終わると工場は激しい爆発とともに粉砕された。風についても王国の予想通り、上手い具合に吹いており見るからに有害にしか見えない煙も上がっているが人の居ない方向へと流れている。
一仕事終えた気分の爆弾魔はつぶやいた。
『いい仕事をしたよ。実に綺麗に木端微塵になったって言葉が似合うね』
「ああ。よくやった。だが、今すぐ離脱して国境を超えなければいけない」
声が徐々に近づいて来るなと思ったらもうすぐそばまで来ていた。
「じゃあ、馬車の中から見ないとね」
爆弾魔とライリーらは馬車に乗り込み、脱兎のごとく全速力で国境まで向かった。
◇◇◇
国境付近の王妃らにも連絡が入り、東部へと出発する事となった。エリンに通信が入った。
「はい。了解しました。ではこのまま護衛を続けます」
「工場が激しく燃え上がっているようですが上手く行ったのですか?」
王妃が作戦が上手く行ったのかとエリンに尋ねた。
「はい。先ほど連絡が入り、木端微塵になったそうです。今、全速力でライリーさん達もこちらに向かっているそうです」
「それはよかったです。……本当に」
「私たちは先に出発するよう指示がありましたので今から馬車を出しますね」
そう言うとエリンらの居る部隊も東部へと進みだした。街道を進んでいると先ほどいた街の住民かと思われる民も歩いているのが見える。進むにつれ、曇り空も徐々に晴れ次第に日も落ちていった。




