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第92話 爆破任務

 任務のため入念な準備をした翌日、雲が空一面に広がった陰気な雰囲気の朝を迎えた。湿度も高く、工場を爆破した際に出る粉塵等が少しでも抑えられればこの天気も都合の良い天気となるだろう。

 潜入して爆破と言えば夜のうちにするのが一般的だが今回は工場が操業している昼間に決行する。その方が従業員のフリをしたりと動きやすいのである。


 まず工場に向かう前にギルドの客室で冒険者と合流した。昨日の爆弾娘と屈強な元兵士の冒険者である。


「カセムは私の事は知っていると思うけど、今日はよろしくね。あのデカい工場を木端微塵に出来ると思うと興奮が止まらなかったよ!」

「俺は王国の皆とは初めてだな。俺は従業員として潜入して爆弾の設置をこの娘と一緒に行う」


 挨拶をした二人にライリーは答えた。


「ああ。二人ともよろしく。爆弾の設置をする位置は図に示してくれているんだよな?」


 これに元兵士が答える。


「もちろんだ。……こいつを見てくれ」


 そう言うと彼は工場の図面をテーブルに広げ、爆弾の設置位置についての説明を始めた。


「では皆、見てくれ。ここが工場の正面入口だ。娘はここから清掃員として出勤して潜入する。

 俺は荷馬車で工場に材料を運ぶ仕事が今日、入っているのでこの荷物に爆弾を紛れ込ませる」


 これに娘が答えた。


「そして、私は清掃作業をしながら荷下ろし場に近づきゴミを回収するフリをして爆薬を受け取る。そのまま、ここと……ここに設置」

「俺は荷物を製造ラインに運ぶ途中にここと……ここ、そしてその先の通路の影にある柱に設置する」


「次に私は、彼がここに置いた爆薬を回収して、後の三か所に設置する」

「俺はラインに材料を下ろした後にボイラー室に行って爆弾を設置する。厄介なのがこのボイラー室でいつも見回りがいる。手を貸して欲しい」


 これにカセムが答えた。


「このボイラー室の配置からして敷地の端にあるから向こうの建物から狙撃が出来るな。透過矢をライリーとソフィアが使えば見張りを狙撃して行動出来ないようにする事は出来るが、監視装置や他の見回りに見つかる可能性はある。それはどうする?」


「それについてはこの娘が清掃員のフリをして倒した奴らを押し車に乗せて運び出す。監視装置については下手に無効化すると見つかるからしない方が無難だな」


「なら、娘にはこの無線機を渡しておこう。王国製の通信用魔道具だ。ピアス型、チョーカー型、ベルト型がある。この国だとベルト型が無難か?」


 この提案について娘が答えた。


「うん。ベルトでいいよ。ピアスもチョーカーも清掃員が身に着けている事はこの国ではまず無いからね」


 それを聞いたカセムは収納魔法から通信機能のあるベルト型魔道具を取り出した。


「よし。……ではこれがそのベルトだ」

「ありがと」


「それと今回は派手な爆発で工場も更地になるだろうがなるべく民間人の被害は抑えたいところだ。それについてはどうする?」


「それも考えてあるよ。見た感じカセム達の今回の部隊は大所帯で魔法士も沢山いるね。爆発させるタイミングを調整して民間人を被害がない場所に誘導していくからある程度まとまったところで転送魔法で脱出させてくれない?」


「なるほど。それは名案だ。しかし、上手く行くのか? 神業のような気がするが?」

「それは私たちに任せて。爆弾魔って呼ばれているのは理由があるってこと」


 元兵士の冒険者もそれに答えた。


「ああ。俺たちは危険な仕事をいつもこなしてきた。この工場は危険な薬品も大量に扱っている。なので爆破のタイミングを間違えれば俺たちも死ぬ。王国軍の兵員の情報も十分に考慮して考えたつもりだ」


「なるほど。元兵士らしいな。分かった。それで行こう。だが、この国は魔法が珍しい。痕跡も違和感ですぐにバレてしまうだろうから。全てにおいてスピードと正確性が最も重要だな」


「ああ。その通り。では手筈通りによろしく」


 客室での打ち合わせを終えた一行は王国軍の部隊と合流し、作戦についてを説明した。今回の王国軍の役割は転送と狙撃が主で万が一のために備える部隊も工場からなるべく離れた街道で待機しすぐに国を脱出できるようにしている。

 待機順は今回の作戦にはあまり重要ではない兵員から先頭に配置しており号令がかかればすぐに移動を開始する。エリンの部隊も今回は潜入の仕事は無いのでここにいる。


 と言っても情報が敵に漏れている可能性も十分にあるので先頭で潜伏しながら様子を伺う事は安全上、有効であることであろう。

 エリンは今回の作戦では出番がない事に不満な顔をしているがこの先の東部諸国では潜伏スキルがかなり重要になってくる場所もあるのでそれまでは他人の秘密を眺めるくらいで我慢してもらうのがいいだろう。


 この先頭の馬車には王妃も乗っているのでアサシンが同行しているくらいがちょうどいい。エリンに王妃が大丈夫なのかと尋ねた。


「あ、あの。今回の作戦は大丈夫なんでしょうか?」

「はい。大丈夫でしょう。王国軍の装備があれば負ける事はありませんよ。王妃様も明日からはしばらく私たちとレジャーを楽しむくらいの気持ちでいてください」


「そ、そうですか。頼もしいです。私なんてどうしていいか分からず皆さんに泣き付く事になるなんて、もう恥ずかしいです」

「いえ。私よりも若いのに王妃をされているのは立派だと思いますよ。権力をふるって好き勝手したり欲に溺れて何もしなかったり。そんなのもいますから」


 エリンの言葉に少し安心した顔になった王妃は手の震えも収まった。馬車から見える工場で何が起こっているのかを時折、聞かされるがすぐにエリンがサポートして心を落ち着かせようとしていた。

 愛が重いエリンは人の感情の変化を読み取るのが上手いので思わぬところでそれを役立てている。愛情深さも重いというより良い意味で深ければ聖女のようになる日も来るのかもしれない。


 ふと、馬車の窓から工場の方を見ると黒煙が上がっている。作戦が開始されたようである。

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